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フランスのカトリックの宗教思想家,モラリスト。パリに生まれ,パリ,モンペリエで法律を学んだのち弁護士として立ったが,1576年以降説教家としてフランス各地を巡って名声を博し,主としてボルドー市にあった80年代にはモンテーニュと親交を結び,その相対主義的な人間考察に多くを学ぶ。96年にパリにもどり,没。著作にはいくつかの論説集,説教集があるが,主著のひとつ《三つの真理》(1593)は,無神論者にたいして宗教の必要性を,異教徒にたいしてキリスト教の真実性を,またプロテスタントにたいしてカトリック教会の正統性を説くキリスト教弁証論であり,これは国王アンリ4世の旧教への改宗(1593)による宗教戦争の収束と王権の確立に同調する。また代表的著作《知恵について》(1601)は,モンテーニュから古代世界の事例を借用しつつ,懐疑主義的な知的探索の方法をも模倣して,人間の情念,徳性,英知等について分析,分類,体系化を試みるものである。これは,その師にひきつづき,人間の性質,行動について省察を加えその表現化に工夫をこらす〈モラリスト〉の文学を支える仕事であるとともに,やがて確立されるべき合理主義的な世界理解の方式を生み出す基礎作業であったとも見なされる。17世紀前半期におけるこの書物の多数の重版と翻訳は,時流のそのような傾向を物語るものであろう。
執筆者:荒木 昭太郎
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