翻訳|caffeine
多くの高等植物中に含まれるプリンアルカロイドの一種で、茶素とか、テインtheineまたはガラニンguaranineなどともいう。化学名は1,3,7-トリメチルキサンチン。白色柱状の結晶で、融点238℃。乾燥空気中では風解する。冷水には溶けにくい。においはなく、苦味がある。茶やコーヒーから抽出されるほか、無カフェインコーヒーを製造する過程でも得られる。医薬的には中枢神経興奮作用をもち、おもに大脳皮質に働いて感覚受容や精神機能の亢進(こうしん)をきたし、眠気を除去して思考力を増進させる。また、運動中枢や延髄呼吸中枢を刺激するほか、血管収縮作用、強心作用、利尿作用、あるいは胃液の分泌促進作用などもある。したがって、少量で疲労回復の効果があり、片頭痛や慢性心臓疾患、狭心症などに用いられる。カフェインの作用は数時間は持続するため、就寝前に摂取すると睡眠を妨げる。カフェインに安息香酸ナトリウムを加えて水溶性にしたものが、強心剤として知られるアンナカ(安息香酸ナトリウムカフェイン)である。摂取したカフェインは体内で代謝され、おもに尿酸となって排泄(はいせつ)される。
[池内昌彦・馬淵一誠]
日本薬局方には、カフェインと無水カフェインが収載されている。1820年にコーヒー豆より発見され、1899年ドイツの有機化学者E・フィッシャーにより全合成された。現在では、天然物から抽出したものよりも合成品がよく用いられている。習慣作用が多少認められ、過量に摂取すると、集中力がなくなり、不眠、不安感、耳鳴りなどを訴える。劇薬。承認投与量の上限は、1回0.3グラム、1日2~3回経口投与。常用量は1回0.2グラム、1日0.5グラム経口投与される。
[幸保文治]
食品中では茶、コーヒーに多く含まれていて、これらにほろ苦いよい味を与えている味の成分であるとともに、興奮作用に役だっている。茶葉では高級なものほど多く含まれていて、玉露3.5%、抹茶(まっちゃ)3.2%、煎茶(せんちゃ)2.3%である。そのほか紅茶2.9%、インスタントコーヒー4.0%である。カフェインは、茶やコーヒーの抽出液に浸出され、その量は浸出条件(茶葉の量、湯の量や温度、浸出時間など)で異なるが、茶では初回の一煎がもっとも多く、二煎、三煎になるほど浸出量は減少する。
[河野友美・山口米子]
『L・F・フィーザー他著、後藤俊夫訳『有機化学実験』(1989・丸善)』▽『生田哲著『脳と心をあやつる物質――微量物質のはたらきをさぐる』(1999・講談社)』▽『ジョン・エムズリー、ピーター・フェル著、渡辺正訳『からだと化学物質――カフェインのこわさを知ってますか?』(2001・丸善)』▽『栗原久著『カフェインの科学――コーヒー、茶、チョコレートの薬理作用』(2004・学会出版センター)』▽『ベネット・アラン・ワインバーグ、ボニー・K・ビーラー著、別宮貞徳監訳『カフェイン大全――コーヒー・茶・チョコレートの歴史からダイエット・ドーピング・依存症の現状まで』(2006・八坂書房)』
カフェイン
1,3,7-トリメチルキサンチン
C8H10N4O2
注:局方名は無水カフェイン
カフェイン
局方名 カフェイン
C8H10N4O2・H2O
アルカロイドの一種で,コーヒー豆,チャの葉,コーラの実等に含まれるキサンチン誘導体の一つである。絹糸光沢のある無色の結晶で,冷水,アルコールにわずかに溶け,苦味がある。19世紀末,E.フィッシャーによって全合成された。チャの乾燥葉中に1~3%,コーヒー豆中には1~4%のカフェインが含有されており,茶わん1杯のコーヒーは約100mgのカフェインを含む。薬理作用として,中枢興奮作用,強心作用,利尿作用,胃液分泌促進作用などがある。(1)中枢興奮作用 大脳皮質の知覚野および総合中枢を刺激し,その機能を促進させる。人体では,カフェイン150mgで精神機能を亢進し,感覚受容および思考,連想などを良好にし,眠気を除去する作用があることが知られている。0.5~1gでは,興奮が運動野や脊髄に及び精神が不安定となり,耳鳴り,振戦(震え)をおこし,心悸亢進状態となり脈拍も不整となる。動物に大量に注射すれば強直性痙攣(けいれん)をおこす。(2)循環器作用 心臓に対しては心筋の収縮力を増大し心機能を整える。冠状血管拡張作用を有するので狭心症に有効である。延髄の血管運動中枢を刺激して内臓の血管を収縮させるが,腎臓,心臓,皮膚の血管は拡張させる。脳血管は収縮させるので頭痛に有効である。(3)利尿作用 腎臓においては,腎血管を拡張し循環血量を増加するとともに尿細管における水分の再吸収を阻害して尿量を増加させて利尿効果を発揮する。(4)抗疲労作用 骨格筋に対して作用し作業能力を増大し,疲労を減少させる。(5)胃液分泌促進作用 胃粘膜に直接作用して胃液分泌を促進させる。動物実験では大量のカフェイン投与で消化性潰瘍を発生させることができる。したがって胃・十二指腸潰瘍患者はカフェイン含有嗜好飲料の摂取は注意を要する。カフェインは,水に難溶であるから安息香酸ナトリウム,サリチル酸ナトリウム,クエン酸ナトリウム等を溶解補助剤として用いた製剤が使用され,精神抑制状態,心・血管麻痺,狭心症,片頭痛などに用いられる。
執筆者:渡辺 和夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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1,3,7-trimethylxanthine.C8H10N2O2(194.19).テイン(theine)ともいう.茶の葉,コーヒー豆,カカオの種子などに含まれる.構造上プリンアルカロイドの一つ.無色の柱状晶(昇華により精製).融点238 ℃,昇華点178 ℃.水,エタノール,クロロホルム,エーテル,アセトン,ベンゼンに可溶.石油エーテル,リグロインに難溶.普通は一水和物で,絹糸状の光沢のある結晶体.苦味がある.興奮剤,利尿剤,強心剤として用いられる.茶の葉を熱湯で浸出し,塩基性酢酸鉛を加えてタンパク質,タンニンなどを沈殿させ,過剰の鉛を硫酸で除去し,その濾液からクロロホルムで抽出し,蒸発結晶させると得られる.テオフィリン,テオブロミンはともに茶の葉などに含まれ,利尿剤として用いられる.LD50 200 mg/kg(ネズミ,経口).[CAS 58-08-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…呼吸中枢の一部としてまたはその近辺に存在するとされる咳中枢に作用するものと考えられている。 以上の薬物以外に,中枢神経興奮により気分の上昇をはかったり,あるいは抗ヒスタミン薬による眠気を防止する目的でカフェイン等が配合されることが多い。気管支拡張により呼吸を楽にする目的で,気管支拡張薬のエフェドリンやメチルエフェドリンもよく配合される。…
…不整脈(心室細動)を起こすおそれがある。
[キサンチン誘導体]
コーヒーやお茶の成分であるカフェインやこれと化学構造の類似したテオフィリン,テオブロミンなどが心筋収縮力を高める。利尿作用および中枢興奮作用も有する。…
…中枢神経興奮薬は薬理学的に次のように分類されている。(1)カフェイン類 チャの葉,コーヒーなどに含有されるカフェイン,テオフィリン,テオブロミンなどは化学構造も互いに類似し,共通の薬理作用を有する。カフェインは50~100mgの量で大脳皮質を興奮させ,眠気,疲労感を除去する。…
…特有の芳香と快い苦みがある。カフェインを含むため,神経を興奮させる作用をもつ。〈珈琲〉の字があてられる。…
…前者では,強心配糖体のジギタリスが代表的である。茶やコーヒーに含まれるカフェインの利尿作用は有名であるが,その作用は後者に属する。このグループに属するものには,カフェインに類似の化合物であるテオフィリンやテオブロミン,カンタリジンなどがある。…
※「カフェイン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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