一般興行からはずされた〈芸術性の高い〉映画を上映する劇場を指す。上記のフランス語は〈芸術実験劇場〉くらいの意だが,日本では〈アート・シアター〉という日本独自の訳語があてられている。1920年代に〈アバンギャルド映画〉を専門に上映する映画館をつくったパリの何人かの館主たちが中心になって,フランス中央映画庁(CNC)の要請で,フランス・アート・シアター協会(AFCAE)を結成したのが54年10月であった。そして,55年1月にはドイツ・アート・シアター・ギルドGilde Deutscher Filmkunsttheaterと協議の結果,国際アート・シアター連盟(CICAE)の基礎が築かれ,57年,カンヌ映画祭に集まったフランス,イギリス,ドイツ,オーストリア,ベルギー,スイス6ヵ国のアート・シアターの代表者たちによって正式に結成され,ユネスコを通じて各国間の映画選定および上映の疎通をはかることが計画された。同年秋,すでにドイツに60館,フランスに42館,イギリスに2館の加盟館ができた。初代AFCAE名誉会長であり,CICAEの代表であるアルマン・タリエが中心になって起草されたアート・シアターのブッキングに関する要綱(1957)によれば,(1)芸術的価値がありながら一般の商業ルートからもれた映画作品,(2)映画芸術の発展と革新に寄与する映画作品,(3)その国の生活・文化を伝える外国映画,(4)実験的な価値の高い短編映画を積極的に上映すること,そしてその具体的な条件として,映画館あるいは興行主が,年間を通しての上映番組のうち,50%は映画の〈古典〉,25%は映画芸術を刺激する意欲的な新作,10%は独創的な才能が認められる新人の自主製作映画という内容であることを規定した。これが今日に至るアート・シアター運動の基本的な原理になっている。
日本でも〈市場に恵まれない芸術作品の上映を推し進める〉との趣旨で,川喜多かしこ,ジャーナリスト草壁久四郎,映画監督羽仁進,勅使河原宏らが中心になり,当時東宝の副社長だった森岩雄(かつて,フランスのアバンギャルド映画群を日本に紹介するための〈良い映画を讃める会〉の運動を推進した中心的人物の一人)に働きかけて,〈日本アート・シアター・ギルド(ATG)〉が62年に発足。数年後に,パリに本部のあるCICAEに加盟した。ポーランド映画《尼僧ヨアンナ》を皮切りに,未公開の外国映画の芸術的名作を次々に公開したが,66年からは,おりから急速に目だってきた独立プロダクションの進出に対応して,〈1000万円映画〉(現在は〈2000万円映画〉)を旗印に,製作費の半額を資金援助するかたちで,今村昌平監督の《人間蒸発》を第1作として日本映画の製作・上映にも乗り出し,74年公開のフランス映画《ミュリエル》を最後に,現在は外国映画の上映は行っていない。ATG上映館は当初は全国8都市にチェーン館が10館あり,〈加盟館〉は30館にも達したが,採算がとれず次々に脱落。現在は東京に1館あるのみである。〈アート・シアター・ギルド〉の名称は森岩雄の命名になるもので,アメリカやイギリスにその名の組織があるわけではないが,アメリカでは1950年代初頭から非ハリウッド映画=芸術映画=ヨーロッパ映画を求める新しい観客のために,〈アート・ハウスart house〉と呼ばれる小さな映画館が大学街やニューヨークその他の大都市に生まれ,イタリアのネオレアリズモやイギリスのバルコン・タッチの喜劇映画,ジャン・ルノアールやイングマール・ベルイマン監督の作品などを上映しつづけている。1920年代にドイツ表現派の作品やロシア・アバンギャルドの作品を上映したアメリカの前衛映画劇場が,フィルムアート・シアターFilmart Theatreの名で呼ばれたことがあるとのことで,英語のart theatreはむしろ芸術的・前衛的〈演劇〉およびその劇場を指す言葉である。なお,ATG発足当初の目的であった〈名画上映運動〉は,74年に岩波ホール総支配人の高野悦子と,フィルムライブラリー助成協議会(現,川喜多記念映画文化財団)代表の川喜多かしこ両人の主宰によってスタートした〈エキプ・ド・シネマ〉に受け継がれている。
執筆者:宇田川 幸洋+山田 宏一
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