精選版 日本国語大辞典 「アルファベット」の意味・読み・例文・類語
アルファベット
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原則として1文字が1音を表す東地中海地方起源の文字体系で、今日では英語をはじめとする多数の言語の表記に用いられている。アルファベットという名称は、この文字体系の最初の2字のギリシア名アルファおよびベータから出ているが、これらは古代セム語でそれぞれ「牛」および「家」を意味する語とつながりをもつ。
アルファベット成立の事情については不明の点が多いが、紀元前2000~前1500年間に、東地中海地方でセム語族に属するフェニキア人によってつくりだされたと思われる。アルファベットの祖型に近いものとしては、20世紀初頭にシナイ半島で発見されたシナイ文字があり、またほぼ同じころビブロス旧址(きゅうし)でみつけられたビブロス文字は、古代エジプトのヒエログリフとフェニキア・アルファベットの橋渡しをなしているものと考えられる。
シナイ文字およびフェニキア文字は22個からなり、子音しか表記しなかったが、この方式は今日使われているアラビア文字やヘブライ文字の用法に継承されている。この初期アルファベットはアクロフォニー(頭音)の原理によってつくりだされた。これは、ある語の図形でその語の頭音を代表させるもので、たとえば「牛」の図形でその語'alefの頭音’(一種の喉音(こうおん)を表す)を、また「家」の図形でその語bētの頭音bを表した。初期のフェニキア文字刻文としては、シャパトバアル刻文、アヒラム王刻文、ゲゼルの農業暦、メシャ王刻文などがあり、前13~前9世紀のものとされる。
フェニキア人は地中海周辺各地に移民したため、フェニキア文字は広範囲に使用された。ギリシア人はフェニキア文字を借用してギリシア語を表記したが、このとき若干のフェニキア文字を母音の表記用に用いた。こうして今日のA、I、U、E、Oなどの原型ができた。このギリシア文字は今日でも現代ギリシア語の表記に用いられている。またギリシア文字からスラブ系諸文字がつくられ、今日のロシア語、ブルガリア語、セルボ・クロアチア語などの表記に使われている。他方、中部イタリアの古代民族エトルリア人はギリシア文字を借用したが、ラティウム出身のローマ人はこの文字を借りてラテン語を表記するようになった。このラテン文字(ローマ字)は、そののち西ヨーロッパ諸語の表記に使われるようになり、アルファベット文字体系の代表とみなされるに至った。
ラテン文字は近代のアルファベットの大半を含んでいるが、古期にはCとG、UとVの区別がなく、IとJの区別も近代になってからのものである。また、アルファベット文字体系は本来は1文字が1音(もとは単子音)を表したが、ギリシア文字のψ[ps]、ラテン文字のx[ks]、ロシア文字のщ[ʃtʃ]などのように複音を表すものも付け加えられている。
フェニキア文字からアラム文字が生じて、東方における多くの文字体系に発展した。シリア文字、イラン系諸文字、モンゴル文字などがそれであり、カフカスのアルメニア文字とジョージア(グルジア)文字は今日も用いられている。またアラム文字は前5世紀前後にインドに伝えられ、インド系諸文字および東南アジア諸文字を生ぜしめた。文字の構造の点からみれば、単音表記のアルファベット文字は、ここでは母音を表す記号と組み合わされて、日本文字体系における仮名文字のような音節文字になり、文字数も数百個に増えた。同じことはフェニキア文字、南アラビア文字を介して生じたエチオピア文字についてもいうことができる。これらの音節文字はアルファベット大体系に属する文字体系ではあるが、もはやアルファベット式ということはできなくなっている。
本来のアルファベット文字体系の特徴は、それ以前に使われていた楔形(くさびがた)文字やヒエログリフの体系に比して文字数がきわめて少ない点にあり、フェニキア文字では22個、古典期のギリシア文字では24個のみが使われた。のちに近代諸語の表音に使われるようになり、英語で26、ロシア語で33というように若干文字数が増えたが、この程度の文字数は学習が容易であり、識字率の増大、知識の普及、情報交換の能率化に貢献している。
他方、アルファベット大体系には属さない文字体系にも、アルファベット式文字が使われていることがある。古代エジプトのヒエログリフで使われている約24個の単音文字、東地中海岸の古代都市国家ウガリットで使われていた、30個の子音のみを記す楔形文字などがあげられる。
なお、一般に各言語がもっている基本的音韻あるいはそれを表記する文字を、その言語のアルファベットとよぶ場合もある。
[矢島文夫]
1字1音の原則にもとづく表音文字体系。祖型は前2千年紀前半の原カナーン文字。ここから同千年紀半ばすぎに北セム系と南セム系の2系統が生まれた。これらは文字の配列順序だけでなく,全文字の半数程度の字形が異なる。文字はすべて子音字。北セム系はウガリト文字の他はすべて線状文字で,フェニキア文字に至って確立。前1千年紀に入ると,ここから現行の全東方文字(漢字系を除く)の母体となったアラム文字と,ラテン文字系やロシア文字系を含む全西方文字の母体となったギリシア文字が生まれた。ギリシア文字の段階で母音字が加えられた。他方の南セム系は,前2千年紀末にラクダを使う隊商交易が行われるようになると,隊商路に沿ってアラビア各地に伝播し独自の発展をとげた。なかでも南アラビア文字を母体とするエチオピア文字は,3~4世紀には音節文字に変貌した。南セム系で現在も使用されているのはこれのみで,他はすべてアラム文字系のアラビア文字にとって代わられた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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(2015-8-13)
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…使用された文字はアッカド語に由来する楔形文字が最も多いが,エジプト語やヒッタイト語の聖刻文字,エーゲ海域に由来する音節文字なども見られる。文字に関して最も注目されるのは,楔形文字を転用した独自のアルファベットがウガリト語とフルリ語のために用いられたことである。それは30字からなり,原シナイ文字に続く世界最古のアルファベットの一つであり,上述の工芸品と共に後世のフェニキア文明の原型をなしている。…
…文字形成の素材は人体,人体の各部分,人の動作,動物(鳥,獣,魚,爬虫類,虫),植物,地形,天体,建造物,祭器,装身具,武器,農器具,道具,容器,食物など万般にわたり,基本的な文字の数は700余り。各文字は本来素材そのものを示すもの(表意文字)であったが,早くから音の転用による表音文字の働きをもするようになり,さらには〈頭音acrophony〉の活用によって24個のアルファベットが定められた。これは今日世界で広く用いられている各種アルファベットの遠い祖先である。…
…のち彼は王位を孫のペンテウスに譲り,妻を伴って赴いたイリュリアの地で,夫婦ともにゼウスによって蛇に変えられ,エリュシオンの野に送られたという。彼はまたフェニキアからギリシアへアルファベットを伝えたといわれる。テーベ伝説【水谷 智洋】。…
…漢文明が大河大陸性の文明であるのに比して,ギリシア文明は海洋性の特色が強い。しかし両文明,とりわけ文学の道を大きく分かつことになっているのは,漢字とアルファベット文字の違いである。漢字は象形文字から発達した複雑・多数の文字であるに比して,ギリシア語は前12世紀ごろは音節文字(約100個の文字による仮名記法)を,前8世紀以降は音声を24個の簡単な字による母音・子音の組合せとして表記するアルファベット記法を用いた。…
…たとえば,呪文として名高い〈アブラカダブラabracadabra〉はグノーシス派(グノーシス主義)の儀式にさかのぼり,呪術師が熱病を起こす悪霊の名〈アブラカダブラ〉を頭から順々に1字ずつ消していき,最後にA(アレフAleph=原一者,全能の神のしるし)を残すことによって病を治したといわれるが,部外者には単純な文字遊戯にも見える。西洋のアルファベットは,カバラ的神秘主義によれば,創造主エロヒムの手になるセフィロト(書かれたもの)から精霊が1文字ずつ切り取って石に造形したものとされ,全宇宙はこれらの文字のひそかな組合せによって支えられているとされる。イギリスの〈マザーグース〉をはじめ,西洋の童謡に広く見られる〈アルファベット歌〉の背後にも,そうした〈言霊信仰〉の余韻を聞くことができよう。…
…シリアはまた,他民族に見られない世界史への貢献もなしとげた。第1は,前2千年紀にフェニキア海岸で発明されたアルファベットである。これは西方では欧米の文字,西アジアではアラム文字やアラビア文字の起源となった。…
…古くは象形と指事とによるものを〈文〉と呼び,形声と会意とによるものを〈字〉と呼んだことがあったが,象形と指事とによるものがまずつくられたものであって,いずれも絵画的な象形文字に由来する。 ローマ字は〈ラテン・アルファベットLatin alphabet〉と称せられるように,ラテン民族によってつくりあげられた文字であるが,起源的にはロシア文字などとともにギリシア文字に由来する。ギリシア人はその文字をフェニキアの文字から借りたと信じていた。…
※「アルファベット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物。「推しの主演ドラマ」[補説]アイドルグループの中で最も応援しているメンバーを意味する語「推しメン」が流行したことから、多く、アイ...
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