キビ(読み)きび(英語表記)millet

精選版 日本国語大辞典 「キビ」の意味・読み・例文・類語

キビ

(Aleksis Kivi アレクシス━) フィンランド作家国民文学創始者長編農村小説「七人兄弟」、戯曲に「村の靴屋」「レア」など。(一八三四‐七二

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「キビ」の意味・わかりやすい解説

キビ
きび / 黍
millet
[学] Panicum miliaceum L.

イネ科(APG分類:イネ科)の一年草。稈(かん)は中空、高さ0.7~1.7メートル。根際から2、3本の分げつを出す。生育につれ10~20枚の葉が出るが、茎の上部の葉は大きく、葉身は長さ30センチメートル、幅2センチメートル。夏から秋、茎頂に多くの小穂からなる花穂をつける。小穂は2小花からなり、上位の小花は結実するが、下位のものは不稔(ふねん)性である。果実は長さ2ミリメートルほどのやや扁平(へんぺい)な球形で白または黄色、1000粒の重さは4グラム前後である。花穂が長く枝分れし、実ると垂れるものを平穂型、枝がやや短く、実ると片側に寄って垂れるものを片穂型、枝が短く、実っても垂れないものを密穂型とよぶ。

 原産地はアジア中央部から東部にかけての温帯地域と推定されている。中石器時代(前8000~前4000)にはヨーロッパに伝わっていた。中国では有史以前から栽培され、中国北部から朝鮮を経て日本に渡来したらしいが、米、麦、粟(あわ)、稗(ひえ)よりも渡来は遅いらしい。古名はキミで、果実が黄色みを帯びるところからきている。栄養価が高く、五穀の一つに数えられ、古くは重要な食糧とされていた。世界に数百の品種が知られ、アジアやアフリカでは食用や醸造原料、飼料とするため多く栽培される。糯(もち)と粳(うるち)とに区別されるが、中間的なものが多い。日本では、早生(わせ)糯、早生黒糯、信濃(しなの)1号、黄糯などの品種があるが、現在はほとんど栽培されていない。

[星川清親 2019年8月20日]

食品

精白したキビ100グラムの熱量は363キロカロリーで、水分13.8グラム、タンパク質11.3グラム、脂質3.3グラム、炭水化物70.9グラムを含む。栄養価は米や麦に劣らず、消化率も高い。中国やアフリカそのほかキビの生産のある地域では、一般には米と混炊して主食としたり、粉にして団子や餅(もち)とする。飴(あめ)などの菓子原料とするほか、小麦粉と混ぜてパンにする。醸造原料にもされ、中国北部では古くから黄酒(ホワンチウ)を醸造した。茎葉や糠(ぬか)は家畜の飼料とされるが欧米では果実も飼料とする。アメリカではブタの飼料とするのでhog milletの名がある。

[星川清親 2019年8月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「キビ」の意味・わかりやすい解説

キビ
Kivi, Aleksis

[生]1834.10.10. ヌルミエルビ
[没]1872.12.31. ツースラ
フィンランドの小説家,劇作家。フィンランド国民文学の父,フィンランド現代文学語の創始者。本名 Aleksis Stenvall。貧しい仕立屋の子として生れ,貧困と病苦と戦いながら,1857年ヘルシンキ大学へ進学,文学,語学,歴史をよくし,特にフィンランド口承文芸に親しみ,学生時代に『カレワラ』の英雄クッレルボの兄妹相姦の悲劇に取材した人生肯定の戯曲『クッレルボ』 Kullervo (1860) で,フィンランド文学協会賞を受賞した。シェークスピアの影響がみられるが,そのユーモアはセルバンテス,ダンテ,ホメロスによるところが大きい。次作『荒野の靴屋』 Nummisuutarit (64) にいたってそれが開花。農村に取材した小説『7人兄弟』 Seitsemän veljestä (70) は代表作でいまも国民に愛読され,広く世界に知られる。キビは 60年代の 10年間という短い著作期間に 70~90年代の文芸思潮,リアリズム,自然主義,新ロマン主義を先取りした独自の世界を築いた。『婚約』 Kihlaus (66) ,『レア』 Lea (69) などの戯曲や詩集『ヒースの里』 Kanervala (66) ほかが収められた全集がある。

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世界大百科事典 第2版 「キビ」の意味・わかりやすい解説

キビ【Aleksis Kivi】

1834‐72
フィンランドの劇作家,小説家。貧乏な仕立屋の息子として生まれ,苦学の末に検定試験で大学入学を果たした。在学中に文学賞を得た戯曲《クッレルボ》(1860)は,フィンランドの民族叙事詩《カレワラ》に取材しており,英雄クッレルボの兄妹相姦の悲劇をユーモアまじりに人生肯定劇として描いた。手法はシェークスピアに学び,ユーモアはセルバンテス,ホルベアに近く庶民的である。貧困と病苦と闘いながら短い執筆期間に《寒村の靴屋》(1864),《婚約》(1866),《レア》(1869)などの戯曲や世界的評価を得た小説《七人兄弟》(1870)を残し,若くして狂死した。

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百科事典マイペディア 「キビ」の意味・わかりやすい解説

キビ

フィンランドの作家。大学在学中に《カレワラ》に取材した戯曲《クッレルボ》(1860年)を書いて文学賞を受けた。短い生涯の間に戯曲《寒村の靴屋》《婚約》,世界的評価を得た小説《七人兄弟》(1870年)などを書き,フィンランド近代文学の父といわれる。

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栄養・生化学辞典 「キビ」の解説

キビ

 [Panicum miliaceum].カヤノリグサ目イネ科の一年草.精白キビでは,水分14.0%,タンパク質10.6%,炭水化物73.1%,脂質1.7%,食物繊維総量1.7%,エネルギー356kcal/100g.第一制限アミノ酸はリシン.

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世界大百科事典内のキビの言及

【フィンランド】より

…在任1940‐43)が,その末期の混乱期はマンネルヘイム元帥(在任1944‐46)が担当した。続いてパーシキビPaasikivi(在任1946‐56)が2期務め,56年からケッコネンが5選され25年間も大統領の座にあった。1982年以降はコイビストMauno Koivisto(1923‐ )が第9代大統領の職にあった。…

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