ウッダーラカアールニ(読み)うっだーらかあーるに(英語表記)Uddālaka Ārui

改訂新版 世界大百科事典 「ウッダーラカアールニ」の意味・わかりやすい解説

ウッダーラカ・アールニ
Uddālaka Āruṇi

ヤージュニャバルキヤとともに,古代インドのウパニシャッド文献に出る最大の思想家の一人生没年不詳。その思想はおもに《チャーンドーギヤ・ウパニシャッドChāndogya-upaniṣad》の特に第6章に,わが子シュベータケートゥへの教えというかたちで伝えられている。それによれば,太初,宇宙は〈(う)sat〉のみであったが,〈有〉は火・水・食物を創造し,その3者の中にアートマン自我)として入りこみ,3者を混合して名称nāmaと形態rūpa(現象界)を開展したという。人が死ねば,この逆をたどって〈有〉に帰入するという。これが名高い〈有〉の哲学であり,〈それは真実である。それはアートマンである。おまえはそれである〉という彼の言葉は,後世の思想家たちに尽きせぬ問題領域を提示した。また,パンチャーラ国王プラバーハナ・ジャイバリは,彼の求めに応じて,王族にのみひそかに伝わる原初的な輪廻説である〈五火説〉と〈二道説〉を初めてバラモンに明かしたという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウッダーラカアールニ」の意味・わかりやすい解説

ウッダーラカ・アールニ
うっだーらかあーるに
Uddālaka Ārui

生没年不詳。紀元前8世紀のインド哲学、ウパニシャッドの思想家の一人。クル・パンチャーラ地方出身のバラモンで、父はアルナArua、息子にシュベータケートゥŚvetaketuまたはナチケータスNaciketasがあった。ヤージュニャバルキヤをその弟子とすることもある。彼の思想は、現象世界の諸存在はことばによる表示であり、その本質は、精神性を備えた実体的な原理サット(有(う))であると説くもので、サットはすなわちアートマン(我(が))にほかならず、サットからの諸存在の成立を説く。「おまえはそれである」という名言は、その思想のすべてを言い尽くしている。

[松濤誠達 2018年5月21日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ウッダーラカアールニ」の意味・わかりやすい解説

ウッダーラカ・アールニ
Uddālaka Āruṇi

前6世紀頃のインドの哲学者。ウパニシャッドの代表的哲人の一人で,ヤージュニャバルキヤの師匠。一切の現象は,唯一なる有 satから展開したという学説を主張した。

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世界大百科事典(旧版)内のウッダーラカアールニの言及

【一元論】より

…一元論は日本では《哲学字彙》(1881)以来,訳語として定着した。【茅野 良男】
[インドの一元論]
 何を万有の根源とするかについてインドでは古くから諸説があったが,ウパニシャッド,とくにウッダーラカ・アールニの有論によって,中性原理ブラフマンがそれであるとする説が主流となった。この説を展開したのがベーダーンタ学派であるが,ブラフマンと万有との関係については種々の異説があった。…

【有】より

…ウパニシャッドの思想家ウッダーラカ・アールニによれば,この宇宙ははじめ〈有sat〉のみであったが,それがみずからの意思で火を,火は水を,水は食物(=地)を創造した。〈有〉はその3者の中にアートマン(自我,本体)として入り,3者を混合して名称と形態(現象界)を開展した。…

【ウパニシャッド】より

…これは,宇宙の本体としての〈ブラフマン(梵)〉,および人間存在の本質としての〈アートマン(我)〉とをそれぞれ最高の実在として定立したうえで,この両者が本質的には同一であって,その同一性を悟ることによって解脱が得られると説くもので,《リグ・ベーダ》末期以来徐々に発展しつつあった一元論的傾向が,いちおうの頂点に達したものと考えられる。代表的思想家としては,梵=我を純粋の認識主体と考えてその精神性を強調し,観念論への道を開いたヤージュニャバルキヤ,および〈実有sat〉としての梵我を第一存在として,〈実有〉からの宇宙発生を説いたウッダーラカ・アールニの両者が挙げられる。〈梵我一如〉の思想は,のちにベーダーンタ学派に継承され,インドにおける最も有力な思想となった。…

【観念論】より

… これに対して,チャールバーカ,ローカーヤタ派などと称せられる人びとは,世界も心も物質の所産であると唯物論的な考えを表明している。ウパニシャッドの哲人ウッダーラカ・アールニ,原子論を唱えるニヤーヤ学派,バイシェーシカ学派にもそうした傾向が皆無ではないが,それでもなおこの経験世界を迷妄の所産とし,そこからの解脱を希求するなど,全体としては観念論というべきである。【宮元 啓一】。…

【自然哲学】より

…自然哲学の歴史は,原所与としての自然への人間の態度の表明の歴史なのである。【茅野 良男】
[インドの自然哲学]
 われわれの心身も含めて,自然を構成する原理を探求する試みは,インドでは古くはウパニシャッドの哲人ウッダーラカ・アールニによって行われた。彼によれば,太初,唯一無二の有から熱(火)と水と食物(地)が生まれ,その三要素の混交によってこの雑多な世界が展開されたという。…

【神秘主義】より

…(1)ウパニシャッド 東洋古来の諸宗教のうちでは,まずウパニシャッドの神秘主義がとくに顕著である。その代表者としてウッダーラカ・アールニとヤージュニャバルキヤを挙げることができる。万物の根源である最高唯一の実在をサットsat(実有)と呼んだウッダーラカは,〈汝がそれであるtat tvam asi〉と教える。…

【唯物論】より

…日本では19世紀の末から,井上哲次郎や井上円了による加藤弘之と中江兆民に対する唯物論批判があったが,唯物論自身とその代表者たちとの形成は,大正・昭和期のマルクス主義者たちを待たねばならなかった。【茅野 良男】
[インド]
 インドにおいて唯物論は,古くは,仏教成立以前に編纂されたと考えられる《チャーンドーギヤ・ウパニシャッド》の中の,ウッダーラカ・アールニの説の一部にみられる。精神は食物から,いわば発酵して現れたものであるというのがそれである。…

※「ウッダーラカアールニ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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