サティー(その他表記)suttee
satī [サンスクリツト]

改訂新版 世界大百科事典 「サティー」の意味・わかりやすい解説

サティー
suttee
satī [サンスクリツト]

ヒンドゥー教徒の古い慣習で,寡婦が夫の火葬のときいっしょに生きながら焼かれ葬られること,あるいはその後の殉死をさす。サットsatの女性形で,〈貞淑な妻〉を意味する。サティーはかなり古くから見られたが,中世になってインド諸地方に広くひろまり,村々にはこれを記念した石が数多く残されている。中世のサンスクリット文献には,サティーによって家族の宗教的な罪が滅するとその功徳がたたえられたが,現実には戦士階級の倫理,女の地位の低下,寡婦の生活のみじめさがこの慣習を助長したのであって,寡婦の自発的行為だけでなく,親族強要もあり,薬物も使用された。19世紀に入ってもサティーはベンガルなどで数多くの事例があり,1815年以後ラーム・モーハン・ローイたちは,この禁止運動を進め,1829年にイギリス植民地政府が法律を制定して禁止した。
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百科事典マイペディア 「サティー」の意味・わかりやすい解説

サティー

〈貞淑な女〉の意味。寡婦が,夫の火葬の際,一緒に生きながら焼かれるヒンドゥー教の古い慣習をさす。中世のヒンドゥー社会では,一般に幼児婚が行われ,非常に幼い寡婦もあった。加えて寡婦は宗教的に不浄な存在とみなされ,社会から忌避された。このような寡婦の悲惨な生活と女性の地位低下から,寡婦の理想として殉死を求める社会状況が生まれ,これが慣習化した。禁止法は1829年制定されたが,今日でもまれに行われることがあり,焚死した寡婦は女神として祭られることが多い。
→関連項目ベンティンク

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「サティー」の解説

サティー
satī

寡婦殉死語義は「貞節な妻」。本来は殉死する寡婦のことをさす言葉だが,慣習の意味にも使われる。夫が死んで荼毘(だび)に付されるときに,寡婦も一緒に焼かれて死ぬ,ヒンドゥー教の慣習のこと。戦士階級の古い慣習が,中世になって広まったと考えられる。ヒンドゥー教では妻は夫に献身する存在とされるので,殉死する寡婦は妻たる者の模範であり,家に功徳をもたらすと考えられた。19世紀初めの調査によれば,年間600件程度の事例がみられた。これに対してラームモーハン・ローイは,1815年から禁止運動を進め,植民地政府は法律によって29年に禁止した。しかし慣習は根強く残り,現在でも稀に行われることがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サティー」の意味・わかりやすい解説

サティー
satī

インドの社会的風習で,寡婦が亡夫の火葬の火で殉死することをいう。古くから支配階級の間で行われたが,のちに一般にも行われた。インド各地に殉死した寡婦を顕彰する碑などが残っており,また,殉死した寡婦の霊魂を神として崇拝する土俗的信仰もみられた。ブラーフマ・サマージを創設したラーム・モーハン・ローイはイギリス総督を動かしてサティーの風習を禁止させ,やがてこの風習は 19世紀になると消滅した。しかし,近年夫がダウリー (持参金) 欲しさに妻を焼死させ,複数の婚姻を行うなど現代版サティーともいえる事件が起きている。

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旺文社世界史事典 三訂版 「サティー」の解説

サティー
sati

インドのヒンドゥー教徒の間にあった旧習で,夫の火葬の最中に寡婦が火の中に飛び込んで殉死するもの
貞淑な妻を意味するサットから生まれた言葉で,この風習は特にクシャトリヤの武人階級の家を中心に,中世以降インド各地に広まっていった。19世紀にはいると社会運動家のラーム=モーハン=ローイらの禁止運動が進み,1829年にインド政庁により法律で禁止されたが,この行為を美徳とする考えは以後も残った。

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世界大百科事典(旧版)内のサティーの言及

【シバ】より

…その他の場合も破壊神としてのイメージが強く,金・銀・鉄でできた悪魔の三つの都市(トリプラ)を一矢で貫いて焼き尽くしたので,〈三都破壊者〉と呼ばれる。彼はまた,妻サティーSatīの死を悲しんで,彼女の父ダクシャの祭式を破壊する。ヒマラヤの娘パールバティーPārvatī(ウマー,ドゥルガー,ガウリーなどとも呼ばれる)はサティーの生れ変りとされ,苦行の末に彼の妻となった。…

【家】より

…これがバラモンの理念であって,上級カーストではこれが遵守されたが,下級カーストでは離婚も再婚もおこなわれ,ダウリの慣習もなかった。この婦女の地位の低さから,サティー(〈貞淑な妻〉の意)とよばれる妻の殉死が,上層・中層カーストの間でおこなわれ,それは夫の遺体と一緒に生きながら妻も火葬されるもので,インドの村々にはサティーの記念像柱が多数残っている。【山崎 利男】
【中東・イスラム社会】
 家族を表すアラビア語は一般にはアーイラ‘ā’ilaである。…

【婚姻】より

…女性が結婚しないのは家の恥とされ,初潮のときまでに結婚させるという考えが強かったためである。このように女性の地位が低かったため,〈サティー〉とよばれる夫の遺体といっしょに妻が生きながら火葬される殉死,婚姻にあたって花嫁の家から花婿の家に支払われる多額な持参金(ダウリdowry)や,幼時に夫が死亡して処女のまま寡婦として一生過ごす生活など多くの悲劇を生んだ。19世紀以後,これらの悪弊を改革する運動がおこり,〈サティー〉の禁止(1829),寡婦再婚の認容(1856),幼児婚の禁止(1929)といった法律が制定された。…

【殉死】より

…古代中国の帝陵で殉死者が生き埋めにされていた形跡があるのも,これと類似の観念にもとづくものと考えられよう。 夫の死を未亡人が追わなければならないというかつてのインドで見られたサティーの習俗は,シバ神とその妻サティー神についての神話に結びついている。サティーは彼女の父によって山中に閉じ込められたシバを救うため,みずからを犠牲にささげた。…

※「サティー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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