イラクの首都バグダードの北西約110kmのティグリス川左岸に位置する都市。人口12万5000(2003)。その南東方の郊外にあるテル・アッサッワーンTell al-Sawwānの遺跡から近年,前6千年紀のアラバスター製女性小像や前5千年紀の彩文土器が発見されている。アッバース朝時代に第8代カリフ,ムータシムal-Mu`taṣim(在位833-842)によってバグダードからここに政庁が移され,約50年間(836-892)首都として栄えた。現在,シーア派の聖地で,第12代イマーム,ムハンマド・アルムンタザルの聖所と,第10代イマーム,アリー・アルアスカリーおよび第11代イマーム,ハサンの墓廟が,アリー・アルハーディー・モスクにある。
都城址は,1910-14年にヘルツフェルトの指揮のもとにドイツ調査団によって発掘された。遺構としては,カリフ,ムタワッキルが建てたアッバース朝最古の,しかもイスラム最大の規模を誇る煉瓦造の多柱式モスクとそのらせん状ミナレット(マルウィーヤ),アブー・ドゥラフのモスク,世俗建築としてカリフの宮殿・邸宅であるジャウサク・アルハーカーニーJawsaq al-Khāqānī,バルクワーラーBalkuwārā,カスル・アルアーシクなどがある。各遺跡から発掘された陶器などの出土遺物は,製作年代がほぼ明らかであるため資料的価値は高い。また,宮殿や邸宅を飾っていたしっくいの腰羽目に表された葡萄唐草など各種の植物文様は,イスラム独特のアラベスクに発展する過程を示して興味深い。
執筆者:杉村 棟
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…前6千年紀には東シリアのハラフ(ハラフ文化),北イラクのハッスナ(ハッスナ文化)などで,より進んだ村落文化がみられる。わずかに遅れてザーグロスの丘陵のチョガ・マミ,サーマッラー近くのテル・アッサッワーンTell al‐Sawwānなどにサーマッラー文化が成立した。前者は天水農耕成立のための限界降雨量の地域にあり,また後者では天水農耕はまったく不可能であった。…
※「サーマッラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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