改訂新版 世界大百科事典 「ザクロ」の意味・わかりやすい解説
ザクロ (石榴/柘榴)
pomegranate
Punica granatum L.
観賞用,食用,薬用に栽培されるザクロ科の落葉樹。地中海東岸から北西インドに至る地方に分布し,西南アジア地域でもっとも古くから栽培された果樹の一つである。ヨーロッパにはギリシア時代,中国には3世紀終りごろ,日本へは平安期以前に渡来している。小高木で分枝が多く,とげがある。葉はほぼ対生し,長楕円形。6~7月,新枝に朱赤色の花を開く。果実は球形で径6cm内外。先端に6裂した萼が残存する。9~10月に熟すと紅色の外果皮が不規則に裂開し,薄膜でくぎられた小室内に存在する多数の種子が露出する。種子の外皮は淡紅色透明で多汁質となっている。現在では中国,アメリカ南東部やカリフォルニア,インド付近などで大量に栽培されている。品種は50以上もあり,大果品種では果実が500gから700gに達するものもあり,アフガニスタンには種皮の内部が木質化しないタネナシザクロがある。水晶石榴,剛石榴,大紅石榴は中国の有名大果品種である。日本のものは食用とするミザクロより観賞用のハナザクロが主で,ハナザクロには八重咲品種や白,黄,紅,紅白絞りなどの色がわりがあり,樹形も高木になるものから一歳ザクロ,ヒメザクロのように矮性(わいせい)のものまである。ヒメザクロは小花で果実の径は3~4cmしかなく,鉢植え,盆栽用に適する。ふつう休眠枝挿し,緑枝挿し,盛土取木法でふやす。酸性土,排水不良の湿地をさけ,根もとから多発する徒長枝や密生枝を除いて,日当りと通風をはかるのがよい。シンクイムシ防除には果実に紙袋をかける。果実は甘酸っぱく,生食するほか,ピンクの美しい果実酒や清涼飲料の製造に用いられ,花は観賞用とされる。また,根や樹皮はアルカロイドのペレチエリンpelletierineを含有し,駆虫薬として用いられ,また果皮は下痢止めに利用された。
執筆者:松井 仁
民俗
鬼子母神は子授け,安産,育児の神として,とくに日蓮宗の寺で信仰され,ザクロの絵馬を奉納して,祈願したり礼参りをする風は広い。鬼子母神はもと鬼神王の妻で,1000人の子どもを産んだが,他人の子を取って食うため,仏が最愛の末子を隠して悔い改めさせ,安産の守護神となったという伝説に基づいて,鬼子母神には人肉の味のするというザクロが奉納されるようになった。そのほか,鬼子母神が手に持つ吉祥果やその神紋もザクロとされており,鳥取県岩美郡ではザクロには鬼子母神が腰かけているので,屋敷に植えたり切ったりしないという。ザクロは花や果実が赤いためか,一般に仏壇に供えるのを嫌い,またザクロを屋敷に植えると,病人のうなり声を聞きたがる,病人が絶えない,凶事があるなどといって忌む所が多い。またザクロの木が家より高くなると,家が栄えないともいう。反対に,ザクロは吉木とされ,これを植えれば家が繁盛し,子宝に恵まれるという所もある。金属鏡の使われた時代には,鏡を磨くのにザクロの実の汁が用いられた。またザクロは果皮がひじょうに苦く辛いところから薬用にもされ,歯痛には果皮をかむとよいといわれ,根を煎じたものは虫下しや婦人病に効くとされた。茨城県では,ザクロの木の下で子どもを遊ばせれば,疳(かん)の虫を封ずるという。また中国では,ザクロは子孫繁栄の象徴として結婚式の縁起物にされたという。
執筆者:飯島 吉晴
シンボリズム
ザクロは種子が多いので,古代ギリシア・ローマでは豊穣(ほうじよう)のシンボルであった。ギリシア神話では,少女ペルセフォネが冥府の王に地下界へ連れ去られたときに,そこでザクロを食べさせられたために地上への完全復帰が不可能となり,一年の3分の1は地下界で,残りは地上でという生活をせざるをえなくなったといわれる。ザクロが冥府の食物だということは,冥府つまり大地が穀物の種子をはぐくみ豊かな収穫をもたらすという事実と,ザクロに種子が多いという事実との観念連合に基づくものであろう。実際,ペルセフォネもまた大地と豊穣の女神であり,穀物の種子のシンボルであり,上記の神話は穀物の種子が地中にまかれ,芽を出し実を結ぶという事実の反映である。キリスト教はこのギリシア神話を自己流に利用し,種子自体は死んでもそこから新しい芽をふくという事実を,死と復活の教義に結びつけた。それゆえキリスト教では,ザクロは再生と不死に対する希望のシンボルとなった。
執筆者:山下 正男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報