翻訳|oasis
砂漠,ステップからなる乾燥地域内において,淡水がつねに存在している場所をいい,多くは人間生活の拠点をなしている。中央アジア,西アジア,北アフリカに多く,アラビア語ではワーハwāḥa。最も典型的な例が,地下水の湧出している泉の形態であるため,日本では泉地という訳語がよく用いられるが,しかしその形態は泉とは限らず多様であり,むしろ沃地(肥沃な土地の意)の訳語のほうが適切である。
淡水の存在形態に応じて,オアシスには次のような種類がある。
(1)泉性のオアシス 乾燥地域においても砂岩,石灰岩などからなる帯水層には自由地下水,被圧地下水が存在しているが,地下水面が浅くなって地表に達する場所では泉が湧き出る。このような例は,砂岩,石灰岩からなる岩山の山脚,豪雨の際のみ河水があってふだんは水のないワーディー(ワジ)の河床や,被圧地下水層の露頭などにみられる。ただ一般に,泉性のオアシスは,他の種類のオアシスに比べて水量の点では劣っており,生活の大きな拠点とはなりにくい。その中にあって,アラビア半島北部にあるタイマーTaymā’の泉は,アラビア半島随一の評判があり,直径35m,深さ20mの大きさをもち,十数頭のラクダが終日水をくみ上げても水がれをおこさないという。
(2)高山地帯の山間の河谷,およびその出口にあたる山麓の扇状地 乾燥地域にあっても,かなりの高度をもった山地は地形性降雨に恵まれる。また,降水が冬にかたよっても雪どけ水の形で夏も水が潤う。そのためこれらの山地の山間には,一年を通じて水のかれない河流(恒常河川)が存在して河谷ぞいに細長いオアシスを形成し,その末流は山地の出口の山麓扇状地にまで到達する。ただ,多くの場合,扇状地面は構成物質が粗いために河流は地下にもぐり,オアシスの末端は扇状地上端の扇頂部で終わることが多い。このような形態のオアシスとしては,天山・崑崙山脈の山麓にあって,いわゆるシルクロードの都市として知られる,クチャ,ホータン,ヤルカンドなどが有名であり,西アジアでもイランのエルブルズ,ザーグロス山脈の内陸斜面側の山麓などにその例は多い。同じく西アジアのアンチ・レバノン山脈の東麓に,バラダー川がつくる扇状地は,シリアの首都ダマスクスが位置するほか,8000haの灌漑耕地が展開する大オアシスとして名高い。
(3)外来河川ぞいのオアシス 乾燥地域の河川は一般にワーディーであるが,しかしティグリス,ユーフラテス,インダス,ナイル,コロラドなどの長大な河川は,乾燥地域外に水源をもつため,たえず豊かな水量の供給をうけ,途中で蒸発作用によって水量の一部を失いながらもかれることなく,外洋に達している。このような河川は,乾燥地域外に源を発しているところから外来河川と呼ばれるが,その沿岸地帯も外来河川に淡水をたよれるためにオアシスを形成する。前2者に比べて水量も多いため,外来河川によって養われるオアシスはメソポタミアのそれのように,一般に巨大である。
(4)人工的オアシス 地下水が井戸や掘抜井戸,あるいはカナートなどの方法で地上にもたらされることにより,人工的につくり出されたオアシスも存在する。掘抜井戸は被圧地下水を自噴させる工夫であり,カナートは水の重力を利用した取水方法であるが,一般の井戸では水のくみ上げに,人力,畜力,機械力を必要とする。そのうち家畜に円周運動をさせてチェーン状のつるべを動かして水をくみ上げる〈ノリアnoria〉(アラビア語。ペルシア語でナーウーラnā`ūra)は著名である。
西アジア,アフリカのオアシスで営まれる経済生活は,まず第1に,水を利用してなされる農業である。250~500mm程度の降水に恵まれる地域では,これらの降水だけに依存した乾燥農業も可能であるが,しかしオアシスの水ははるかに多くの確実な収量を約束する。オアシスで栽培されるおもな作物は,小麦,大麦,キビ,米,トウモロコシなどの主穀をはじめ,ブドウ,イチジク,アンズ,ナツメヤシ,オレンジなどの果樹,スイカ,メロン,ナス,トマト,豆類などの野菜,綿花,タバコ,サトウキビ,アサ,クワなどの工芸作物,アルファルファなどの牧草であり,自給用にあてられるほか,余剰は商品化される。
オアシスで営まれる経済生活の第2は家畜飼養である。乾燥に強いラクダは,必ずしもオアシスに束縛されずにステップで長期間飼育することが可能であるが,羊,ヤギ,馬,牛などはその生息にほとんど常時水を欠かすことができない。それゆえ,周辺のステップを放牧地として利用しながらも,これらの家畜の飼育にはオアシスが拠点とされる。また,ラクダも極端な乾季には水を欲するため,ラクダに依存しながら一年の大半をステップですごすベドウィンのような遊牧民も,一般に年に1度はオアシスに回帰することを余儀なくされている。
オアシスで営まれる経済生活は,第2次・第3次産業にも及ぶ。すなわち泉性オアシスなどの孤立的なオアシスに集落が存在する場合には,農鍛冶,農具大工などの職種は不可欠である。また,このような第2次産業は,オアシスの規模が増し,人口数が増えるにつれてその重要性も拡大,多様化し,いわゆるオアシス都市となれば,バーザール(スーク,市)の一角に,鍛冶屋,いかけ屋,家具屋,仕立屋などの製造販売業者が店を構え,都市および周辺の〈むら〉の住民の必要にこたえている。
オアシス都市を強く特徴づける機能は,商業・交通運輸業などの第3次産業である。バーザールは,先述の製造販売業者のほかに,繊維製品,皮革製品,食料品,金属製品,書籍,貴金属,薬品などの小売業者が結集して形成する商店街であるが,オアシス都市のもつ第3次産業機能のまさにすぐれた表現である。ちなみに,テヘランのバーザールはオリエント最大の評判をえている。また,常設店舗を構えず,定期市的に開かれる露天バーザールも,モロッコなどでは,重要な役割を果たしている。
バーザールで売買される商品の一部は,ラクダによる隊商(いわゆるキャラバン)やトラック輸送業者によって遠隔地からもたらされる物資である。そのためオアシス都市には隊商宿(キャラバン・サライ)やモータープールの設備も整っており,交通の結節点としての色彩も強い。またオアシス都市は,都市間または周辺の農村とをつなぐバス交通の中心地でもある。
執筆者:末尾 至行
中央アジアは極度の乾燥地帯に属し,そこにはタクラマカン,キジルクム,カラクムなどの広大な砂漠が横たわる。このため,この地域で人間が居住できるのは,北部の草原地帯と,天山やパミールなどの山中の谷間や山間牧地,それに主として南部の砂漠の中に造営されたオアシスとに限られた。前2者には遊牧民が居住し,オアシス地帯には農耕定住民が居住した。中央アジアのオアシスを,その利用する水の種類によって分類すると,(1)高山の雪どけ水を集めて砂漠に向かって流れる河川の水を灌漑水路や貯水池などを用いて利用するもの,(2)泉水を利用するもの,(3)人工地下水路(カレーズ,カナート)の水を利用するものの3種に大別されるが,サマルカンド,ブハラ,カシュガルなど中央アジアを代表するオアシスはいずれも(1)に属し,(2)(3)は(1)ほどには重要でなかった。オアシスの基本的な構造を図式的・概念的に述べると,まずオアシスの中央部には住民の精神生活の中心となる寺院,神殿,モスクがあり,これらに隣接して住民の経済生活の中心となるバーザールがある。バーザールは農作物や日用品の常設ないし定期的な市場であるとともに,職人たちの工房をもその内に含む手工業・産業の中心地でもあった。寺院,神殿,モスク,バーザールの周囲には住民の居住区が広がり,その外部は果樹園農業などの行われる農村地帯であった。農村地帯を越えると,水が極度に乏しい砂漠地帯となる。すなわち中央アジアのオアシスは,本来,中心となる市街地と,その周辺の農村部とから成る一つの独立した生活圏であり,そこでは自給自足の生活が可能であった。しかしオアシスが発展して余剰生産物が得られたり,またなんらかの生産物に不足が生じると他のオアシスとの間に交易が行われ,そこにいくつかのオアシスを結ぶ一つの交易圏が形成された。これらの交易圏は,さらに他の交易圏ともオアシスを結ぶ交通路(キャラバン・ルート,一般にシルクロードと呼ぶ)によって結ばれ,古来この交通路を利用して隊商による中継貿易が行われた。このため中央アジアのオアシス都市をもっぱら隊商基地,宿場町,商業都市などと規定する見方も行われているが,現実のオアシス都市の経済は,農業・手工業・商業の3者によって支えられていたと考えるべきであろう。このシルクロードは,宗教その他の文化の伝播路としても利用され,東西文化の交流のうえで重要な役割を果たした。
→東西交渉史
一方また,中央アジアのオアシスは,しばしばオアシス城郭都市と呼ばれるが,これはごく小さな農村オアシスなどを除外して,一般的にオアシスが市街地を取り囲む城壁をもっていたがためである。城壁の長さは,8~9世紀のサマルカンドで約5kmに及ぶ。これらの城郭都市は,一般的には,(1)内城,要塞(クヘンディズ,アルク),(2)城壁内の市街地(シャフリスターン),(3)城壁外の居住地(ラバド)の3区域から構成され,このうちの(2)(3)は,さらに住民の最も基本的な生活区域としての多数の居住区(ハーラ,マハッラ,グザル)に分割されていた。都市の人口は,最大の都市で10万~15万程度,その他の都市では2万~3万程度の人口をもてば,大都市のうちに数えられたと推定される。中央アジアのオアシス地帯には,すでに前5千年紀ごろから初期農耕集落の形成が見られ,前2千年紀の後半には城塞を伴った都市的な集落が形成され,前1千年紀には,これらの集落に大規模な灌漑網も完備された。すなわち前10~前7世紀のオアシス地帯には,すでに堅固な城壁と大規模な灌漑網をもったいくつかのオアシス城郭都市が誕生していたものと思われる。以後この地帯では,しばしば,一つの有力なオアシス都市がその周辺の少数の諸都市を支配下に置くという形をとったオアシス連合体(オアシス国家。たとえばアラブ侵入期のソグド・オアシス連合体など)が形成されたが,これらの連合体は,周囲の他の連合体をも併合してオアシス地帯全域をおおう統一国家を形成するだけの力がなく(クシャーナ朝,サーマーン朝,ティムール朝を除く),政治的・軍事的には常に非力であった。その結果,中央アジアのオアシス地帯は,ほとんど恒常的に,北部の遊牧国家をはじめ,中国,西アジアなどの異民族の支配を甘受せねばならなかった。ただしこの政治的な支配・被支配の関係の中で,特に遊牧民との関係は,単なる支配・被支配の関係にとどまらず,お互いの長所,すなわち遊牧民の軍事力とオアシス定住民の経済力を利用し合うという共存関係でもあったことに注意する必要がある。このオアシス地帯には,9~10世紀ごろまで,仏教,マニ教,ゾロアスター教,ネストリウス派キリスト教などを信奉するアーリヤ系の人々が居住したが,9~10世紀ごろからそのトルコ化・イスラム化が進行し,少なくとも12~13世紀以降は,イスラムを奉ずるトルコ人の住地となって現代にいたっている。
執筆者:間野 英二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
砂漠で利用可能な水がつねに得られる所。水量が多いオアシスでは農耕が可能であり、またエジプトのカイロやシリアのダマスカスなど、大都市も多く発達している。水の存在状態から泉性オアシス、山麓(さんろく)オアシス、外来河川オアシス、人工オアシスの四つに分類される。
[赤木祥彦]
地表に流出するか浅い所に存在する水で、水源は三つに分類される。
(1)被圧地下水 サハラ砂漠、アラビア砂漠、オーストラリア砂漠など、安定陸塊では砂岩が厚く広く堆積(たいせき)しており、砂と砂の間隙(かんげき)に多量の水が地表から浸透し、滞水層を形成している。この滞水層が不透水層に挟まれていると、気圧以上の圧力が加えられる。また滞水層が地表に露出していたり、断層で切られ地表につながっていると地表に流出する。被圧地下水は硬い砂岩の隙間(すきま)を緩やかに移動するので、塩類を含んでいる。塩類を多く含んでいると利用できないので、利用できる水量は限られている。アルジェリアのイン・サラー・オアシス、エジプトのカルガ・オアシスなど大きなオアシスの水源は、崖(がけ)に出現した滞水層から流出した水である。被圧地下水でも平坦(へいたん)な地形の所では地表に流出することはほとんどなく、浅い滞水層に井戸を掘り利用されてきた。
(2)自由地下水(不圧地下水) 堆積盆地やワジ(水無川)の砂礫(されき)層の中にたまっている水で、砂礫の隙間を通して空気に接しているため、自噴することはなく、井戸を掘って利用している。塩類をほとんど含んでいないので、すべての水が利用できる。
(3)砂丘の底にたまっている水 砂丘に降った水は砂丘の低所まで浸透するが、砂の間隙が大きいために毛管現象がおきず、そのまま砂丘の低所にたまり、砂丘の周辺に流出してくる。大砂丘の前面にナツメヤシが植えられている風景の写真をよくみかけるが、これが砂丘オアシスである。
[赤木祥彦]
イランから中国西部にかけてなど、造山帯に位置する砂漠の中や周辺部には高度の高い山地が発達している。これらの山地には地形性の雨や雪が降る。山麓には大規模な扇状地が発達しているため、山地斜面を流れる河川は中国のタリム川などの大河川を除き、扇状地に達すると伏流水となり、そのまま盆地底の堆積層の中に流入する。この伏流水を地表に導水する地下水路が古くから利用されており、北アフリカではフォガラ、イランではカナート、アフガニスタンではカレーズ、中国西部では坎児井(カンアルチン)とよばれているがカレーズという名称も使用されている。この地下水路の長さは10~20キロメートルのものが多いが、イランでは50~70キロメートルに達するものも珍しくない。地下水路は崩壊しやすいため、近年は動力による深井戸が多く掘削されるようになり、放棄されてしまったものがたくさんみられる。東アジアとヨーロッパを結んだシルク・ロードは山麓オアシスを結んで発達した。
[赤木祥彦]
砂漠の外から砂漠に流入する河川の多くは砂漠の中で消え、末無川(すえなしがわ)となっている。しかし、ナイル川やティグリス川、ユーフラテス川、シルダリヤ川、コロラド川などの大河川は、海や湖に流入している。水量が非常に多量なため、流域には広大な耕地、大都市もみられる。
[赤木祥彦]
人力や家畜の力では得られなかったが、新しい技術により利用できるようになった水をいう。水源は二つに分けられる。一つは地下水で、石油採削のため開発されたボーリング技術を応用した深井戸で、深さ2000メートルに達するものもある。安定陸塊では被圧地下水が、造山帯の断層盆地では自由地下水が揚水されている。サハラ砂漠の地下水は滞水層により含有塩類濃度が異なり、濃度の低い水は灌漑(かんがい)に使用されているが、オーストラリアの地下水は濃度が高く、家畜の飲用水にしか使用されていない。人間の飲み水には雨水が使用されている。北アメリカ砂漠の盆地には大量の自由地下水が存在し、広大な灌漑耕地が開発されている。ネバダ州のラス・ベガスやアリゾナ州のトゥーソンなどは大規模な人工オアシス都市の例である。もう一つは砂漠やその近くを流れる河川にダムを建設し、水を引く方法である。ナイル川のアスワン・ハイ・ダム、コロラド川の水を利用したインペリアルバレー(インペリアル谷)の耕地化、アマゾン川の上流にダムを建設してアンデス山脈にトンネルを掘り、太平洋側の河川へ導水しているペルーのマヘス開発などはその代表的なものである。人工オアシスは大量の水を得られるが、大規模な塩害の発生、地盤沈下、ダムから下流の河床低下など不利益ももたらす。
[赤木祥彦]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… モンゴルや中央アジアの発達した牧畜民では貧富の差,社会階層の分化が顕著で,社会組織も複雑になるが,このことは住居であるユルタに直接に反映し,この点でシベリアの原住民の場合と根本的に異なる。
[中央アジア,オアシスの農家]
中央アジアの南部やオアシスの農耕民の住居は日乾煉瓦・石・泥土造で,トルクメン,ウズベク,タジク,キルギス族に多くの共通性が見られる。住居と菜園,畜舎,穀物乾燥場などからなる農家が散在する場合,住居と住居を密着させて壁や屋根を共通にする場合,全体を高い土壁で囲んで城塞とする場合など,住居や集落のあり方は自然環境よりは,むしろ灌漑水路や外敵の襲撃という社会的要因により特徴づけられている。…
…すなわち広義には,東・西トルキスタンのほかに,カザフ草原,ジュンガル草原,チベット,モンゴリア,アフガニスタン北部,イラン東部,南ロシア草原を含み,その内容は〈内陸アジア〉という用語の内容とほぼ一致する。これに対して狭義には,東・西トルキスタンのオアシス定住地帯のみを指す。またソ連では,〈中央アジア〉を表すのに二つの用語を用いていた。…
※「オアシス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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