デジタル大辞泉 「カー」の意味・読み・例文・類語
カー(car)
2 列車の車両。「ロマンス
アメリカのブルース・シンガー、ピアニスト。洗練された都会のブルース、シティ・ブルースを確立した。本来、南部の農業地帯のものであったブルースにのせて、都会における憂愁(ブルー)を表現することで、カーは最初のブルース・モダニストとたたえられた。
テネシー州ナッシュビルに生まれる。ケンタッキー州ルイビルを経て、インディアナポリスに住みパブリック・スクールに通うが、ピアノを覚えると同時に学校を退学し、中西部から南部を渡り歩いて演奏をする。
1920年ごろ陸軍に入隊、その前後にはサーカスに入ったり、また密造酒づくりに手を染めたりしていた。28年インディアナポリスでのギタリスト、スクラッパー・ブラックウェルScrapper Blackwell(1903―62)との出会いがカーのミュージシャンとしてのキャリアを決定づけた。同年ブラックウェルとのデュオでボカリオン・レーベルに初のレコーディング。そのとき吹き込んだ「ハウ・ロング、ハウ・ロング・ブルース」は空前のヒットとなり、カーの名は黒人の間にとどろくようになる。それは、苦しい南部の生活から抜け出て都会に出たものの、けっしてそこが天国であったりはしないという現実のなかで、恋人への思いと望郷の念を重ね合わせて歌った甘ずっぱいポピュラー・ブルースであった。ブラックウェルの鋭角的な単弦ギター奏法とカーのピアノの絡みは絶妙で、カーの比較的ライト感覚の哀愁漂うボーカルは、都会で生活する黒人たちの感性に訴えた。カップリングされた「マイ・オウン・ロンサム・ブルース」は、より深いフィーリングをたたえたディープ・ブルースで、両面あわせて、その後のブルースの方向に示唆するところは大きかった。その後大恐慌の時代に入ったが、カーは、最も深刻だった33年を除いてコンスタントにレコーディングを行い、その短い生涯に200曲近い録音を残した。
代表的な作品には「プリズン・バウンド・ブルース」(1928)、「スロッピー・ドランク・ブルース」(1930)、「ミーン・ミストリーター・ママ」「ハリー・ダウン・サンシャイン」「ブルース・ビフォア・サンライズ」「ホエン・ザ・サン・ゴーズ・ダウン」(いずれも1934)といった叙情性豊かな傑作がある。
カーの作品の曲名にはしばしば「ドランク」や「リカー」という言葉が出てくるが、実際に酒を好み、アルコール中毒によって、わずか30年弱の一生を終えている。死の直後「リロイ・カーの死」を発表したバンブル・ビー・スリムBumble Bee Slim(1905―68)だけにとどまらず、特にジミー・ラッシングJimmy Rushing(1902―72)やTボーン・ウォーカーといったモダン派のブルース・バンド・シンガーにも強い影響を与えた。
[日暮泰文]
『Samuel ChartersThe Country Blues(1975, Da Capo Press, New York)』▽『Jeff Todd TitonEarly Downhome Blues(1994, University of North Carolina Press, Chapel Hill)』
イギリスの歴史家、国際政治学者。ケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジを卒業、1916年外務省に入る。1936年まで外交官として勤務。ウェールズ大学の国際政治学教授(1936~1947)。この間『タイムズ』紙の論説委員(1941~1945)を兼ねた。1948年国連の世界人権宣言の起草委員長を務めた。その後オックスフォード大学で教鞭(きょうべん)をとり、1955年以降は母校トリニティ・カレッジの高級研究員として晩年を過ごした。その数多い著書はほとんどが邦訳され、日本の読者に多大の影響を与えている。外交官時代の著作は『ドストエフスキー』、『浪漫(ろうまん)的亡命者たち』、『カール・マルクス』など社会、革命思想に関するものが多い。『危機の二十年』(1939)は国際政治の研究に学問的基礎を与えたもので、国際政治における「力」の要素を重視し、ユートピア主義と現実主義とを総合する必要を説いた。ほかに国際政治に関する著作には『平和の条件』『ナショナリズムの発展』『西欧世界に対するソビエトの衝撃』『両大戦間における国際関係史』などがあり、また『新しい社会』や『歴史とは何か』は彼のプラグマティックな歴史観をよく示している。早くからロシア史に深い関心を払っていたが、1950年に第1巻を出した『ボリシェビキ革命』に始まる『ソビエト連邦の歴史』全8巻は、彼のライフワークとみるに足る壮大な労作である。
[斉藤 孝]
『井上茂訳『危機の二十年――国際関係研究序説』(1952・岩波書店)』▽『衛藤瀋吉・斉藤孝訳『両大戦間における国際関係史』(1968・清水弘文堂)』▽『原田三郎他訳『ソヴェト・ロシア史 ボリシェヴィキ革命 1917―1923 第1~3巻』(1967~1971・みすず書房)』▽『南塚信吾訳『ソヴェト・ロシア史 一国社会主義 1924―1926 Ⅰ政治・Ⅱ経済』(1974、1977・みすず書房)』▽『清水幾太郎訳『歴史とは何か』(岩波新書)』
イギリスの映画女優。本名はDeborah Jane Kerr-Trimmer。スコットランドのへレンズバーグ(へレンズバラ)Helensburghに生まれる。バレエ、演技などを学び、ロンドンなどで舞台女優の経験を積む。1940年代から映画に出演。『老兵は死なず』(1943)や『黒水仙』(1947)などの作品で注目されハリウッドに進出、知的美貌と演技力で1950年代を中心に活躍した。
タイ王宮を舞台にイギリス人家庭教師の役を演じた『王様と私』(1956)は、ミュージカル映画の名作として、また彼女の代表作として広く知られる。その他のおもな作品として『クオ・ヴァディス』(1951)、『ゼンダ城の虜(とりこ)』(1952)、相手役バート・ランカスターとのラブ・シーンが話題になった『地上(ここ)より永遠(とわ)に』(1953)、『めぐり逢い』(1957)、『旅路』(1958)などがある。『王様と私』など6作品でアカデミー主演女優賞にノミネートされた。晩年はパーキンソン病を患い、イギリス東部のサフォークで死去。
[編集部]
アメリカの推理作家。ペンシルベニア州生まれ。カー・ディクスンCarr Dicksonおよびカーター・ディクスンCarter Dicksonの名も使用した。父親(弁護士、下院議員)の影響で法律の勉強を志したが、ジャーナリスト志望に転じ、パリへ遊学して歴史小説の習作に明け暮れたあと、アメリカへ戻り、長編推理の第一作『夜歩く』(1930)を書き上げてから本格的な作家活動に入った。1931年イギリス女性と結婚、48年帰米するまでイギリスで筆をとった。処女作をはじめ『魔女の隠れ家』(1933)、『火刑法廷』(1937)、『ユダの窓』(1938)など初期の作品から『皇帝の嗅煙草(かぎたばこ)入れ』(1942)など中期にかけては、犯人の出入り不可能な密室殺人や人間消失など、常識では解決できない不可能犯罪を主題にした謎(なぞ)解きの傑作が多い。『ビロードの悪魔』(1951)のころからはしだいに歴史ものの色が濃くなり、怪奇、恋、冒険、歴史ロマンに手の込んだ謎解きを盛り込んだ本格的探偵小説の新境地が開かれている。これら約70編の長編のほか、数冊の短編集もある。名探偵としてフェル博士、チャーチルに似ているといわれるヘンリー・メリベル卿(きょう)などを活躍させた。そのほかコナン・ドイルの詳細な伝記『コナン・ドイル卿の生涯』(1949)がある。
[梶 龍雄]
『『世界推理名作全集6』(1969・中央公論社)』
イギリス(スコットランド)の物理学者。1841~1849年グラスゴー大学で物理学を修め、とくにW・トムソン(ケルビン)の下で実験に従事して才能を示した。しかし、独立教会派の神学校に転じ、聖職者にはならなかったが、グラスゴーの同派の師範学校の数学教師となり(1857)、44年間在職した。このような条件下における研究活動であったが、磁場のかかった媒質中での光の偏光面の回転や、磁極で反射した平面偏光波の楕円(だえん)偏光への変容など、彼の名を冠して「カー効果」とよばれる現象を発見し、電磁場と物質の相互作用の研究の先駆者の一人となった。1890年王立協会会員に選ばれた。教科書や教育に関する著書も多い。
[後藤邦夫]
アメリカのコントラバス奏者。ロサンゼルス生まれ。7代にわたるコントラバス奏者の家系の出で、少年時代から英才教育を受けた。南カリフォルニア大学とジュリアード音楽学校で学ぶ。バーンスタインに認められ、1962年ニューヨークでデビュー。以来、どのオーケストラにも所属せず独奏活動に専念。80年(昭和55)初来日。コントラバスを大型チェロのように軽々と弾きこなし、この楽器を独奏楽器と認めさせるのに大きな役割を果たした。
[岩井宏之]
古代エジプトで、人間の七つの部分の一つとしての精神的存在を意味し、しばしば両手をあげた形の象形文字で表される。これは鳥の姿をした霊魂バーとは別のもので、人間にとって「自己の分身」とみなされた。王などの有力な死者のカーのためには特別の墓室がつくられ、そこにはそのカーの像が納められていることが多い。しかも王たちは、その名前に自己のカーの名を書き加え、カーに対して特別の配慮を払うのが常であった。『死者の書』などにたびたび言及されているが、その実態はかならずしも明らかではない。
[矢島文夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
古代エジプトの死者の霊魂でバー,アクakhと共に3種の霊的概念の一つ。ふつう両手を挙げ礼拝ないしは支持,保護の姿で表される。肉体は地上での神の姿であり,カーはその聖なる部分,天上的要素である。いわば人格の分離されたもので,個人とは対をなす双生児として生まれ,生命維持の力として生涯その人間に伴い,その死に先立って来世に居住して彼の到来するのを待ち,彼を導き,食事を共にし,守護するという。〈カーに赴く〉とは死を,〈カーの家〉とは墓を意味した。またカーは先祖であり,父親はカーの代理者であり,カーは父親を通じて活動すると考えられた。したがってオシリスはその子ホルスのカーであり,ホルスの未来の根元である。王もカーとされる。男の生殖力も牡牛で象徴され,カーと呼ばれた。カーの文字は魂,精神,人格,世代,王の真髄,王権,さらに幻想を,また複数形はそれによって生命を支える食物,そして女性形は女性の性器,女性の生殖力の象徴としての牝牛をも表した。カーは生きるために食物を必要とし,墓所への新しい供物や壁に描かれた供物をカーの食物とするには生者の祈禱を必要とした。
執筆者:中山 伸一
イギリスの歴史学者,国際政治学者。ロンドンに生まれ,ケンブリッジ大学を卒業し,1916年外務省に入る。19年パリ講和会議にイギリス代表団の随員として参加。36年外務省を辞め,ウェールズ大学,のちケンブリッジ大学の国際政治学教授となる。その間41-45年は《タイムズ》の論説委員となり,48年には国連世界人権宣言起草委員会委員長をつとめた。著書には《平和の条件》(1942),《危機の20年 1919~1939》(1939)などパワー・ポリティクスに基づく科学としての国際政治を重視し,〈リアリスト・ユートピア的総合〉を意図した。ロシア関係の研究も多く,ゲルツェンの評伝《浪曼的亡命者》(1933),《ソビエト・ロシアの歴史》全10巻(1950-78)などの著書がある。
執筆者:亀嶋 庸一
アメリカに生まれ,後にイギリスに住みついた推理小説作家。カーター・ディクソンCarter Dickson,カー・ディクソンCarr Dicksonの筆名も使う。密室殺人のトリックの大家として知られるが,オカルト的雰囲気を利用したり,歴史推理小説を書いたり,創意をこらす。日本の江戸川乱歩,横溝正史に影響を与えた。代表作《帽子蒐集狂事件》(1933)。ほかに《コナン・ドイル伝》(1949)がある。
執筆者:小池 滋
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…1916年にイギリスのフェビアン協会がウールフLeonard Woolfに委嘱した〈国際政治論International Government〉の研究報告はその先駆といえよう。 E.H.カーは国際政治における現実主義と理想主義の問題を研究の対象とした。カーはその著書《危機の20年The Twenty Years’ Crisis》(1939)で,戦間期の国際的危機について,ヨーロッパに支配的である自由放任主義による利害調和の考え方が〈ユートピア的立場〉であり,これに対して,ファシズム国家は力ばかりを強調する〈リアリスト的立場〉であって,それぞれが一方に偏しているところに危機が存在していると指摘した。…
… この鈍重な原始性からの脱却は古王国の第3王朝に始まり,第4王朝にはそれをみごとに達成し,写実的洗練と彫刻的量感の安定とをもって大型の肖像彫刻に成功した。エジプト人は,肉体と〈死者の霊〉カーとが不離の一体となってこの世に生き,この両体の分離が死であると考えたが,絶対永遠の分離ではなく,死者の霊は墳墓内に永くとどまり,ミイラとなって玄室に存する肉体との神秘的合体によって,墓の内外を自由に往来し,現世におけると同じように供物を飲食し舞楽を享楽する神通力を得ると信じた。また死者の生前のおもかげを彫像として墓内の密室に安置し,死者の霊はこの肖像に宿ることによっても神通力を得ると信ぜられた。…
…腕爪指【田隅 本生】【藤田 恒夫】
【文化史】
漢字の〈手〉が5本の指と手のひらをかたどっているのに対して,英語hand,ドイツ語Handの原義は〈握る装置〉の意であり,機能を指す語である。〈手〉の用例はきわめて多様で,身体の一部としての意味を残す〈上手(じようず)〉(〈下手(へた)〉)a good(poor) hand at~,相撲の〈四十八手〉や将棋の〈手〉のように方法や策略を示すもの,トランプのホイストやブリッジで配られたカードの〈組〉を指す場合,方角を表す〈山手〉や〈上手(かみて)〉,その他がある。日本では〈手〉に代価の意をもたせて〈塩手米〉のように商品交換を表す語とした例が鎌倉時代以後にあるが,さらにさかのぼれば《万葉集》では〈テ〉に〈価〉や〈直〉をあてており,〈手〉と交換,交易との関連はかなり古くから意識されていたと推定される。…
…おもにサハリン(樺太),北海道の北部(宗谷地方)に分布していた,アイヌの弦楽器。樺太ではトンコリ,北海道ではカー(〈弦〉の意)の呼称をもつ。全長約120cm,幅10cm,厚さ5cm,中を空洞にした共鳴胴をもつ楽器で,座って楽器を肩に立てかけたり,横抱きにしたりして両手の指で弦をはじいて音を出す。…
※「カー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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