出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
クルド人軍人でアイユーブ朝の創始者。「サラディン」はヨーロッパ人の呼び方で、正しくはサラーフ・アッディーン・ユースフ・ブン・アイユーブSalā al-Dīn Yūsuf b. Ayyubという。ザンギー朝に仕える軍人を父としてイラクに生まれる。ザンギー朝のヌール・アッディーンに仕え、1169年にエジプトに派遣され、ファーティマ朝の宰相となり実権を握り、アイユーブ朝を創建。71年にカリフ・アーディドが死んだのちは、名実ともにエジプトの支配者となった。74年のヌール・アッディーンの死後はシリア地方に進出し、再統一に努めた。シリアのムスリム勢力を統一したのちに、十字軍との対決に向かい、87年にパレスチナ北東部のヒッティーンで十字軍の主力を打ち破り、約90年ぶりにエルサレムを解放した。その後、十字軍勢力をレバノン、パレスチナの海岸部に押し戻した。これに対抗して第3回十字軍が組織されたが、サラディンはこれをよく防ぎ、これ以後、十字軍とムスリム勢力の力関係は逆転し、十字軍は地中海岸沿いの地域を守る立場に追い込まれた。
サラディンは基本的にはヌール・アッディーンの政策を受け継ぎ、エジプト、シリアにまたがる地域の政治的統一、十字軍に対するジハード(聖戦)の遂行、スンニー派イスラムの確立を目ざした。武将としてのサラディンは、ムスリムにも十字軍にも武人の鑑(かがみ)として尊敬され、双方の文学の題材ともなっている。
[湯川 武]
1138~93(在位1169~93)
サラーフ・アッディーンともいう。イスラーム世界の政治家,武人。クルド出身。初めアレッポのザンギー朝,のちにエジプトのファーティマ朝に仕えて権力を握り,アイユーブ朝を興した(1171年)。シリアやイラク北部を経略し,イスラーム勢力を結集して十字軍を破り,イェルサレムを回復(87年)。第3回十字軍とアッカ港を争い,和議を結び(92年),翌年ダマスクスで没した。イスラームのヒューマニズムの具現者と称えられている。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…街区ごとに宗派別の住み分けが行われるようになるのは,キリスト教徒十字軍のエジプト侵攻とスンナ派復活の影響が現れる12世紀半ば以降のことである。 ファーティマ朝の宰相となって実権を掌握したサラーフ・アッディーン(サラディン)はアイユーブ朝(1169‐1250)を創始し,国家の宗旨をシーア派からスンナ派に変更するとともに,それまでセルジューク朝やザンギー朝で実施されていたイクター制をエジプトに導入し,これを軍隊編制と農村支配のための基本制度に定めた。ナイル川流域のエジプトは政府による統治が容易であったから,水利機構の管理・維持は比較的よく行われ,その結果,農業生産は安定し,商品作物であるサトウキビも下エジプトから上エジプトへとしだいに拡大していった。…
…翌年,ダマスクスで没。武人として優れた才能を発揮したばかりでなく,イスラムの慣行に基づいて異教徒を公正に扱い,その博愛主義のゆえにヨーロッパの文芸作品にもサラディンSaladinの名でしばしば登場する(レッシングの《賢者ナータン》やW.スコットの《タリズマン》など)。財政難に苦しみながらも,カイロにモスクやマドラサを盛んに建設して,イスラム諸学の振興に努めた。…
…これは当時ファーティマ朝が弱体化しており,一方では北部から中部シリアにかけてセルジューク・トルコの流れをくむトルコ系諸勢力が乱立していたため,シリア全土が政治的には一種の真空状態にあったためである。イスラム側の勢力を統一して十字軍に対抗するにはかなり時間がかかったが,ザンギー朝(1127‐1222)のヌール・アッディーンによってかなり推進されたこの事業を,サラーフ・アッディーン(サラディン)が完成させた。サラーフ・アッディーンはマムルーク(奴隷軍人)の力を結集し,その活動の結果,十字軍は地中海沿岸地方に押し込められた。…
※「サラディン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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