改訂新版 世界大百科事典 「キツネザル」の意味・わかりやすい解説
キツネザル
lemur
リマーともいう。マダガスカル島に生息している原猿類はすべてキツネザル下目Lemuriformesに分類されるが,そのうちのアイアイとインドリ科の4種を除いたすべてが霊長目キツネザル科Lemuridaeとしてまとめられる。キツネザルとは,突出した口吻(こうふん)や長い尾がキツネに似ているという印象を与えるためにつけられた名前である。キツネザル科に共通する特徴として,下肢の第2指がかぎづめになっていることがあげられる。高等な霊長類では,指のつめがすべて平づめであることから,このかぎづめはキツネザルの原始性を示すものと考えられている。歯は,小臼歯(しようきゆうし)が人間より1本多く,下あごの切歯と犬歯が櫛(くし)の歯のように並ぶという特徴をもつ。
キツネザル科はコビトキツネザル亜科Cheirogaleinaeとキツネザル亜科Lemurinaeに分けられる。コビトキツネザル亜科には小型のものが多く,ネズミからモルモットほどの大きさである。完全な夜行性で,基本的には単独行動者である。果実食にかたよったものと昆虫食にかたよったものがあるがいずれも雑食で,樹上生活をする。眼が比較的大きく,鼻口部の突出も極端ではないので,一見,ロリス科のガラゴに似る。キツネザル亜科のものは小~中型のイヌくらいの大きさである。樹上生活が一般的であるが,ワオキツネザルはよく地上にも降りる。食物は,果実や木の葉などの植物性のもので,昆虫はほとんど食べない。夜行性から昼行性への移行を示しており,早朝と夕方に活動する薄暮性の種が多い。ただイタチキツネザルだけは完全な夜行性で,その他の性質がよりインドリ科のものに似ていることからも,これを独立の亜科として扱うべきだという意見もある。社会生活でも,イタチキツネザルだけは単独生活者であり,それ以外のキツネザル亜科のものは集団生活を行っている。ジェントルキツネザルとエリマキキツネザルが雌雄各1頭とその子どもからなるペア型の集団をつくり,その他はより大型の両性集団をつくる。
執筆者:北村 光二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報