キュウリ(読み)きゅうり(英語表記)cucumber

日本大百科全書(ニッポニカ) 「キュウリ」の意味・わかりやすい解説

キュウリ
きゅうり / 胡瓜
cucumber
[学] Cucumis sativus L.

ウリ科(APG分類:ウリ科)の一年生つる草。インドのヒマラヤ山麓(さんろく)原産で、インドでは3000年以前から栽培された。中国へは漢の時代に張騫(ちょうけん)(?―前114)によって西域(せいいき)から導入されたと伝えられ、このことから胡(こ)(西域民族)の瓜という意味で胡瓜の名がついたという。日本への渡来は古く、平安中期の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に記載されている。しかし、江戸時代の園芸書『菜譜』(1714)には「是(これ)瓜中の下品也(なり)」とあり、近世までは野菜としてあまり重要視されなかった。ヨーロッパへは1世紀初めにローマ、ギリシア、さらに小アジア、北アフリカへと広まった。

 茎はつる性で粗い毛があり、葉腋(ようえき)から巻きひげを出して他物に絡みついて伸びる。葉は浅く切れ込んだ掌状。雌雄同株で、黄色の雌花雄花が別々の節につくのが基本型であるが、栽培品種には各節に雌花のつく節成(ふしなり)型も多い。果実円筒形の液果で、品種により形や長短はさまざまである。若い果実は緑白色ないし濃緑色であるが、熟すと黄色となるので、これが黄瓜(きうり)の名の起源という説もある。

 多くの品種があり、5型に大別される。

(1)華南型 中国南部を中心に中国中部、東南アジア、日本に分布する。低温や日照不足、乾燥に耐えるが、肉質はかならずしもよくない。粗放な這(はい)作りに適している。日本に古くからあったキュウリはこの型に属し、青節成群は春キュウリのもっとも重要な品種群である。また地這群は関東地方の夏秋季の余蒔(よま)きキュウリ(夏に直播(じかま)きして地に這わせてつくる)として発達した。

(2)華北型 中国北部で発達し、中国中部、朝鮮半島、日本、東南アジアに分布。日本へは明治以降定着した。暑さや病気に強いが、乾燥や低温、日照不足には弱い。果皮に白いいぼが多く、肉質は優れている。四葉(スーヨウ)が代表品種で、夏キュウリ(春に苗をつくり、畑に支柱を立てて育て、夏に収穫する)の品種改良のもとになっている。

(3)ピックル型 ピクルス加工用の小果の品種群で、山形県の庄内節成(しょうないふしなり)や最上胡瓜(もがみきゅうり)がある。アメリカやロシアに多くの品種がある。

(4)スライス型 ヨーロッパ系品種。

(5)温室型 肉質が緻密(ちみつ)で香気に富む。

 スライス型と温室型は日本の気候に順応しにくいため、栽培されていない。

[星川清親 2020年2月17日]

栽培

キュウリは栽培法と品種の組合せで促成、半促成、早熟、露地、抑制栽培と一年中栽培される。しかし一般に家庭でつくるには、夏キュウリの露地栽培か、余蒔きキュウリがつくりやすい。近年では、つるの伸びにくい鉢植え用品種もできている。病害虫に弱く、葉につくアブラムシは、植物体から汁を吸うばかりでなく、ウイルス病を媒介するので防除の必要がある。かならず発生するべと病や、乾燥時に発生するうどんこ病などにも注意が必要である。

[星川清親 2020年2月17日]

食品

今日ではキュウリは日本の果菜類中第1位の生産がある。黄色に熟さないうちの緑色の果実をサラダ、きゅうりもみ、なます、ぬかみそ漬け、奈良漬け、ピクルスなどにする。また花付きの幼果は刺身のつまにする。白いぼ系の夏キュウリは果肉の質が優れるが、最近の消費者の好みはいぼが緑色の黒いぼ品種に移っている。スライス型品種はサンドイッチそのほか調理用に、温室型品種はサラダ、サンドイッチ、肉詰め用などにされる。キュウリ100グラム中にビタミンC13ミリグラム、ビタミンAはカロチンで150マイクログラムを含む。

[星川清親 2020年2月17日]

文化史

原産地についてはインド説とアフリカ説がある。古代のエジプトで栽培下にあり、『旧約聖書』の「民数記」(11.5)では、紀元前1290~前1280年に、エジプトを立ち去ったイスラエルの民が、エジプトの食物を懐かしんで思い起こすなかに、キュウリ(ヘブライ語でキシュkishu)が含まれている。中国では6世紀の『斉民要術(せいみんようじゅつ)』に、栽培法と漬物による貯蔵が可能なことが記述されている。日本には10世紀までに渡来し、黄瓜(きうり)(『新撰字鏡(しんせんじきょう)』)、加良宇利(からうり)(『本草和名(ほんぞうわみょう)』)、曽波宇里(そばうり)、木宇利(きうり)(『倭名類聚抄』)などとよばれた。しかし、重要野菜とはみなされなかったようで、水戸光圀(みとみつくに)は「毒多し、植えるべからず、食べるべからず」と説く(『桃源遺事』下)。イギリスでもキュウリの冷たさは死を暗示すると考えられ、食べると生命を落とすとの迷信が長く続いた。

[湯浅浩史 2020年2月17日]

民俗

キュウリは日本各地で祇園(ぎおん)信仰と結び付いている。山形県鶴岡(つるおか)市の八坂神社では、7月15日の祭日にキュウリ2本を供え、うち1本を持って帰り食べる風習がある。類似の習俗はほかにも多く、キュウリを祇園社の神饌(しんせん)とし、祭りの前後には食べなかったという土地もある。神奈川県川崎市などには、初なりのキュウリには蛇が入っているとして川に流す習慣があった。祇園の神が川を流れてきた瓜(うり)に乗って出現したという伝えは多く、瓜の中の蛇を祇園の神とする信仰があったらしい。九州には、川祭りに河童(かっぱ)や水神に捧(ささ)げるキュウリを川に流すたとえもある。祇園信仰は水神信仰を基盤に展開しており、これらの伝承も瓜類と水神との宗教的結び付きを根底にして成り立っている。

[小島瓔 2020年2月17日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

食の医学館 「キュウリ」の解説

キュウリ

《栄養と働き》


 原産地はインド、ヒマラヤ山麓(さんろく)。紀元前にインドから中国に伝わり、中国経由でわが国へ伝えられました。水分が多い野菜のためか、昔から水神と縁が深い野菜とされてきました。水神が妖怪化したカッパの大好物だったという言い伝えもあり、「カッパ巻き」はそこから由来しているといわれています。
 果肉が薄くて歯切れのよい白イボ種と、肉質に粘り気のある黒イボ種があります。現在は見栄えのよい白イボ種が主流になっています。旬(しゅん)は夏から秋で、わが国でのおもな生産地は群馬、埼玉、福島、宮崎、高知などです。
〈カリウムやピラジンが利尿効果、血圧降下作用をもたらす〉
○栄養成分としての働き
 90%以上が水分なので、栄養的にはあまり期待できませんが、カリウム、カルシウム、ナトリウムを適度に含んでいるので、体に負担をかけることなく水分補給できます。
 利尿作用があるので、むくみの解消、のぼせの改善に効果的。
 カリウムは100g中200mgで多いほうです。体内でナトリウムを排出する働きをするので、血圧降下に役立ちます。
 青臭さがありますが、これはピラジンという成分からきています。ピラジンは血がかたまるのを防ぐ成分で、脳梗塞(のうこうそく)や心筋梗塞(しんきんこうそく)の予防や治療に効果があります。
 頭部に苦みのある成分がありますが、これはククルビタシンA、B、C、Dという物質です。
 この4種のうち、ククルビタシンCには抗がん作用があるといわれています。
○漢方的な働き
 体を冷やす作用があるので、夏の暑気払いに適しています。

《調理のポイント》


 つや、張りがあって、イボが痛いほどとがっているものが新鮮です。しなびて皮にシワのあるものは、水分が蒸発しているためで、収穫から時間がたっている証拠。
 料理としては、おもに生のまま酢のものや和えもの、漬けもの、サラダにします。
 調理するときは、まな板の上にのせて塩を振り、上から少し押すようにしてころがすと、鮮やかな色になり、青臭さもイボもとれます。
 漬けものにするなら、ぬか漬けがおすすめ。ぬか漬けにすると、ぬかのビタミンB1が染み込んで、含有量が8倍になります。ビタミンB1は疲労回復に役立ちます。
○注意すべきこと
 キュウリにはビタミンC破壊酵素のアスコルビナーゼが含まれているので、他の野菜やくだものといっしょにサラダやジュースにするとビタミンCが酸化してしまいます。ビタミンCは酸化されても体内での働きにはあまり差がありませんが、気になる場合は、酢を少し加えたり、50度以上に加熱することで酸化が抑えられます。
 胃腸の弱い人や冷え症の人は、生でたくさん食べると下痢を起こすことがあるので、気をつけましょう。

出典 小学館食の医学館について 情報

百科事典マイペディア 「キュウリ」の意味・わかりやすい解説

キュウリ

インド北西部原産で,古くから栽培されるウリ科の一年生の野菜。茎は細長く,巻ひげで他物にからみ,雌雄異花で,ともに花冠は黄色で5裂。果実は円柱状で,果皮には多数のいぼがある。品種が多く,華南系,華北系,それらの雑種系,ヨーロッパ系に大別される。近年はF1(一代雑種)の白いぼ型品種が盛ん。ビニルハウスによる促成栽培,抑制栽培などの普及により,一年中出まわっている。品種や栽培法の違いで苦味を感ずるものがあるが,これはククルビタシンCによる。生食するほか,漬物などとする。
→関連項目ウリ(瓜)

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

栄養・生化学辞典 「キュウリ」の解説

キュウリ

 [Cucumis sativus].スミレ目ウリ科キュウリ属の一年草.果実を食用にする.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

少子化問題

少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...

少子化問題の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android