イタリア料理(読み)いたりありょうり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イタリア料理」の意味・わかりやすい解説

イタリア料理
いたりありょうり

イタリアは地中海世界の中心にあって、古くからさまざまな文化が渡来し、融合した、いわば、るつぼのような所であった。古代ではエトルリアギリシアローマ中世ではビザンティン、アラブなど多様な文化が各地で栄えた。そのため、イタリアの料理文化は歴史も古く、内容も多様である。なかでもローマ人は美味求真の民であり、ケーナとよばれる夕べの宴に、贅(ぜい)を尽くす民族であった。9世紀には優れた農業技術をもつアラビア人がシチリア島を支配し、イネサトウキビサフランなどの栽培法を伝えた。

[西村暢夫]

都市国家ごとの味

中世からルネサンスにかけてイタリアでは都市国家が興隆し、料理文化もその都市国家ごとの特徴をもつようになる。すなわち、ベネチア料理(たとえばイカの墨煮などの魚料理やトウモロコシ粉を使ったポレンタ)、ロンバルディア料理(リゾットとよばれる米料理)、ボローニャを中心としたエミリア・ロマーニャ料理(サラミソーセージ、ソーセージ、パルメザンチーズなど肉やミルクを材料にした食品、ラビオーリラザーニャなどの生(なま)パスタ)、フィレンツェ、シエナ、リボルノなどのトスカナ料理(フィレンツェ風ビフテキ、ポルチーニというキノコ料理)、ジェノバを中心としたリグリア料理(ソースのペースト・ジェノベーゼを使ったパスタ料理)、ローマを中心としたラツィオ料理(ローマ風サルティンボッカの肉料理やローマ風ニョッキ)、ナポリ料理(ズッパ・ディ・ペーシェという魚料理、ナポリ風ソースのスパゲッティやピッツァ)、シチリア料理(イワシ入りパスタ料理)などの誕生である。

 そしてこれら都市文明の所産である料理文化が、アルプスを越えてフランスに入っていったのである。日本ではいままで、西洋料理といえばフランス料理と考えられていたが、最近では西洋料理の起源であるイタリア料理が大きく見直されている。

[西村暢夫]

イタリア料理の共通項

各都市、各地方ごとに特徴をもつ多様なイタリア料理にも、共通する面、全体を通しての特徴がないわけではない。その一つは、サルサ・ディ・ポモドーロとよばれるトマトソースで、イタリア料理全般に欠かすことのできないものである。新大陸発見後イタリアに入ったトマトは、ナポリを中心に栽培され、果肉が厚く酸味や水分の比較的少ない優れたものになった。もう一つの共通材料はオリーブ油である。イタリア料理の味つけにオリーブ油は欠かすことのできない調味料で、インサラータ・マリナーラとよばれる海の幸のサラダや、野菜サラダのドレッシングに用いられる。焼き魚にもオリーブ油をかけて食べる。材料の持ち味をなるべく生かして食べるのがイタリア料理の特色であり、そのためにも、自身の味はやさしく、むしろ他の味を引き出す力のあるオリーブ油が一役も二役も買っている。

[西村暢夫]

地方色のあるワイン

ワインもイタリア料理には欠かせない要素である。『尊ぶべき喜びと健康について』という料理書を著したバルトロメオ・サッキ(1421―81)が、「ワインのない食事は楽しくないばかりか健康によくない」といっているように、イタリア人はワインを食事の基本要素と考えている。イタリアのワインには、ベネトのソアーベ、ピエモンテのバローロやバルベラ、リグリアのボルチェベラ、エミリアのランブルスコ、トスカナのキアンティ、ラツィオのフラスカーティやエスト・エスト・エスト、カンパニアのラクリマ・クリスティ、シチリアのマルサラやコルボなど多種多様である。そしてこれらのワインは、長い歴史のなかで、すべてその土地の料理にぴったりあうようにできている。つまり、地酒でその土地の料理を食べるのが、イタリア料理のいちばんおいしい食べ方なのである。

[西村暢夫]

食事の習慣

イタリア人はよく食べる国民であるといわれている。フルコースでは、まず食前酒で胃を適度に刺激し、アンティパスト(前菜)、プリモ・ピアット(第一の料理で、ここでスープあるいはパスタ類、またはリゾットが出る)、セコンド・ピアット(第二の料理で、肉や魚のメイン料理が出る)、それに取り合わせの野菜料理や野菜サラダ、それからチーズ、菓子、果物、コーヒー、食後酒と続く。食事中はパンとワインが最初から最後までついている。ただし、このような食事はお客を接待するような特別の場合が多く、普通の家庭の食事はもう少しつつましい。イタリア人の普通の食事は、朝食はミルクコーヒーにパンかケーキのごく簡単なもので、昼食は比較的重く、スープかパスタ類、それに肉か魚、野菜サラダ、果物、チーズ、菓子、コーヒーなどをとる。夕食は、昼が重ければ少し軽くする程度で、基本的には昼食と変わらない。もちろん場合によっては、ピッツァ屋からピッツァを買ってきて、それで一食すませることもある。日本と完全に違うのは昼食も夕食も家族全員がそろって食事をすることである。これはイタリア人が生活のなかで食事をいかにたいせつにしているかよくわかる習慣である。

[西村暢夫]

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百科事典マイペディア 「イタリア料理」の意味・わかりやすい解説

イタリア料理【イタリアりょうり】

イタリア料理の歴史は古く,1世紀ごろのローマの富豪G.アピキウスの著といわれる調理書が写本として残されている。16世紀にカトリーヌ・ド・メディシスがフランスのアンリ2世に嫁いだ際には,調理人を連れていってルネサンス期のフィレンツェの食事文化をフランス宮廷に紹介したといわれる。実際にはそれ以前から,文物の往来とともに料理文化の交流もあったと思われる。今日のイタリア料理の基礎を確立したのは〈イタリア料理の父〉といわれるP.アルトゥージで,1891年に《調理科学と食事法》を著し,スープ,オードブル,ソースといった項目別に料理を整理した。貴族の料理と農民の料理を一つにまとめ,また各地方の料理も広くとりあげている。 イタリアでは,パン以外にも北部ではリゾット(米とタマネギをバターで炒めブイヨンでたいたもの)やポレンタ(トウモロコシの粉にブイヨンを加え火にかけて練ったもの),南部では各種のパスタが常食とされる。とりわけパスタは,17―18世紀にトマトソースが作られるようになって急速に普及した。三方を海に囲まれたイタリアでは,魚介類を使った料理も数多い。特産のオリーブ油が料理にふんだんに使われる。イタリア料理のコースでは,一皿目にパスタかスープかリゾットをとり,次に肉か魚のメーン料理を食べる。これにパンと野菜とワインがつく。最後に果物やチーズ,菓子,コーヒーが出る。 20世紀前後にアメリカに移住したイタリア人によってイタリア料理が世界に広まり,日本でも1970年代ごろから注目されて,日本人の麺(めん)好きと相まってスパゲッティマカロニピッツァなどのパスタ料理が定着していった。

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世界大百科事典 第2版 「イタリア料理」の意味・わかりやすい解説

イタリアりょうり【イタリア料理】

イタリア料理の歴史はヨーロッパ諸国のなかでも最も古い。1世紀ごろティベリウス帝時代のローマの富豪といわれたアピキウスの著と推定される調理書が,写本で残されているし,ローマ帝政時代,属州から珍しい物産を集めて食事に贅の限りを尽くした貴族の生活ぶりは,当時の文献からも知られる。11世紀には,フォークがビザンティン帝国からベネチアに伝えられている。16世紀,カテリーナ・デ・メディチがフランスのアンリ2世に嫁いだときは,調理人まで連れて行ったばかりでなく,ルネサンスの中で開花したフィレンツェの食事文化をフランスの宮廷に紹介したといわれる。

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世界大百科事典内のイタリア料理の言及

【西洋料理】より

…現在,イギリス,アメリカをはじめ各国で,正餐(せいさん)(ディナー)にはフランス料理が用いられることが多い。フランス料理(2)イタリア料理 古代ローマ以来の長い歴史を誇るイタリアでは料理も早くから発達し,ルネサンスの時代には,フランス料理に影響を与えて,その発達の契機になったといわれる。恵まれた気候風土がもたらす豊かな産物と,食べることをひじょうに重視する国民性が結びついて,数多くのパスタ,地中海の海の幸を生かした魚介料理,トマトやオリーブ(オリーブ油)の多用などに特徴づけられる,個性豊かな料理が生み出された。…

※「イタリア料理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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