改訂新版 世界大百科事典 「ウツボ」の意味・わかりやすい解説
ウツボ (鱓)
moray eel
ウナギ目ウツボ科Muraenidaeに属する海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。種類が多く,日本近海には40種近くが知られているが,その大半は南西諸島以南に分布する。体型はウナギ形で,やや側扁する。口裂は大きく,上下両あごに長く鋭い犬歯状の歯がある。また,口蓋の鋤骨(じよこつ)にも列生した可動歯がある。これらの歯は後方には倒れるが,前方には倒れないので,獲物をとらえるのにつごうがよい。歯から毒液を分泌する種類もある。皮膚は肥厚し,うろこがない。胸びれ,腹びれもなく,口には舌もない。体色斑紋はさまざまで,種を識別するうえでよい手がかりになる。夜行性で,日中は岸近くの岩礁やサンゴ礁の間に潜んでいるものが多いが,海岸から離れた深い海底にすむ種類もある。貪食(どんしよく)でまた闘争性が強く,鋭い歯で小魚,エビ,タコなどを攻撃して捕食する。ウツボ類は地方的に食用に供されるが,南方にはゴマウツボ,ハナビラウツボ,ナミウツボなど,猛毒性のシガテラ毒をもっているものが少なくないので注意を要する。
ウツボGymnothorax kidakoは本州の関東以南からフィリピンにわたって分布し,もっともふつうに見られる種類で,岸近くの岩礁にすむ。ナマダ(外房),キダコ(神奈川県三崎)などの地方名もある。体は黄褐色地に暗褐色斑紋が不規則な横縞を形成している。後鼻孔はまるく鼻管がない。鰓孔(えらあな)は小さくて黒い。しりびれの縁は白い。全長約90cmになる。水族館でよく見られ,水槽の岩組みの間から外をうかがうどうもうな顔つきが人気を集めている。アミウツボG.reticularisは関東地方南部からインド洋にかけて分布し,やや深い海底にすむ。体は淡黄褐色の地に15~22条の暗色黄帯をもつ。体高はやや低い。全長およそ60cmになる。トラウツボMuraena pardalisは南日本からインドネシアにかけて分布する。口は大きくて完全には閉じることができない。前後の両鼻孔はともに長い鼻管の先端に開口する。全長は約80cmになる。皮膚は厚く,黒く縁取られた白い斑紋を散らして美しいのでなめし革として財布,ハンドバッグなど細工物に利用される。コケウツボAemasia lichenosaは本州南部の岩礁にすみ,体は暗褐色で,コケを思わせる不規則な淡褐色斑紋が体側に3列に並んでいる。オトヒメエビと共生し,エビの行動によって敵または餌動物の接近を知る。全長は約80cmになる。
執筆者:日比谷 京
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報