翻訳|Guatemala
基本情報
正式名称=グアテマラ共和国República de Guatemala/Republic of Guatemala
面積=10万8889km2
人口(2010)=1436万人
首都=グアテマラGuatemala(日本との時差=-15時間)
主要言語=スペイン語(公用語),マヤ系言語
通貨=ケツァルQuetzal
中央アメリカの北部に位置する共和国。北はベリーズ,西はメキシコ,東はホンジュラスとエルサルバドルとに国境を接している。南は太平洋に大きく開かれており,また北はホンジュラス湾を通じてカリブ海とつながっている。中央アメリカ最大の人口を抱え,マヤ系先住民の比重ももっとも大きい国である。
地形的には,太平洋沿岸地帯,中部高原,北部渓谷地帯,ユカタン半島部(ペテンEl Petén)の四つに分けられる。太平洋沿岸はメキシコからエルサルバドルにつづく低地の一部をなしており,短いいくつもの川が流れ,降雨量も多い。中部高原はほぼ東西に走る二つの山脈にはさまれ,人口の多くはここに集中している。南のシエラ・マドレ山脈には火山が多く,その最高峰はタフムルコ山(4220m)である。火山のあいだにアティトラン等の美しい湖がある。北部ではカリブ海に向かって流れる川が深い渓谷をなしており,海寄りには同国最大のイサバル湖(590km2)がある。ペテン地域はユカタン半島の一部で石灰岩からなる低地をなしており,ほとんどが密林におおわれている。ティカル,ピエドラス・ネグラス等のマヤ文化の遺跡が多い。
気候は熱帯に属しているが,地形的な多様性からくる温度上の変化に富んでいる。海岸地帯での年平均気温は30℃近いが,高原では17℃に下がる。5月から11月にかけて雨季があり,11月から5月までが乾季である。総面積の半分は森林である。
人口の大部分はマヤ系の先住民および混血(ラディノladino)で占められ,白人の比重は小さい。公用語はスペイン語であるが,キチェー,カクティケル等のマヤ系言語を話す人々も多い。住民の7割近くは農村部に住み,多彩な先住民の慣習を受け継いでいる。ほとんどがカトリックの信者である。住民間の貧富の格差は大きく,特に農村では教育,保健衛生,住宅等の社会環境の整備は遅れている。教育は小学校(6年制)は義務化され無料であるが,卒業する生徒の数は多くはない。識字率(15歳以上,1995)は60%弱である。高等教育機関としては,グアテマラ市に国立のサン・カルロス大学(1676設立)等がある。社会サービスの多くは,首都に集中している。
同国の政体は1985年憲法で定められた立憲民主共和国で,大統領と一院制議会(定数は1994年から80名に削減された)とは4年ごとに直接の普通選挙で選出される。しかし,任期満了で政権を去った大統領の数は少なく,しばしばクーデタや革命で政権交代が行われてきた。全国は22の県departamentoに分けられ,各県の知事は大統領が任命する。軍隊は陸・海・空の三軍からなり,4万3000人の規模を持つが,1999年までに3分の1に減少する予定になっている。軍部の政治的・社会的発言力は,いまだに強力である。
グアテマラは中米全体の国民総生産の3分の1を占めるが,発展途上国に属し,国民所得の主たる源泉は農業と牧畜である。農牧業だけで経済活動人口の60%を占めている。国内消費向けのトウモロコシ,米,豆類等の生産のほか,輸出用商業作物として砂糖,バナナ,コーヒー,綿花等が栽培されている。石炭,貴金属,ニッケルなどの地下資源,さらに森林資源もあるが,開発が遅れている。近年,石油生産の比重が高まりつつある。工業はまだ未発達で,砂糖製品,繊維,衣服,家具,セメント等がグアテマラ市を中心に生産されている。主たる貿易相手はアメリカ合衆国で,機械,石油製品,肥料等が輸入され,輸出のほとんどは砂糖,コーヒー,綿花,果物類等の農産物である。近年は,中米諸国,日本,ドイツとの貿易量も増大している。通貨単位のケツァルは長期にわたって米ドルと交換比率を1対1に固定されてきたが,現在は変動相場制に移行している。国内運輸は主として道路に依存しているが,全長900kmほどの鉄道もある。国際空港がグアテマラ市にあり,カリブ海側と太平洋岸にはいくつかの港湾がある。
1990年代に入って,経済安定化政策が試みられているが,長期の内戦による社会的疲弊と,とくに農村部での極端な貧困とが,経済発展の大きな障害になっている。
グアテマラはもともとマヤ系の先住民が多く住んでいた場所で,彼らははじめユカタン半島で優れた文明を築いたが,ついで中部高原に進出し,いくつかの小王国を建設していた。1520年代になると,エルナン・コルテスの部下のペドロ・デ・アルバラドらのスペイン人征服者がメキシコより南下し,1541年にはアンティグア市が建設され,グアテマラ総監領が置かれた。鉱物資源に乏しかったため,主として牧畜と農業を中心に植民地社会が営まれた。なお,アンティグア市は1773年の大地震によって壊滅的な打撃を受けたため,総監領の中心地は76年にグアテマラ市に移されている。
1821年にメキシコが帝国として独立するとともに,グアテマラは同帝国の中米州の一部としてスペインから独立し,ついで中央アメリカ連邦(中央アメリカ)の指導的立場についたが,保守派と自由派の内部対立の激化は連邦の解体にいたり(1838),グアテマラは独立した主権国家となった。両派の対立は根深いものがあり,39年から71年まで保守派の長期政権がつづいたのち,自由派の革命によってフスト・ルフィノ・バリオスが政権につき,教会領の没収等の自由主義改革を促進した。
19世紀後半に生産量を増加させつつあったコーヒーは自由派政権下で同国の主要輸出品となった。その間,ドイツ資本を支えとしていたコーヒーに対し,アメリカ資本のもとでカリブ海側と太平洋側の低地でバナナ栽培が拡大し,20世紀初頭にはアメリカ企業ユナイテッド・フルーツ社が同国内で強大な権益を獲得した。バナナの積出港プエルト・バリオスとグアテマラ市および太平洋側のサン・ホセを結ぶ鉄道を敷設したのも同社である。1929年に始まる世界的大不況は同国経済に深刻な打撃を与えたが,31年にホルヘ・ウビコが大統領となり,44年のクーデタで倒されるまで独裁体制を維持し,反対勢力の弾圧と国家主義的経済政策の促進に努めている。44年10月には,小ブルジョアジー,学生が軍部の一部の支持を得て,ウビコを倒した軍事評議会を打倒し,翌年,改革派のフアン・ホセ・アレバロが大統領に選出された。アレバロの改革政策は,50年に選ばれたハコボ・アルベンス・グスマン大統領に受け継がれる。
アルベンス政権は,一連の進歩的政策を実施した。50年当時耕地の70%以上は2%の所有者の手に集中し,他方で57%の農民が土地を持っていなかった。新政権はこのような土地所有の不平等がグアテマラの社会的・経済的発展の障害になっているとし,その変革のために農地改革法を公布し,またユナイテッド・フルーツ社の所有地16万haを収用した。アルベンスの改革に反対する勢力はアメリカの支持を受け,54年6月には隣国ホンジュラスでアメリカのCIAの支援を得て反革命軍を組織していたカスティジョ・アルマス大佐がグアテマラに侵攻し,アルベンス政権は崩壊した。カスティジョ・アルマスたちは農地改革等の一連の改革政策を破棄している。
カスティジョ・アルマスは57年に暗殺され,翌年の選挙ではミゲル・イディゴラス・フエンテスが大統領に選ばれた。イディゴラスは経済開発政策を推し進めるとともに,アメリカの意向を受けて60年にはキューバとの国交を断絶している。同年11月にイディゴラス政権に反対する軍の一部が反乱を引き起こした。この反乱は鎮圧されたが,反乱派の若手将校の一部は左派のゲリラ戦争に加わり,トゥルシオス・リマのようにその指導者となった者もいる。60年代の前半に,グアテマラ各地でいくつものゲリラ組織が出現し,大衆運動も長期にわたる軍部の政治介入に反対し,土地改革を求めた。これに対して,イディゴラス,さらに66年に政権についたフリオ・セサル・メンデス・モンテネグロは厳しい弾圧策をもってのぞみ,国内での対立が激化した。70年に大統領となったカルロス・アラナ・オソリオ大佐も同様な政策を促進し,その大衆への弾圧政策は国際的な非難をあびた。74年にはキエル・ラウヘルド将軍が大統領に選出されたが,その選挙は露骨な軍部の干渉下に行われたため,法的有効性に大きな疑問がもたれた。
弾圧や指導者の相次ぐ戦死のために力が弱まっていたゲリラ運動は,70年代末から再生しはじめ,貧民ゲリラ軍等が農村部で勢力を拡大し,政府軍と激しい戦闘を交えるにいたった。戦火をのがれてメキシコに逃げこむ農民の数が増大したため,メキシコとの国際的緊張も生じた。
80年代に入ると,グアテマラでの政府軍と反政府派の武力衝突は完全な内戦状態を呈しはじめ,カーター政権時代には人権無視を理由に軍事援助を拒んでいたアメリカ政府は,政府側に武器援助を与えるにいたった。82年3月には軍部の強い支持を得たアニバサル・ゲバラ・ロドリゲス将軍が大統領に選ばれたが,野党の多くは選挙での不正を攻撃した。ゲバラが正式に大統領に就くより以前,3月23日に軍部と極右政党はクーデタを起こして権力を掌握し,リオス・モント将軍が大統領に就任した。しかし彼も83年8月,軍事クーデタでその地位を奪われ,国防相のメヒア・ビクトレスが軍事評議会議長に就任した。しかし,長期の軍部支配や人権侵害への内外の批判の声が高まり,86年1月にキリスト教民主党のビセンシアド・ビニシオ・セレソが大統領に就任して,31年間に及ぶ軍政が終わった。しかし,91年に大統領に選出されたホルヘ・セラーノは,議会との対立を理由に,93年5月にお手盛りクーデタで議会と最高裁を解散させた。彼は6月には内外世論の圧力と軍部の敵意のため亡命し,議会は人権オンブズマンのラミロ・デ・レオン・カルピオを大統領に選出した。
91年からゲリラ統一組織であるグアテマラ民族革命連合(URNG)との和平交渉が進められ,96年末に最終合意に達した。36年に及ぶ内戦は,10万を超える死者,20万の孤児を出したうえで一応終結したが,社会的荒廃や広範な人権侵害は解決されるにはほど遠い状況にある。軍部内にも和平に反対する極右勢力が根強い勢力を持っている。96年には中道右派の国民進歩党(PAN)のアルバロ・アルス・イリゴイェンが大統領に就任している。なお92年には,マヤ人の人権活動家リゴベルタ・メンチュ(1959- )がノーベル平和賞を受賞した。
執筆者:山崎 カヲル
グアテマラ共和国の首都であり,中央アメリカ最大の都市。人口102万(2001),大都市域人口337万(2001)。中部高原の南に位置し,標高1493mにあるため,気候は温暖である。1773年にそれまでグアテマラ総督領の中心地であったアンティグアが地震で大打撃を受けたため,76年に本市が首都となった。1821年のグアテマラ独立以降,短期間イトゥルビデのメキシコ帝国中米州の首都となり,ついで23年から33年まで中央アメリカ連合の首都が置かれた。それ以降は,グアテマラ共和国の首都として今日にいたっている。1874年,1917年,18年,76年には大地震に襲われて大きな損害をこうむった。
グアテマラ市には大統領官邸はもとより,政府省庁が集中し,また同国の各種産業活動の集積地でもあるため,街並みは近代化されている。国際空港をはじめとする国際・国内交通網,さらに同国の通信・金融・教育等の中心地でもある。グアテマラの工業活動の3分の2も同市に集中している。1676年に設立されたサン・カルロス大学や国立図書館も同市に置かれている。大統領官邸やカテドラル(1815建設)のような伝統的建築物と近代的ビルディングとが混在する都市である。
なお,市のはずれには古代マヤ族の重要な中心地のひとつカミナルフユKaminaljuyúがある。同地は前1000年よりも前からマヤ族の祭祀センターとして大きな役割を果たしてきたところで,10世紀までにはその重要性を失ってしまったが,今日でも壮大な遺跡が残っている。
執筆者:山崎 カヲル
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中央アメリカにあって太平洋とカリブ海に面し,メキシコ,エルサルバドル,ホンジュラス,ベリーズに囲まれた国。紀元前1千年紀からマヤ文明が発達したが,紀元9世紀以降に衰退し,その末裔が多くの集団に分かれて住んでいた。1520年代にスペイン人による征服と植民が進み,16世紀半ばには中央アメリカ全体を管轄するグアテマラのアウディエンシアが置かれた。1823年メキシコから分離した中央アメリカ連合の解体により独立し,ラファエル・カレラの独裁政権のもとに,1847年共和国の独立を正式に宣言した。1870年代から1940年代まで自由主義派の独裁が続いた。44年にアルベンスらが農地改革を中心としたグアテマラ革命を試みたが,アメリカの干渉で失敗。その後,強権的な寡頭(かとう)支配体制が続くなかでゲリラ勢力も拡大し,90年代まで内戦状態が続いた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
… 16,17世紀には二つの副王領しか存在しなかった。1535年に創設されたメキシコ市を主都とするヌエバ・エスパニャ副王領は現在の北アメリカの南部とメキシコ,それにパナマを除く中央アメリカ全域とアンティル諸島およびベネズエラの沿岸地方を含み,その領土内にはサント・ドミンゴ,メキシコ市,グアダラハラとグアテマラのアウディエンシアがあった。いまひとつは1543年に設置されたペルー副王領で,パナマのほか,ベネズエラ沿岸地方を除く南アメリカ全域を包摂し,リマを主都とした。…
※「グアテマラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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