デジタル大辞泉 「オーディオ」の意味・読み・例文・類語
オーディオ(audio)
2 音楽鑑賞用の音響装置。
翻訳|audio
語源はラテン語のaudireで,〈聴く〉という意味から〈可聴周波数範囲にある音の〉という意味で用いられており,一般には音の伝送,記録,再生,聴取について,機器から利用技術までを含めた分野をいう。通常は高品質の音を対象とする分野に絞り,電気音響を利用して音を聴いて楽しむ趣味の面を含めオーディオと称している。高品質の音とは,物理的に信号を忠実に伝送再生できる物理特性が優れた機器システムによる音という意味とともに,好みの面を含めた心象的に優れた音という意味をもつ。
オーディオの初期のころは技術レベルが低く,物理的音質を向上させることが第1目的となり,雑音やひずみを減らし,周波数帯域やダイナミックレンジを広くする努力がなされてきた。ここにハイファイHi-Fi(high fidelityの略),すなわち高忠実度という用語が生まれた。高忠実度とは伝送システムにおいて入力信号を忠実に伝送して出力信号とする度合が高度であることを表す。この点から見れば,現在の技術レベルは完全に近い段階にきている。しかし,オーディオは音場を取り扱う技術であり,音場を表すいかなる入力信号を作るか,また,出力信号によりいかなる音場を作り,その中で音を聴くかという問題が重要となる。オーディオは原音再生を目的とするともいわれているが,現実に原音とは何を意味するか判然としない。これを原音場の意味に置き換えて,かりに家庭でコンサートホールの音場を物理的に忠実に再生できたとしても,オーディオ鑑賞に満足できる音場にはならないであろう。オーディオの指向するところは,聴取者からいえば自分が聴きたい音を,プログラム制作者からいえば聴取者を魅了する音を創造するところにある。聴取者が聴きたい音といっても多種多様である。松やにがこすれる感じのようなバイオリンのなまなましい音などは,よくいわれる例であるが,このような演奏会では聴くことができない迫力のある音の要望はオーディオマニアといわれる層に多い。一方,物理的音質はあまり問題にせず,演奏内容を重視する層もある。そして,一般のオーディオ愛好家はこれらの中間に存在するといえよう。また,聴取者が聴きたい音は,流行と同じようにプログラム制作者によって作られる一面もあり,プログラム内容とともに聴取者を魅了する音作りがプログラム制作企業の戦略の一つとなっている。機器メーカーにおいても,音質性能向上とともにグラフィックイコライザーなどの音色作り機能を付加する方向や,逆に調整機能をできるだけ省いて操作を簡易化する方向など,聴取者のニーズに合わせて多様化している。
オーディオの基本は音を聴いて楽しむことにあり,レコードを聴くための蓄音機と放送を聴くためのラジオ受信機が一体化した電気蓄音機が最初のオーディオシステムといえる。ここに,レコード制作,放送送出,レコード再生,放送受信を併せて一つのオーディオの分野が形成された。一方,ラジオ放送が開始された時代から,自分で部品を購入してラジオ受信機を自作して楽しむ趣味の分野があり,現在もスピーカーシステムから装置に至るまで〈自作オーディオ〉といわれる分野は一部で盛んである。
1960年代後期になると,テープレコーダーが普及を始め,とくにカセットテープレコーダーの出現により,家庭において簡易に放送の収録やレコードのダビングができるようになり,オーディオの分野が一段と拡張した。そして,今までレコードや放送の既成のプログラムソースを聴くだけの受身のオーディオから,SL機関車の音とか,野鳥の声などいろいろの音を録音して楽しむ〈生録(なまろく)〉といわれる分野が生まれた。また,歌唱や楽器演奏は本来オーディオとは別の趣味の分野とされていたが,〈カラオケ〉といって伴奏音楽をオーディオ装置で再生し,歌を歌って楽しむことが流行し,新しいオーディオの一分野となった。1980年代になるとディジタル技術が進展をみせ,レコード分野では1982年にコンパクトディスク(CD)が商品化され,やがてLPレコードに取って代わる成長を果たした。民生録音分野では87年にディジタルオーディオテープ(DAT)が登場し,91年にはディジタルコンパクトカセット(DCC)が発表された。92年にはポータブル用途に使える小型の光磁気ディスク(MD,ミニディスク)が市販された。かくてオーディオシステムにおいてはLPプレーヤーはCDプレーヤーに代わり,コンパクトカセットとMDの録音再生機が併存するようになった。これらはパッケージメディアと呼ばれており,メディア間のダビングやプログラム編集も行われるようになった。これらのディジタル機器はトランスデューサーとアンプを除けば,オーディオのコンポーネントの主役となっている。
一方,パソコンが普及するにつれて,MIDI音源やMIDI楽器,ディジタル録音した音素材を使ってパソコンによって作曲や演奏あるいはカラオケを楽しむDTM(ディスクトップミュージック)が一般家庭でも楽しまれるようになってきており,これをよい音で聴くためにオーディオシステムと結合した新しい分野もできてきている。今までのオーディオは部屋の中で音を楽しむ形態が主流であったが,アウトドアオーディオと呼ばれる戸外で楽しむ分野も盛んになっている。その一つはカーオーディオで,従来のカーラジオが高級化し,FM受信とテープ録音再生の機能を加えて,車内におけるオーディオシステムがカーライフの中に定着した。また,戸外のレジャーに持ち歩くポータブルオーディオといわれる分野も盛んになっている。その一つはジョギングとか電車の中や歩きながらヘッドホンをかけてオーディオを楽しむヘッドホンステレオ,ラジオ受信機とカセットテープ録音再生機を一体化して携帯型にしたステレオラジカセや,携帯できるように小型化したシステムコンポを持ち歩いてオーディオを楽しむ分野などがあげられる。
入力信号としては放送電波と各パッケージメディアの再生信号がおもなものである。放送電波は受信アンテナにより受信され,チューナーに入り,検波増幅されて規定レベルの電気信号出力として取り出される。CD,MD,DAT,コンパクトカセット等のパッケージメディア機器の信号は規定レベルで出力される。テープは録音された磁気信号が電気信号として取り出され,規定レベルまで増幅される。これらの信号はメーンアンプに入り増幅されてスピーカーを駆動し音として放射される。また,これらの各機器はヘッドホンを接続して聴取できるしくみになっている。
録音のときは,プリアンプ出力のところで各機器出力が選択,切り替えられて録音入力として録音機へ入る。マイクを使う場合,マイク出力はマイク用プリアンプに入り,規定レベルまで増幅されて録音入力となる。カラオケにマイクでとった歌を重ねたり,多くのマイクを使う場合はミクシングアンプが使われる。ミクシングアンプでは,マイク出力はそれぞれのプリアンプで増幅され,これらのプリアンプ出力と各パッケージメディア機器の出力は,それぞれのフェーダーによってレベル調整が行われ,混合(ミクシング)されて規定レベルの出力となり,録音機に入る。
信号が伝送再生される方式から次のように分類される。
一つの伝送系の信号をイアホンにより片耳で聴く方式。スピーカーで聴く場合はモノフォニック(後述)というべきであるが,ステレオに対し両者を併せてモノ,または慣習的にモノーラルと呼んでいる。
一つの伝送系で送られた信号をスピーカーで再生して聴く方式。スピーカーで再生された音を空間に放射し,その音場の中に身をおいて聴くもっとも一般的な方式である。
独立した二つの伝送系の信号をイアホンの左右に,それぞれの入力として加えて両耳で聴く方式。バイノーラル収音の基本は,人の頭を模して作ったダミーヘッドの両耳のところにマイクを取りつけて収音する方法をとる。この方式によると,ダミーヘッドが置かれた位置での音場の自然な感じのステレオ効果が得られるが,イアホン装着のわずらわしさと音像が頭の中に定位する感じになる頭内定位の問題が短所としてあげられる。この方式の発展には頭内定位の間題の解消が鍵となっている。
いくつかの伝送系により送られた信号を,それぞれ独立したスピーカーで再生して聴く方式。2チャンネルの伝送系のものがもっとも一般的であり,ステレオといえば,通常は2チャンネルステレオフォニック方式を指す。3チャンネル以上の伝送系をもつものはマルチチャンネルステレオフォニック方式という。2チャンネルの場合,サウンドステージと呼ばれる音の広がりや定位が二つのスピーカーの間に限られるので,サウンドステージを広くとる目的でマルチチャンネルが用いられる。ワイドスクリーン用映画では3~6チャンネルの方式が多い。家庭用としては,全周囲にサウンドステージを作る目的で4チャンネル方式が開発された。この方式はクォドラフォニックと呼ばれており,四つの独立したチャンネルを用いるディスクリート方式と四つの信号を合成して2~3の信号とし,これを再生のときに四つの信号に分解するマトリックス方式がある。一時期には,これらの方式のレコードも発売されたが,普及は停滞している。
現在のオーディオは古いレコード再生やAM放送受信などにモノ方式が残っているが,ステレオ方式が主体となっている。モノ方式よりステレオ方式に進展すると,(1)音源の方向,位置感がでる(定位効果),(2)あたかも実際の音場にいる感じ(臨場感)が得られる,(3)各音源の音の分離がよくなり,広がり感が出るなどのステレオ効果が生ずる。
ステレオ効果は聴取者の両耳間に達する音の強さの差,位相や時間の差,音色の差などによって起こると考えられている。ステレオ効果を発揮させるための収音の基本は,2本のマイクを設置し,いろいろの音源からこれらのマイクに入る音にレベル差や時間差がつくように,マイク間隔や相互角度,指向性などを適当にとることである。この方法によれば,自然なステレオ効果が収音できるが,実際のレコードや放送における収音においては,さらに多くのマイクを使用して音場を人工的に加工合成する方法がとられている。
オーディオでは音を聴いて鑑賞する空間,つまり一般にリスニングルームと呼ばれる部屋の問題が重要である。よいリスニングルームの条件として次のことがあげられる。
(1)部屋の遮音がよく,静かであること。外部からの騒音振動の侵入をできるだけ小さくするとともに,空調設備などの内部の設備騒音を低くすることが必要である。また,外部に対しオーディオの音を騒音としてまき散らさない配慮もたいせつである。
(2)適度な響きがあること。聴取に適した響きの長さを残響時間で表すと,室の容積に比例して20~200m3の容積に対し0.2~0.4秒程度,低音域から高音域まで同じ程度がよいとされている。とくに一般の部屋では低音域の残響が長くなりがちなので注意を要する。
(3)有害な響きが起こらないこと。有害な響きとしては,フラッターエコーflutter echoと定在波の問題があげられる。フラッターエコーは鳴竜とも呼ばれるが,並行して向かい合った壁と壁,天井と床などの間で起こり,音が濁る。また,室中では音が周囲の壁や天井,床に入射したり,反射したりして互いに干渉し,室の寸法に応じていくつかの室固有の周波数の音の山や谷を作る。これを定在波と呼ぶが,とくに一般家庭の小さい部屋では,低音域でいくつもの定在波が重なって,ブーミングboomingといわれる音がこもる現象が起こる。
これらの条件を満足させ,有害な響きを防止させるためには,部屋の音響設計を十分に行わねばならないが,一般の部屋においても,吸音性のカーテンやじゅうたん,音を拡散させる効果がある壁掛けの額縁やいろいろな家具の置き方などをくふうすると音響改善の効果が得られる。とくにスピーカーシステムの設置位置として,その高さや背壁や側壁との距離などが音質に大きく影響する。聴取位置としては,各スピーカーシステムから等距離の位置で聴くことが原則であり,2チャンネルの場合,スピーカーを見込む角度を60度とする位置を最適聴取位置としている。聴取位置における音場は部屋の音響特性の影響を受けるので,聴取者の中には,スピーカーシステムから聴取位置までの音の伝送周波数特性をグラフィックイコライザーにより電気的に調整し,最適状態で聴取する方法も行われている。
1876年にベルA.G.Bellが電磁型マイクロホンを発明し,その後,電気音響技術の進歩に伴ってレコードと放送の分野を中心にオーディオの分野が生まれて発達した。とくに,モノからステレオに進展して再生音に新たに空間的情報と臨場感が加わり,高品質の音の追究であるオーディオの分野では,ステレオがオーディオの一つの原点となった。
ステレオは81年にパリの電気博覧会でステレオ効果が発見されたのをきっかけとして,その研究が進められた。なかでも1933年にアメリカのベル電話研究所が,フィラデルフィアのホールで演奏された管弦楽団の演奏を,三つの有線電話回線でワシントンのホールに送り,大規模な実験を行ったことは有名である。しかし,実際のステレオの普及は第2次世界大戦以後になり,テープ録音機により2チャンネルの録音再生ができるようになってからである。日本では52年にNHKが中波2波を使って実験放送を開始し,映画の分野ではワイドスクリーンと磁気録音が導入されて,52年にシネラマ(7チャンネル),53年にシネマスコープ(4チャンネル),57年にトッドAO方式(6チャンネル)が公開され,マルチチャンネルステレオが一部の映画に定着した。レコードでは1931年にイギリスのEMI社(Electric and Musical Industries Ltd.)がVL方式と45-45方式を開発していたが,57年に45-45方式のステレオレコードが商品化され,60年代後半にはレコードは特殊なものを除くとすべてステレオとなった。FMステレオ放送は61年にアメリカで標準方式が決定し,日本では63年にこの方式を採択し,69年にNHKが本放送を許可され,同年に初の民間FM局が開局した。また,70年代に入ると,4チャンネルステレオが盛んになり,放送やレコードにおけるいろいろな方式が提案されたが,方式の一本化ができず,プログラム制作の面でも問題が多く残されている。オーディオ産業をみると,1960年代に入ってから急速な発展を続けてきたが,80年代に入るとやや需要の低迷のきざしがみえた。そこにCD,DAT,DCC,MDとあいついでディジタルパッケージメディアの開発商品化が進み,一方,機器の小型化がミニコンポーネントステレオやポータブルステレオ,カーオーディオのさらなる需要を生み,業界は活性化した。また,CDを超える音質をもつスーパーディジタルオーディオの追求も進み,この種の製品もみられるようになり,DVD(Degital Versatile Disc)の出現で,この規格も整った。いまやマルチメディアと呼ばれるディジタル情報化時代に入り,オーディオもビデオ,放送,パソコン等の産業と一体となった展開をみせている。
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
本来は「可聴周波の」という意味の形容詞で、可聴周波数を意味する場合はaudio frequencyのように使われる。しかし狭義では、可聴周波数の音や電気信号を取り扱う概念、または技術を表す名詞として使われることが多い。たとえば、可聴周波数の音の録音・処理・伝送・再生などを対象とするオーディオ工学audio engineering、あるいは録音・再生そのほかの目的で使用されるオーディオ装置audio systemの意味に使われる。
また、ほかの用語と組み合わせて、デジタルオーディオdigital audio(デジタル技術で可聴周波数の電気信号を処理する工学、あるいは装置)、カーオーディオcar audio(自動車の中で使用されるオーディオ装置)のように使われることもある。さらにオーディオビジュアルaudiovisual(AV)といえば、視聴覚、すなわち視覚と聴覚とを統合した概念、あるいは技術をさすものとなる。
[吉川昭吉郎]
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