日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
イオン交換クロマトグラフィー
いおんこうかんくろまとぐらふぃー
ion-exchange chromatography
イオン交換樹脂その他のイオン交換体を固定相(吸着剤)として試料溶液中の目的成分を分離・定量する方法で、液体クロマトグラフィーの一つ。一般には、イオン交換樹脂を詰めたカラム(管柱)の上端に試料液を入れ、ついで適当な電解質溶液を移動相として展開すると、成分イオンの樹脂に対する親和力(イオン交換能)の差によってイオンが選択的に捕捉され、分離されてカラムの下端から順に溶出する。陽イオンの分離には陽イオン交換樹脂が、陰イオンの分離には陰イオン交換樹脂が使われる。イオン交換樹脂は交換容量が大きく、またその種類や、移動相として用いる電解質溶液の種類がいろいろ変えられ、溶液の水素イオン濃度指数(pH)、イオン強度、錯体の生成能などの変化によっても分離係数を大きくすることができ、他の方法では分離が困難な電解質の分離・定量が可能である。歴史的にも、核分裂生成物の分離に威力を発揮し、また超ウラン元素の分離に用いられ、新元素の分離、確認に大きな貢献があった。装置を簡単に自作でき、反復して使用できるので、実験室のみならず工業的にももっとも広く利用されている分離・定量法の一つである。イオン交換体としてイオン交換容量が0.01~0.1meg/gと小さく、高圧に耐えうる機械的強度をもち、収縮や膨張が少なく、pHのかなり広範囲の溶液で使用できるような特殊なものを用い、定流量加圧送液ポンプで加圧により溶離展開を迅速にする方法がある。基本的には高速液体クロマトグラフィーの場合と同じで、溶離液貯留槽、ポンプ、試料注入器、分離カラム、検出器、溶出液貯留槽で構成されている。この装置をイオンクロマトグラフ、またこの方法をイオンクロマトグラフィー(IC)という。検出器には、電気伝導度検出器、紫外・可視吸光光度検出器、蛍光光度検出器、電気化学的検出器などがあるが、感度が高く、応答性や直線性に優れ、汎用(はんよう)性のある電気伝導度検出器を用いることが多い。この場合、溶離液である電解質溶液自身の電気伝導率が大きく、測定イオンの電気伝導率の微少変化を検出することがきわめて困難である。そのためのバックグラウンド減少装置(サプレッサー)をカラムと検出器の間に用いるか、有機酸系緩衝液などの低電気伝導率の溶離液を用いるなどの方法がとられている。前者をサプレスト式、後者をノンサプレスト式という。イオンクロマトグラフィーは、ほとんどの無機陽イオン、無機陰イオン、有機酸、その他のイオンの分離分析に有効な方法であり、少量の試料で複数のイオンを同時に測定でき、共存物質の干渉も少なく、高感度で自動化が容易であるなどの特徴をもっている。このため、EPA(アメリカ環境保護庁)、JIS(ジス)(日本産業規格)、ISO(国際標準化機構)などで公定法として採用されている。
[高田健夫]
『日本分析化学会編、吉野諭吉・藤本昌利著『分析化学講座 イオン交換法』(1957・共立出版)』▽『日本分析化学会編、武藤義一他著『機器分析実技シリーズ イオンクロマトグラフィー』(1988・共立出版)』▽『佐竹正忠・御堂義之・永広徹著『分析化学の基礎』(1994・共立出版)』