精選版 日本国語大辞典 「クリスマス」の意味・読み・例文・類語
クリスマス
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イエス・キリストの誕生を記念する祝日。降誕祭ともいう。ことばの意味は「キリスト礼拝」である。初期の信徒の関心は、キリストの死と復活のできごとを宣教することに集中していたので、受肉(誕生)の日付の問題は空想的であったし、四つの福音書(ふくいんしょ)には誕生の日付の記述はない。コンスタンティヌス大帝は政治的判断から、キリスト教徒の礼拝日「主の日」を、ミトラス教徒の太陽崇拝の日と結合して、321年に公式に週1回の休日を決定し、役人の休日にした。ニカイア公会議(325)でキリスト論に関する教義が整理され、キリストの誕生の神学的位置づけが確定されると、ミトラス教の祝日Natalis Solis Invicti(不滅の太陽の生誕日)である12月25日がキリストの誕生日として解釈され制度化された。救主(すくいぬし)は「義の太陽」として預言されていたので(「マラキ書」4章2)、好都合な解釈が成立した。そして、たき火をたき、キャンドルをともし、祭儀的競技が催されるゲルマンの冬至の祭りやローマの農耕神の祭りの形式の一部は、キリスト教徒に受容され、電気を照明に用いる現代でも不便なキャンドルを伝統的にたいせつにする。それは、光(神の子)が闇(やみ)(世界)のなかで輝き、熱と光を与えて消える(犠牲死)ように、過去のキリストの1回限りの生涯を年ごとに情緒的に理解する訓練に役だてられる。
8世紀以降、クリスマス前の四つの日曜日を含む期間を「アドベント」Advent(来臨)とよび、教会暦では年の始めであるが、メシアの誕生の追体験とキリストの再臨を待望する心の構えを形成するために、この期間は祝い事を避けて生活する。クリスマスはアドベントから始まり1月6日のエピファニー(公現日)まで続き、その日にいっさいの飾りを外す。プレゼントの贈与と交換の行事は、古代ローマの祭り(12月17日)であるサトゥルナリアSaturnalia(農業神)にさかのぼる。この祭りの魅力は浪費、祝宴、日常的役割と身分の逆転であった。ツリーは、アルプスの北の風習で、起源が呪術(じゅじゅつ)的動機であるため、ピューリタニズムの系譜に連なる教派では飾らない。サンタクロースの起源は、恐ろしい袋をもった人さらいと善行の老人との奇妙な結合なのだが、遠い他人の抱く善意と正しい評価を親が代行する行為は、神の摂理を伝える家庭教育に用いられる。「キャロル」とよばれるクリスマスの歌曲は、民謡を母胎にして発展し、神への賛美、キリストの誕生の喜びと感謝を表現する。優れたキャロルは賛美歌に編入される。その一例が19世紀のグルーバー作曲の『清しこの夜』の歌である。
[川又志朗]
クリスマスは異教の時代から受け継いできた風習もあって、フォークロアも多彩である。
少年司教ボーイビショップは、中世からある変わった儀式で、子供の守護聖人聖ニコラスの祝日である12月6日から、聖嬰児(えいじ)日の12月28日までの間、各教会から選ばれた少年が司祭のかっこうをして司教の代理役を務める。この風習は宗教改革によってほとんど消滅したが、20世紀になりイギリスなどで復活している。もし少年司教が在任中に死ぬことがあると、司教と同じような形で葬られた。
クリスマスの活人画(クリッブ)は、ベツレヘムの馬小屋でのキリストの生誕のようすを、飼い葉桶(おけ)(クリッブ)を中心にヨセフ、マリア、羊飼い、動物を配した模型で、フランスではクレッシュ、ドイツではクリッペ、そしてもっとも人気のあるイタリアではプレセピオとよばれる。ローマ・カトリックの世界でおもにつくられ、教会や家庭にクリスマスの12日間周囲にろうそくをともして丁重に飾られる。最近では深夜ミサの初めに嬰児キリストの人形が運び込まれ、祭壇の前の飼い葉桶に恭しく入れられる。そして公現日(エピファニー)になると、周囲の羊飼いたちが3人の王によってとってかわられる。
サンタクロース――この名のおこりはアメリカへのオランダ移民が、ニュー・アムステルダム、現在のニューヨークに定住したとき、最初の教会をサンテ・クラースつまり聖ニコラスに献じたことにある。聖ニコラスは4世紀の聖人で、小アジアはリキュアのミーラの司教。彼にまつわる伝説は多く、もっとも知られるのが、貧しくて苦界に身を沈めようとした3人娘を救うため、夜半にこっそり金袋を娘たちの家の窓から投げ入れ、それが3晩続き、娘たちはそれぞれ十分な持参金を手にすることができた、というもので、これから三つの金色の玉が質屋の目印の看板となった。また別の伝説には、昔、飢饉(ききん)に際して、肉不足を補おうとして、3人の子供が、ある宿屋の亭主に殺され、死体は刻まれて塩水の樽(たる)の中に漬けられ、客用のベーコンがわりにされてしまう。ところが、食べられる直前に聖ニコラスが現れ、3人の子供の死体を祝福すると、切れ切れになった身体が元どおりになって生き返り、危うく救われて、聖ニコラスは子供の守護聖人となった、というもので、三つの玉は子供たちの頭を表すという。このような聖ニコラスの話は、中世の奇跡劇(ミラクル)の主要なテーマとなった。この聖ニコラスにまつわる話と、クリスマスに際してその余興を取り仕切る道化役とがいっしょになって、サンタクロース(イギリスではファーザー・クリスマスという)の姿が生まれた。クリスマスの贈り物の習慣は、本来、聖ニコラスの祝日である12月6日の前夜、気づかぬように贈り物をする習慣に発しており、またローマの農耕神サトゥルナリアの祭日(12月17日から1週間)に「幸運の贈り物」をしたことによるともいう。しかし近年の商業主義がこれを盛んにしたことはいうまでもない。サンタクロースが空を飛んでやってくるという考えは、北欧神話の主神オーディンOdinが冬になると空を飛翔(ひしょう)して人間の善悪を裁きにやってくる、という伝説に基づき、かならずしも楽しい、喜びをもたらす姿ではなく、本来は善悪を裁きに訪れるという厳しさがあった。
クリスマスは12月24日の夕べから1月6日の公現日まで祝われるが、その間の伝説や習慣は多彩である。クリスマスの前夜には、動物や鳥が人間のようにことばを発し、ラテン語で神をたたえる歌を歌ったり、家畜は東方を向いて跪座(きざ)し、蜜蜂(みつばち)も第100番の詩篇(しへん)を口ずさむといわれた。そして人々はクリスマスの当日にはいつもよりも多く餌(えさ)を与える。
クリスマスをたたえる歌はクリスマス・キャロルといい、本来は歌を歌いながらするダンスであったが、各国で美しい歌が次々に生まれ、いまなお盛んに前夜(イブ)に家々を訪問して歌われている。またこの時期に、イギリスに古くから伝わる劇にマミング・プレーmumming playという仮面をつけた無言劇があり、イングランドの守護聖人聖ジョージ、トルコの騎士、竜、美少女、医者を配した死と再生の物語を演じた。いまではそれにかわって有名な童話を扱ったパントマイムが子供たちの娯楽となっている。
クリスマスの翌日は、最初の殉教者聖ステパノの祭日。この日はイギリスではボクシング・デイBoxing Dayとよばれ、クリスマス・ボックスといって教会に備え付けられた寄付金の箱をあける日であったが、20世紀の中ごろまで、日ごろ世話になっている郵便屋さん、ごみ集めさんなどに感謝のしるしとして心付けを手渡す日となっていた。いまは名ばかりとなって公休日の一つの意味でしかない。
北半球においてはクリスマスはホワイトであり、南半球ではグリーンである。しかし長い間の北半球の文化的、経済的優位性から、冬の寒さと枯れ木と雪の中で、常緑の木やそれによる飾りが珍重された。クリスマス・ツリーの導入と普及はこれに基づくのであり、その他種々の植物がクリスマスを飾る。ヤドリギmistletoeはその代表的なもので、本来ドルイド教で聖なるものとされ、病を治したり、解毒したり、生殖能力を高めたり、悪霊を退けたり、幸運を約束する力があると考えられた。仇敵(きゅうてき)同士がもしヤドリギの下で出会えばそれが休戦のしるしとなり、互いに握手して別れ、争いは後日に延期された。これが戸口にヤドリギを飾り、そこから入る者たちの幸運を約束し、やがて若い男女の愛のしるしとしてその下でキスする習慣が生まれた。同様にヒイラギ、ツタ、月桂樹(げっけいじゅ)などもローマの時代から西欧で、そしてアメリカで珍重されている。東欧では聖バルバラの祝日である12月4日にサクラの枝を折って暖かいところに置くとクリスマスに花が全開するといわれた。ポインセチアは中央アメリカの産で、その赤い星状の包葉(ブラクト)がベスレヘムの星に似ていることから同地で聖なる飾りとして用いられていたが、メキシコ派遣のアメリカ大使ポインセットJoel Robert Poinset(1779―1851)が1829年カリフォルニアに持ち帰って一般的になった。
明かりをつけることもクリスマスの特徴であるが、これは古くからろうそくの火によってキリストを表す習慣があったことから広まり、とりわけ窓辺に出すことが19世紀の中ごろからアメリカ中に行き渡った。またユール・ロッグYule logといって、丸太を家に運び込み、それを暖炉の火で半分だけ焼き、残りを次の年のクリスマスに焼く新しい丸太に火をつけるようにした習慣もヨーロッパ一円に広まっている。
日本において、クリスマスが日本人によって初めて祝われたのは1875年(明治8)で、原胤昭(たねあき)によって銀座に設立された原女学校においてであったといわれる。その後しだいに非キリスト教徒の一般家庭にも浸透して祝われるようになり、1950年代にはバーやキャバレーで狂奔的に行われたが、しだいに沈静化し、家庭でケーキを食べたりプレゼントを交換するような形をとるようになった。しかし宗教性が希薄で商業主義に利用される一面は否めない。
[船戸英夫]
もともとはクリスマス当日、教会のクリスマス礼拝から帰って、家族あるいは来客がともに祝って食べるディナーの料理をいう。しかし、最近は、クリスマスの前夜、つまりクリスマス・イブに食べることが多くなっている。また、クリスマス・シーズンに、とくにクリスマスのためにつくる料理もクリスマス料理とよんでいる。イギリス、アメリカはシチメンチョウのローストを主菜とし、フランスやイタリアではローストチキンやソーセージ、オーストラリアではホゲット(生後1年~1年半の羊肉)のローストが中心になるなど、鳥や肉のローストが多く用いられる。とくにデザートは国により大きな特徴があり、いずれもいわれのあるものである。イギリスではフルーツ、香料をたっぷり入れたクリスマス・プディングやフルーツケーキ、フランスではビュッシュ・ド・ノエルbûche de Noëlをつくる。ビュッシュ・ド・ノエルは、大きな薪(まき)形のケーキで、昔、クリスマス・イブに大きな薪をたいた習慣によるという。ドイツでは、シュトーレンとよばれる、白い粉砂糖をふったフルーツ入りの堅いパン、イタリアではパネトーネというフルーツ入りの菓子パンが焼かれる。日本では宗教に関係なくクリスマス・イブにパーティーをする習慣が広まっている。しかし、ローストの肉とケーキ程度が主で、料理の形式だけをまねている傾向が強い。
[河野友美・山口米子]
『O・クルマン著、土岐健治・湯川郁子訳『クリスマスの起源』(1996・教文館)』▽『国際機関日本サンタピア委員会監修、クリスマスを考える会構成『クリスマス事典』(2001・あすなろ書房)』▽『K・H・ビーリッツ著、松山与志雄訳『教会暦――祝祭日の歴史と現在』(2003・教文館)』▽『チャペルタイムス編『クリスマスをあなたに』(2005・日本教会新報社、星雲社発売)』▽『保坂高殿著『ローマ史のなかのクリスマス――異教世界とキリスト教1』(2005・教文館)』
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イエス・キリストの降誕記念日。12月25日に定められたのは4世紀からで,本来冬至期におけるミトラ教の太陽神の再生の祭りに対抗し,「義の太陽」キリストの誕生を祝うようになった。ギリシア正教会では1月6日の顕現日にクリスマスをあわせ祝っている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このためキリスト教会は週1日の安息日のほか,異教時代の祭日を重視し,これをキリスト教の祝日とした。たとえば,クリスマスは冬至の祭りに由来する。復活祭は,枯れた草木が山野を彩る変化に草木の霊魂の死と復活を信じた異教時代の祭りの趣旨を生かしたものである。…
…モチノキ科の常緑低木で,鋭くとがった歯牙のある硬い葉と赤い実をクリスマスの飾りとする。ときに高さ6mに達し,よく枝分れしてピラミッド形の樹形となる。…
…またマウリドも,農村では農繁期を避けて行われることが多く,下エジプトのタンターでは,アフマド・アルバダウィーのマウリドがエジプト古来の太陽暦(コプト暦)に従って行われ,この日はエジプト各地からさまざまな願いをもった参詣者が訪れて町はごったがえす。【三浦 徹】
[ヨーロッパ]
ヨーロッパの年中行事には,クリスマス,復活祭,聖霊降臨祭のようなキリスト教会の年中行事と,民間信仰的年中行事との両者がある。後者は,異教時代の民衆の自然に対する畏怖と願望をこめた農耕および牧畜儀礼が変化したものであり,前者はキリスト教が異教と習合する過程で成立したものである。…
※「クリスマス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...
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