イソギンチャク(英語表記)sea anemone
actinie[フランス]

改訂新版 世界大百科事典 「イソギンチャク」の意味・わかりやすい解説

イソギンチャク (磯巾着)
sea anemone
actinie[フランス]

花虫綱イソギンチャク目Actiniariaに属する腔腸動物刺胞動物)の総称。和名は,きんちゃくに体が似ていることによる。すべて海産で,淡水産のものはない。世界で約800種,日本では67種が知られている。なお,広義にはスナギンチャク目,ハナギンチャク目などの腔腸動物(刺胞動物)も含めることもある。

体は円筒状で上端は口盤になり,下端は足盤でこれで岩など他の物に着生する。体色には,赤色,紫色,緑色や斑紋が入ったものなどがあり,タテジマイソギンチャクコモチイソギンチャクなどは,色彩が個体によって変化している。触手は先端がとがっているのがふつうであるが,イワホリイソギンチャクのように球状になっているもの,枝分れしているものもある。触手は大部分が中央に近い列から6の倍数の本数が並んでいる。触手には,刺細胞という毒液を内蔵した一種の武器が多数埋めこまれていて,触手に小魚や他の餌が触れると刺糸がとびだして相手の体に突き刺さり,毒液で麻痺させてから触手で口の中へ運ぶ。口から円筒状の食道に続き,その奥は広い大きな室の胃腔になっている。この胃腔には外側から内に向かってのびている薄い膜でできている隔膜が放射状にでている。隔膜は成長に伴って数を増すが,ほぼ6の倍数で増える。隔膜のへりにも刺細胞があり,触手の刺細胞で不十分な場合は,ここでさらに麻酔し,消化,吸収する。また隔膜には簡単な卵巣や精巣ができる。イソギンチャクには,肛門がないので不消化物は口からだされる。体壁の筋肉がよく発達していて,体壁をのばしたり,機敏に収縮することができる。体の後端が足盤になっていて,これを広げて他の物に付着するが,ムシモドキギンチャクのように底球になっているもの,またウキイソギンチャクのように足盤がうきの形になって海面をプランクトン生活するものもある。ふつう雌雄異体であるが同体のものもある。

生殖には無性生殖と有性生殖とがある。無性生殖ではタテジマイソギンチャク,ヒオドシイソギンチャクのように,体が縦に分裂して2個体になるもの,またオヨギイソギンチャクのように触手の基部から出芽して大きくなり,やがて親から離れていくものもある。有性生殖では,胃腔内の生殖巣から精子あるいは卵子が海水中に放出される。体外受精した受精卵は体表面に繊毛がはえているプラヌラ幼生になって水中を泳ぎまわるが,やがて他の物に付着してポリプ型の個体になるのがふつうである。しかし,ウメボシイソギンチャクは,卵胎生で変態を終えた小さなイソギンチャクを母体から生み出す。また,コモチイソギンチャクは体内受精ののち,母体内でプラヌラまで育てて,その後,親の体壁にあるいぼの上に付着させ独立するまで育てている。

イソギンチャク目の種類は単体で生活し,スナギンチャク目のように群体をつくり共肉で連なることはない。岩石,貝殻やその他のものに付着したり,砂の中に潜っている。物に付着しているものも足盤面の蠕動(ぜんどう)様の動きで移動することができる。フウセンイソギンチャクヒトデに襲われると風船のように膨らんで2~3mも泳いで逃げる。オヨギイソギンチャクは,ときどき触手を後方へ動かして水を打ち,触手を前方にして泳ぐ。一般にイソギンチャクは,長生きするものでウメボシイソギンチャクが66年間飼育された記録がある。海水を清浄に保ち,ときどき餌を与えるとコップの中でも長時間飼育することができる。

イソギンチャクには,特定の動物に着生または共生するものが多い。ウスアカイソギンチャクはヤギ(腔腸動物)の体上に群をつくり,タテジマイソギンチャクは,カキの貝殻の上を好む。共生生活を行うものには,ヤドカリイソギンチャクや,ベニヒモイソギンチャクがヤドカリの入っている貝の上に付着し,ある種のイソギンチャクは,キンチャクガニやトゲツノヤドカリのはさみにつく。このような状態は,イソギンチャクにとっては餌をとる機会が多くなり,カニやヤドカリにとっては,外敵から身を守ってくれる保護者になる。

 ハタゴイソギンチャクサンゴイソギンチャククマノミ亜科などに属する魚と共生する例は有名である。クマノミ類の二十数種類とスズメダイ科の数種類がイソギンチャクの触手の間に潜りこんでも,これらのイソギンチャクに食べられることはない。一つのイソギンチャクは1尾または雌雄1対のクマノミによって占有され,クマノミは他の魚がイソギンチャクに近づくと激しく攻撃して追い払う。イソギンチャクはクマノミが口にくわえてきた餌を刺胞毒で麻痺させてから食べる。クマノミは,イソギンチャクの口のまわりにでてくる未消化物を食べるほかに,ときにはイソギンチャクの触手を食いちぎって食べる。また,隠れ家としても利用する。クマノミがイソギンチャクに刺されないのは,彼らの体表の粘液に刺胞の発射をおさえる物質が含まれていることによることがわかっている。天敵にはニシキウズガイ(巻貝),ミノウミウシの1種,ヒトデの1種のほか,タラ,ヒラメウナギイソギンポなどの魚がいる。

ほとんど利用価値のない動物であるが,九州の柳川付近では俗にイシワケとかハナワケと呼んでいるもの(どの種類にあたるかは不明)をみそ汁の中に入れ食用にし,一方,地中海ではAnemonia sulcataという種類を食用にし,これはオムレツのような味がするといわれている。また,ミクロネシアではベニヒモイソギンチャクを食べている。
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百科事典マイペディア 「イソギンチャク」の意味・わかりやすい解説

イソギンチャク

腔腸(こうちょう)動物花虫綱イソギンチャク目の総称。直径0.5〜70cmまで多くの種類がある。体は円筒形,口の周囲にある多くの触手で餌を取り込み,同じ口から排出。すべて海産で,岩についたり砂中に埋まっている。ウメボシイソギンチャク,タテジマイソギンチャク,モエギイソギンチャクなどが普通。ハタゴイソギンチャクやヤドカリイソギンチャクなどのように魚や甲殻類と共生するものもある。
→関連項目腔腸動物

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ダイビング用語集 「イソギンチャク」の解説

イソギンチャク

イソギンチャク類は一般的に大きなポリプを持ち、小型の動物を餌にして生活している。ダイバーに多大な害を与えるものは少ないが、まれにポリプなどに直接触れると強烈な刺激を与えるものもある。

出典 ダイビング情報ポータルサイト『ダイブネット』ダイビング用語集について 情報

世界大百科事典(旧版)内のイソギンチャクの言及

【口】より

…腔腸動物では消化管には肛門がなく,その主部である胃腔が出口を兼ねた口に続いている。イソギンチャク類などでは,胃腔の中へ口がおち込んだ形になって,管状の口道が形成され,口道の外側を口,奥側を口道内口という。腔腸動物の体は放射型で前後軸はなく,浮遊性のクラゲ型のものでは口側を下面に,着生性のポリプ型のものでは口側を上面にしている。…

※「イソギンチャク」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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