精選版 日本国語大辞典 「ケインズ学派」の意味・読み・例文・類語
ケインズ‐がくは【ケインズ学派】
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J・M・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)の影響を強く受けた経済学派の一つ。政策論的にはマクロ経済における政府の総需要管理の必要性を強調する。P・A・サミュエルソンの新古典派総合に象徴されるように、長期的には価格メカニズムによる効率的な資源配分機能を強調する新古典派の立場をとりながらも短期的な総需要管理策(財政金融政策)の必要を説くものも含まれる。2008年のアメリカ発の金融危機(グリーンスパン前FRB(連邦準備制度理事会)議長によれば100年に一度の信用津波)への対処法としてケインズの復活がうんぬんされるのは、このような政策の次元での話である。
近年この名称が用いられることはほとんどなくなったが、それは理論的にはもっと厳密な意味をもつものであった。ケインズ経済学の理論的核心が何かについては意見の完全な一致があるわけではないが、おおむね次のようなものであると思われる。ミクロの行動の積み上げがマクロの行動になるわけではなく、逆にマクロをミクロの部分に還元することはできないこと(いわゆる合成の誤謬(ごびゅう)の存在)、経済を動かすものは有効需要の原理(企業は経済について不確実な需要を予想し、そのなかで自らの利益を最大にするような水準で生産を行う)であること、したがって完全雇用水準での生産がいつも保証されるわけではないこと(セーの法則の否定)、現実の世界では実物世界と貨幣世界を切り離すことはできず、貨幣が経済において重要な働きをしていること(貨幣ベール観・貨幣数量説の否定。マネタリストの「貨幣が重要である」との主張は貨幣数量と物価との関連を主張しているにすぎない)などである。投機活動の膨張が経済の不安定化をもたらす危険があるとされるのはこの文脈においてである。しかし、「ケインズ革命」(L・R・クラインによる命名)とまでいわれたケインズの経済学はかならずしも古い経済学を一新したものとはならず、そのため、ケインズの経済学として広く流布したのは、ケインズの考えを特殊理論とし、ケインズが批判の対象としたA・マーシャルの考えを一般論とするJ・R・ヒックスのIS‐LM論的ケインズ解釈であった。
1950年代ごろから今日に至る代表的な経済学の入門書、たとえば、サミュエルソンやマンキューNicholas Gregory Mankiw(1958― )、G・E・スティグリッツ、P・R・クルーグマンなどの教科書をみればわかるように、ケインズの経済学はすでに主流派の新古典派経済学に包摂されたとする考えがある一方、そうした主張を認めず、上述したようなケインズの主要な要素をもとに成長理論や構造動学理論など、さまざまな方向へ展開を行っている研究者も多い。それらの論点は多岐にわたり、なかには長期的均衡の存在を想定しての理論構築の可否や貨幣供給は外生的か内生的かなど、その細部においてグループ内での意見の相違・対立もないわけではないが、現在ではこれらの狭義のケインジアンのほか、制度学派やマルクス経済学の影響を受けた研究者など、新古典派経済学と一線を画すものを総称してポスト・ケインズ派とよぶことが多い。代表的な狭義のケインジアンとしては、イギリス・ケンブリッジを中心とした経済学グループではカーンRichard Ferdinand Kahn(1905―1989)、J・ロビンソン、N・カルドア、パシネッティLuigi Lodovico Pasinetti(1930―2023)、スラッファPiero Sraffa(1898―1983)、シャックルGeorge Lennox Sharman Shackle(1903―1992)、ハーコートGeoffrey Colin Harcourt(1931―2021)、ローソンTony Lawsonらが、アメリカではワイントラウプSidney Weintraub(1914―1983)、ミンスキーHyman Philip Minsky(1919―1996)、グッドウィンRichard Murphy Goodwin(1913―1996)、デービッドソンPaul Davidson(1930― )らが、日本においては宮崎義一(よしかず)、伊東光晴(みつはる)(1927― )、浅野栄一(えいいち)(1929― )、菱山泉(ひしやまいずみ)(1923―2007)らがあげられる。
[大塚勇一郎]
『J・V・ロビンソン著、宇沢弘文訳『異端の経済学』(1973・日本経済新聞社)』▽『L・L・パシネッティ著、大塚勇一郎・渡会勝義訳『構造変化と経済成長』(1983・日本評論社)』▽『G・C・ハーコート、P・A・リーアック編、小山庄三訳『一般理論―第二版』(2005・多賀出版)』
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