1924年製作のアメリカ映画。サイレント映画史を飾る名作でもあり,いわゆる〈のろわれた映画〉でもある。アメリカ映画が扱い得なかった人間の貪欲(グリード)と堕落というテーマを,その〈自然主義リアリズム〉で描き切った〈ハリウッドの完全主義者〉エーリッヒ・フォン・シュトロハイム監督作品。映画も人生の現実をディケンズ,モーパッサン,ゾラなどの作品のようにとらえて描くことができると主張するシュトロハイムは,ハリウッドのセットをまったく使わず,全編,原作(フランク・ノリスの小説《マクティーグ》)が設定しているサンフランシスコとネバダ州南部の〈死の谷〉で撮影を強行し,常識をやぶる47巻12時間という大作を完成したが,紆余(うよ)曲折を経たのち,最終的には〈原作も脚本も読んでいない〉他者の手で10巻2時間強に短縮され,題名も原作と同じ《マクティーグ》から《グリード》と改題されて公開された。1958年,シュトロハイムの未亡人の協力を得てベルギー王立シネマテークがシュトロハイム自身による脚本を出版した。
執筆者:柏倉 昌美
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アメリカ映画。1924年作品。監督エリッヒ・フォン・シュトロハイム。26年(大正15)日本公開。フランク・ノリスの小説『マクティーグ』(1899)をもとに、シュトロハイム自身がシナリオを書いている。炭坑で働いていたマクティーグ(ギブスン・ゴーランド)が巡回歯科医の見習いをやり、都会へ出て無免許のまま開業し、トリナ(ザス・ピッツ)と知り合い結婚する。しかし、トリナは守銭奴と化し、結婚生活も破綻(はたん)、妻を殺したマクティーグも砂漠で死に直面するという物語。『愚かなる妻』(1921)で異色の才能を発揮したシュトロハイムの代表作であり、サイレント映画の秀作の一つとされる。庶民のなかのあさましい「貪欲(どんよく)」を直視した悲劇で、人間の性情や欲望の醜さを生々しく描写した。ただし、42巻、9時間半にも及ぶ上映時間のため、一般には10巻2時間強の短縮版が公開された。描写は一般にいわれているようなリアリズム一辺倒ではなく、誇張、滑稽(こっけい)味、象徴、シュルレアリスムなどの手法もみられ、描写には厚みがある。
[岩本憲児]
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…19年,処女作《アルプス颪(おろし)》を原作から脚本,美術,監督,主演に至るまですべて一人でやって完成したが,2万5000ドルの製作費が大幅にオーバーして10万ドルもかかり,以後1作ごとに〈金を使いすぎる〉監督という烙印(らくいん)を押されていくことになる。映画も映画づくりも従来のハリウッドにはなかった徹底した〈リアリズム〉で人々を驚かせ,とくに商業主義との妥協を拒絶した結果,どの作品も興行不可能な常識外の長尺となり,《悪魔の合鍵》(1919)に次ぐ《愚かなる妻》(1921)は18巻,《グリード》(1923)は42巻で8時間をこえるというすさまじさであった。いずれもずたずたにカットされ,《愚かなる妻》は2/3以下の10巻に,《グリード》に至っては24巻,18巻と短縮され,最終的には1/4以下の10巻に縮められて公開された。…
…ユニバーサルの創立者カール・レムリの秘書をへてルイス・B.メイヤーのもとでMGMの製作担当となり,ミュージカル映画の製作の着想など,MGMの黄金期の業績はタルバーグの創造的才能によるところ多大であるとされている。地位や権力によって〈君臨〉した他の〈タイクーン〉とは異なり,たとえば《グリード》(1924)をめぐって監督のシュトロハイムと対決して編集権は製作者にあることを論理的に主張する一方,《ビッグ・パレード》(1925)の製作には費用を惜しまず,監督のキング・ビダーにスペクタクル場面を追加撮影させたりして,〈タルバーグは映画をつくるのではなく,映画をつくり直すのだ〉といわれた。製作者として近代的合理主義を貫き,これ見よがしにクレジットタイトルに名まえを出したことはなく,死後公開された《大地》(1937)の冒頭に〈故アービング・タルバーグの霊に捧ぐ〉とたたえられたのがタイトルにその名が出たただ1本の映画である。…
※「グリード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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