中央アジアの塩湖。カザフスタン共和国とウズベキスタン共和国にまたがる。
[保谷睦子]
1960年代までは面積6万3400平方キロメートルで、アジアではカスピ海についで2番目、世界では淡水湖を含めて4番目の大きな内陸湖とされていた。しかし乾燥地帯にあるため面積は長期間にかなり変動し、水位変動も激しかった。深度は平均15メートル、最深点68メートル、透明度は25メートル、塩分濃度は海水の半分以下で10~14という数値が記録されているが、これらの数値も過去の高水時のものである。冬には水面は大部分結氷する。南岸からアムダリヤが、北東岸からはシルダリヤが岸辺に大きな三角州をつくって流入するが、流れ出る川はない。西岸は高さ約75メートルの崖(がけ)が連なり、北岸は低く不規則な湾で屈曲し、東寄りの湾奥にはアラリスクの港がある。東岸には岸沿いに多数の小島があることから、トルコ語で「島」を意味する「アラル」と名づけられた。第三紀には黒海、カスピ海とともにひと続きの海をなしていたため、そのころの生物が残存し、固有種が多く、チョウザメ、コイなどの魚族もかなり豊富であった。1950年代にアムダリヤやシルダリヤの水を大規模な灌漑(かんがい)に利用する工事が始まり、その進展につれてアラル海の水位低下が起き、漁業や環境に深刻な影響を与える「アラル海問題」が発生した。
[保谷睦子]
ソ連時代、ウズベキスタンを中心とする綿の生産には、アムダリヤ、シルダリヤの水が灌漑に利用された。そのためアラル海が干上がり、その水位(海抜高度)は、1960年の53メートルから1994年までに16メートルも下がった。1988年には湖水が二つに分かれ、面積も1991年には二つの湖水をあわせて3万3800平方キロメートルと、約半分になった。こうした状況はソ連崩壊後も基本的には変わらず、21世紀の前半にはアラル海は消滅するおそれに直面している。また綿花生産に投入された化学肥料や農薬、湖底の塩などが、湖水が干上がったために飛散し、人々の健康を害し、アラル海の南岸に位置するカラカルパクスタン(ウズベキスタン共和国内の自治共和国)の幼児死亡率はウズベキスタンの4倍である。湖水の減少は、塩分を約3倍に濃くして魚類を死滅させ漁業を破滅させたばかりでなく、気候にも影響を与え始めている。綿の栽培を減らすか、水漏れやむだ遣いをなくすため、灌漑システムを近代化することが急務である。流入河川沿岸の中央アジア諸国は1994年、取水量の節約と、年間予算の1%を水量回復事業に拠出することに合意している。
[木村英亮]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
中央アジアのカザフスタンとウズベキスタンとの間にひろがる塩湖。アラルはトルコ語で〈島の多い〉の意。1960年ころまでの面積6万6458km2は,世界の湖沼では4番目の大きさで,水量も1090km3あった。しかし,1950年代から湖に流入するアム・ダリヤとシル・ダリヤの流域で,綿花生産発展のために大規模な灌漑施設の建設が行われ,それによる河川からの大量の取水により,両河川からの湖への流入量は急速に減少していった。このため,湖は76年,面積5万5700km2,水量763km3となり,91年には水量減少のため南の大きい水域と北の小さい水域に分離し,両者合わせて面積3万3800km2,水量290km3にまで縮小した。80年代中ごろには漁業は消滅,露出した湖底から塩類や多量の塩類を含む砂が飛散し,農薬などによる水質悪化が進んでいる。
執筆者:小野 菊雄
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