改訂新版 世界大百科事典 「サトイモ」の意味・わかりやすい解説
サトイモ (里芋)
taro
cocoyam
Colocasia esculenta(L.)Schott
食用とするサトイモ科の多年草。インド東部からインドシナ半島部にかけての地域が原産地であり,古く稲作の渡来以前に日本でも栽培されていたと考える人もある。茎は地中にあってほとんど伸びず,肥大して塊茎(いも)となる。葉は長さ1~1.5mの葉柄(ずいき)を直立し,葉身は楯形,卵円あるいは心臓形で,長さ30~50cm,幅25~30cm。表面が滑らかで水をはじく。地上に抽出した長い花茎の先に肉穂花序をつけ,仏焰苞(ぶつえんほう)に覆われる。肉穂花序は長さ10~25cmで,基部約4cmは雌花のみが多くつき,その上部に雄花のみつく部分があり,さらにその上は無性花のつく付属体となっている。日本では花期は10月ころであるが,まれにしか咲かない。
サトイモの品種はきわめて多い。日本で栽培の多い品種は,赤芽,土垂(どたれ),石川早生,唐芋(とうのいも),八頭(やつがしら)など。品種はいものつき方などから数型に分類されている。すなわち,(1)子いもが多くでき,親いもから容易に離れ,子・孫いもが収穫対象とされるもの(土垂,石川早生,蘞芋(えぐいも)),(2)子いもはやや多く,親いもと密生して分離し難く,親いもはよく肥大し主収穫対象となるもの(唐芋,八頭),(3)子いもは少なく,おもに親いもを収穫対象とするもの(赤芽,海老芋(えびいも)),(4)もっぱら葉柄を食用として収穫するもの(蓮芋(はすいも)。植物分類上からはサトイモとは別種であるが,農業上はサトイモに含める)。栽培は畑作が主であるが,ときには湿地,水田に栽培されるものもある(水芋,田芋)。萌芽の最低温度は15℃,生育適温は25~30℃。5℃までは低温に耐えられるが,霜にあうと枯れる。普通4月ころ,東北地方では5月中旬に種いもを植え付ける。早生品種は8~9月下旬から,暖地で晩生種は11月中旬に至って収穫する。貯蔵には5℃以上を保つ必要がある。低温に弱いため北海道では経済的な栽培はなく,東北地方でも経済的にやや不利である。関東地方でも早生子いも用品種が主で,晩生の親いも用品種は東海地方以南で栽培される。
東南アジアの一部や熱帯太平洋の島々では親いも型の品種群が主食として利用されるが,日本では塩ゆでにして食べるほか,芋雑煮,芋汁など主食的に,また汁の実,田楽など副食蔬菜(そさい)用にする。葉柄は汁の実,漬物,煮物とされる。品種により葉柄にシュウ酸を多く含み,えぐくて生食できないが,十分に乾燥させることにより,えぐみは失われる。
→いも
執筆者:星川 清親
食用
《和名抄》に見られるように,古く〈芋〉と書けば〈いえついも(家芋)〉と読み,サトイモのことをいった。《正倉院文書》には〈芋〉〈家芋〉などのほか,〈芋荎〉としてずいきの名が見え,それらが売買されていたことが知られる。《本朝食鑑》(1697)には,八月十五夜には枝豆とともにゆでて食べ,九月十三夜には皮をつけたままの衣被(きぬかずき)を栗とともにゆでて食べ,正月三が日の雑煮には必ず親いもを入れるとしている。雑煮に入れることは室町期成立とされる《庖丁聞書》にも見え,その発祥は不明だが,かなり古くからのならわしであろうと思われる。衣被は,今はなまって〈きぬかつぎ〉と呼ぶことが多い。石川早生などの子いもを黒い皮をつけたままゆで,塩などをつけて食べる。品種を問わず煮物や汁の実,田楽などに多く用いられるが,海老芋を棒ダラと煮た〈芋棒〉は京都の名物料理として知られる。サトイモにはガラクタンと呼ぶ炭水化物とタンパク質の結合した粘性物質が含まれており,皮をむくとこのぬめりがいも全体を覆う。ぬめりは調味料の浸透をさまたげるので,煮る前に塩もみするか塩水でゆでこぼすとよい。皮をむくと手指がかゆくなるのはシュウ酸カルシウムが原因だろうといわれる。成分はほとんどがデンプンで,ほかにとりたてていうべきものはない。
執筆者:鈴木 晋一+松本 仲子
民俗
関東,中部から西日本にかけて,第2次世界大戦前まではサトイモを主食の一部とする村があった。そのため,正月の雑煮には餅を入れることを禁じてサトイモだけを食べたり,神仏に供えるなどの村や一族がある(餅無し正月)。そのほか盆,八月十五夜などの年中行事をはじめ冠婚葬祭などに,サトイモを供え物にしたり,料理に欠くことのできぬ食料とする地方は多い。関東から西の焼畑地帯では,雑穀とともにサトイモを栽培しており,ゆでたサトイモをつぶして小豆あんをまぶして食べるなど,独特の料理法が発達していて,水田稲作とは異なった文化を構成する要素であったらしい。滋賀県蒲生郡日野町中山では,9月1日に二つの村がサトイモの長さを競う芋くらべ祭がおこなわれている。
執筆者:坪井 洋文
サトイモ科Araceae
単子葉植物の比較的大きな科の一つで,110属あまり,約1500種が湿潤な熱帯を中心に全世界に分布している。すべて多年草で,茎が地上に立つもの,あるいは木などによじ登るつる性のものは熱帯に限られるが,地表を横走するもの,地下にもぐるもの,さらに球茎(球根)になるものは温帯圏に多く見られる。葉はセキショウなどの例外的なものを除くと,単子葉植物としてはよく発達した大きな葉身を有し,葉柄基部は新芽をだく葉鞘(ようしよう)になっているものが多い。また単子葉植物としては例外的な羽状複葉が一部の属に見られる。葉脈は平行脈からサトイモやテンナンショウ類に見られる双子葉的な〈網状脈〉までいろいろな分化がある。このサトイモ科を科として特徴づけるのは,花軸に多数の小型の花を密集してつける肉穂花序と,それを包む発達した苞(仏焰苞)である。仏焰苞にはミズバショウやセキショウ類のように,通常,葉の特徴を強く残しているものから,アンスリウムやカラー(オランダカイウ)のように美しい色彩を有するもの,花後には脱落するもの,花後も若い果実を保護するように宿存するものなどさまざまな変化がある。小さくて,通常,仏焰苞に包みかくされている花はさらに変化に富み,花被片,おしべ,めしべのそろった完全花(セキショウ,ミズバショウ,ザゼンソウ)から,花被片を欠く両性花(ハブカズラ),不稔のおしべあるいはめしべの残る単性花(北アメリカのペルタンドラPeltandra),さらに稔性のあるおしべあるいはめしべのみからなる単性花(サトイモ,クワズイモ,テンナンショウ)と性的な分化の程度はさまざまで,それらの花の肉穂花序上での配列のようすや,おしべの合生の仕方,子房における胚珠のつき方などは分類のときに重要な特徴形質になっている。果実の多くは液果で,種子には胚乳のあるものと,それを欠き子葉に養分をためるものとがある。大部分のものは湿潤な場所を好み,ボタンウキクサのように浮遊性の水草もある。
植物体はシュウ酸カルシウムの針状結晶を有し,強烈なえぐみを有するものが多いが,若芽や葉(サトイモ,テンナンショウなど),デンプンをためた茎,地下茎,球根(サトイモ,コンニャク,テンナンショウ,クワズイモ,ヤウテアなど),あるいは果実や種子(モンステラなど)が食用に利用される。アンスリウムやカラーは,その美しい仏焰苞を観賞するために植栽される。また森林陰地性の種が多く,日陰でよく生育するので,室内観葉植物として利用される種(フィロデンドロン,アロカシア)も多い。
サトイモ科とウキクサ科は,ごく近縁な科であるが,その他の植物群との関係については,花序の形態的な類似からヤシ科やタコノキ科に類縁を認める意見から,ユリ科の穂状の花序を有するものとの類縁,あるいは独立的で孤立した群という意見まであり,サトイモ科の単子葉植物内での系統的な位置については,まだよくわかっていない。
執筆者:堀田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報