カシ(読み)かし

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カシ」の意味・わかりやすい解説

カシ
かし / 樫
橿

一般にはブナ科(APG分類:ブナ科)の常緑性の種を総称する。分類学的にはコナラ属Quercusアカガシ亜属Cyclobalanopsisに含まれ、殻斗(かくと)の鱗片(りんぺん)が同心円状に合一し、数層の横輪をつくり、鱗片が瓦(かわら)重ね状に並ぶコナラ亜属とは区別される。したがって、落葉樹が多くかつコナラ亜属に分類されるoakはナラ類であり、カシと邦訳するのは正確ではない。中国では近年、アカガシ亜属にの字をあて他と区別している。アカガシ亜属以外でカシの名のつくものに、ウバメガシコルクガシ(コナラ亜属)とシリブカガシ(マテバシイ属)がある。晩春、尾状の雄花序と、1~3個の雌花を新葉のわきにつける。堅果(どんぐり)は楕円(だえん)状球形で、当年の秋までに成熟するアラカシシラカシイチイガシと、翌年の秋までかかるアカガシ、ハナガガシウラジロガシオキナワウラジロガシツクバネガシがある。日本では宮城県以南の暖帯におもに分布し、耐陰性が強く、樹齢も長く、極相林の優占木となる。世界に約40種あり、おもに東アジアに分布し、いわゆる照葉樹林文化の発祥の舞台となった地域と重なる。材は輻射(ふくしゃ)孔材で、カシ(堅木)の名のとおりブナ科のなかでも強靭(きょうじん)で重く、弾力があり水湿にも強いため、古来より農機具、建築、船舶、車両用材に用いられ、果実は飼料、食料として重要であった。庭園樹としても用いられ、関西地方に多いアラカシの生け垣や、関東の農家に残るシラカシの防風・防火林は有名である。

 なお、民間薬の「うらじろがし」は胆石症や腎(じん)結石に効くといわれる。この民間薬の薬用起源はきわめて新しく、徳島県東部の勝浦町で1925年(大正14)ごろ、同地方でシラカシとよばれる植物の葉を煎(せん)じて服用すると胆嚢(たんのう)結石に著効があったといわれた。1958年(昭和33)徳島大学医学部では10年間にわたってこの研究を行い、薬効が証明された。このころから多く市販されるようになった。

[萩原信介 2020年1月21日]

文化史

カシの材は堅くて弾力性があり、用途が広い。福井県の鳥浜貝塚遺跡(縄文時代)の遺物には、カシの弓、尖(とが)り棒、杭(くい)などがみられ、なかでも、弓の6割がカシ類で、尖り棒もカシ類がもっとも多い。またアカガシ、アラカシ、イチイガシの種子食用になるが、佐賀県西石田遺跡などからは、貯蔵された種子が大量に出土している。建築材としても優れ、沖縄守礼門(しゅれいもん)にはオキナワウラジロガシが使われている。ウバメガシは紀伊(和歌山)産の備長炭(びんちょうたん)の原木である。

[湯浅浩史 2020年1月21日]


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