イギリスの経済学者、論理学者。ロンドンのユニバーシティ・カレッジで地質学や植物学を学んだが、家庭の経済的困窮のため、学業なかば、18歳でオーストラリアの造幣局に赴任した。1859年に帰国、復学して、経済学、論理学、数学などを学び、66年マンチェスターのオーウェン・カレッジ教授となる。76年から母校の教授を務めたが、80年教授職を辞し、82年夏遊泳中死去した。
ジェボンズは、C・メンガー、L・ワルラスとともに、わが国での通称「近代経済学」の体系的出発を画する限界革命を担ったトリオの一人であり、その主著『経済学の理論』Theory of Political Economy(1871)では、生産費説にたつ古典派経済学を鋭く批判し、経済学を快楽・苦痛の微積分学として革命化しようとした。そのほか、当時イギリスの動力源だった石炭の早晩の枯渇を予言してベストセラーになった『石炭問題』Coal Question(1865)をはじめ、貨幣論、景気循環論(太陽黒点説でも有名)の優れた理論的・経験的研究や、論理学、科学方法論面での重要な業績など、多くの著書がある。なお1972年からR・D・C・ブラックの編集により、多数の新資料を含む『ジェボンズ文書・書簡集』Papers and Correspondence of William Stanley Jevons全7巻(1972~81)が公刊された。
[早坂 忠]
『小泉信三他訳『経済学の理論』(1944・日本評論社)』
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イギリスの経済学者,論理学者。青年時代にオーストラリアに渡り,造幣局の試金官の職を得て,その時期に鉱山学や天文学など自然科学の素養を深める。A.スミスの《国富論》などを通じて,経済学も学ぶ。帰国後の処女作《石炭問題》(1865)で当時の大蔵大臣グラッドストンらの注目を浴び,経済学者としての地位を確立した。彼はこの本のなかで,石油を部分的な例外とすれば,石炭に代わるエネルギー源のないことを迂回生産論を駆使して論証し,現代の石油代替エネルギー批判につながる貢献をなした。
1866年にマンチェスターのオーエンズ・カレッジの教授職について以降,該博な数学的・科学的知識に基づいて,現代の数理論理学,確率論,科学哲学などにつながる諸著作をつぎつぎと発表した。経済学の分野では,主著《経済学の理論》(1871)において相対売買における価格形成の原理を限界効用分析の形で整理するなど,近代経済学ないし新古典派経済学の始祖の一人とされている。そのほか穀物収穫の豊凶を太陽黒点数の変動と関連づけようとした研究もある。著書にはほかに《科学の原理》(1874)などがある。
執筆者:室田 武
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…つまり,諸商品はそれぞれ異なった有用性をもつという意味で異化されているが,消費者に効用もしくは満足をもたらすという点では同化されているのであり,この同化性のうえに交換価値が成り立つとみるのである。効用価値説を採用したのは,H.ゴッセンのような先駆者はいるものの,学説史的な区分としてはW.S.ジェボンズ,L.ワルラスそしてC.メンガーによってはじめられた新古典派経済学である。そして効用価値説は,消費者というまぎれもない個人のもつ主観に価値の源泉を見いだすことを通じて,新古典派に特有の個人主義的な市場観の支柱にもなった。…
…そのような試みにより,転化問題,利潤率の傾向的低下の法則などが批判的に解明されたのである。
【近代経済学】
近代経済学なる用語は日本における造語であるが,若干の先行者を別にすれば,古典派経済学に対して,《経済学の理論》(1871)の著者W.S.ジェボンズ,《国民経済学原理》(1871)の著者C.メンガー,そして《純粋経済学要論》(1874‐77)の著者L.ワルラスの3人が,新しい経済学を体系的に展開したいわゆる限界革命が,近代経済学の始まりであるといえる。限界革命とよばれるのは,この3人がイギリスのマンチェスター,オーストリアのウィーン,そしてスイスのローザンヌにおいて,独立に,ほぼ同時に,限界効用,さらには限界生産力などの限界概念を駆使した経済理論を樹立したからにほかならない。…
…1870年代にW.S.ジェボンズ,C.メンガー,L.ワルラスの3人の経済学者が,ほぼ同時に,かつ独立に限界効用理論を基礎にした経済学の体系を樹立し,古典派経済学に対して近代経済学を創始したことをいう。早坂忠の考証によれば,1930年代にJ.R.ヒックスが,限界効用理論をはじめて使うという一般的な意味で限界革命という表現を使用し,ついでH.ミントが1870年代の経済学の革命を限界革命とよんだという。…
※「ジェボンズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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