翻訳|ink
インクともいう。インキを用途別に分類すると,筆記用インキ(タンニン酸鉄インキ,色インキ,墨汁など),印刷インキ,各種の特殊インキなどがあるが,単にインキという場合は,タンニン酸鉄インキ(ブルーブラック・インキ)を中心とした筆記用インキを指す。筆記用インキの歴史は紀元前2500年にさかのぼり,エジプトや中国では当時すでにランプのすすで作った今日の墨を使用していた。タンニン酸鉄インキが出現したのは紀元前210年といわれるが,現在のブルーブラック・インキに近い形に完成したのは19世紀である。今日のインキは鉄(Ⅱ)塩,タンニン酸単独またはタンニン酸と没食子酸の混合物,および少量の無機・有機酸,防腐剤,青色染料などの混合水溶液である。タンニン酸や没食子酸に鉄(Ⅱ)イオンを加えると無色の物質ができるが,これは紙上で空気酸化され水に不溶の黒色の鉄(Ⅲ)塩となり耐久性色素が形成される。筆記するうえで無色のインキでは不便なので,筆跡が識別できるように青色染料を混ぜておく。ブルーブラック・インキで書いた筆跡が何世紀を経ても読めるのは鉄(Ⅲ)塩の耐久性による。ブルーブラック・インキの処方の一例を表に示す。
一般の商品では染料として用いるインキブルーの濃度は1%以下である。また加える無機・有機酸のためpHは1.0~3.0の範囲にある。タンニン酸,没食子酸以外の多くの芳香族ポリヒドロキシ化合物が研究的に試みられたこともあるが,この2者以外に実用される化合物は得られなかった。耐久性のあるインキをつくるためには,オルト位に2個のヒドロキシル基,またはヒドロキシル基とカルボン酸基が必要である。あるいは3個の隣接したフェノール性ヒドロキシル基が必要であるという説もある。いずれにせよ,ブルーブラック・インキの本体は鉄(Ⅱ)イオンをもつ錯化合物であり,これが紙上で酸化され,鉄(Ⅲ)イオンの複雑な構造をした錯化合物に変化し,不溶で堅牢な色素となるものと考えられる。
コロイド状のプルシアンブルーを水に加えたインキもある。これは,光,インキ消しには強いが,アルカリに弱く,金ペンを侵す欠点がある。特殊なものとしては水洗できる耐久性のない青インキもあるが,これはインキブルーを水に溶かし,グリセリン,チモールを加えて製造される。製図用黒インキは,カーボンブラックを各種の分散剤,保護コロイドとともに水に分散させたもので,筆記用インキとしても使用されるが,ブルーブラック・インキのように紙に浸透する性質が乏しいため,一般に摩擦には弱い。色インキは,おもに塩基性染料,蛍光をもった染料を水に溶解したものである。塩基性染料のものは,色が豊富で美麗だが,耐光性は低い。
→印刷インキ
執筆者:新井 吉衞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…軟体動物頭足類特有の器官で,直腸上の肛門のすぐ背側にある墨汁囊ink sac中にあって墨汁ink(いわゆるイカの墨)を分泌する腺。墨汁囊はスポイト状で,輸管(墨汁管)には開口近くに括約筋が二つあって墨汁の排出を制御できる。墨汁腺ないしは墨汁囊は二鰓(にさい)類Coleoideaに特有のものと考えられ化石にもあらわれる。オウムガイ類や他の頭足類にはみられない。また,発生初期からあらわれ,孵化(ふか)幼生(頭足類の場合一般の“幼生”とは異なるが)はすでに墨汁を吐く性質をもっている。…
…紙を意味する英語のペーパー,ドイツ語のパピール,フランス語のパピエ,ロシア語のパプカなど,みなパピルスから出ているので,パピルスを紙の始まりであるかのように考え,プリニウスの記述中に見える〈テクスントゥルtexuntur〉(織る,置く,作る)を〈漉(す)く〉と訳した例もあるが,漉くという操作を経ずに,水に浸してプレスしただけのパピルスは本質的に紙とはいわれない。粗質多孔の植物繊維であるため,これに文字をしるすには特別のインキが必要とされる。インキはすす(煤)と水とを混ぜて作られたが,インキを適度にペンへひきとめておくためにアラビアゴムが加えられた。…
※「インキ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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