高速で回転するジャイロ(こま)を利用する方位測定装置。転輪羅針儀ともいう。ジャイロの軸を地球の北に向けておくことにより、北を基準として他の方位を知ることができる。現在は法規によって、国際航路に就航する500トン以上の船舶は装備を義務づけられている。ジャイロコンパスが磁気コンパスより優れた点は次のとおりである。
(1)真北をさすため偏差がない。
(2)磁気コンパスのような自差がない。
(3)指北力が安定していて、70度くらいの高緯度まで使用できる。
(4)方位信号の伝送が容易で、オートパイロット(自動操舵装置)やレーダーなどに方位信号を送ることができる。
[飯島幸人]
回転軸の方向を変えようとする力(トルクtorque)を受けない限り、ジャイロ軸が絶対空間の一点をさし続ける性質で、これを回転惰性という。もう一つは、高速度で回転しているジャイロに、その軸と一致しないトルクが作用すると、ジャイロ軸はその方向に向きを変えずに、新たに加えられたトルクの回転ベクトルの方向とジャイロのもつ回転ベクトルとが一致するように近道をとって軸の向きを変える性質で、プレセッションという。ジャイロコンパスはこの二つの性質を利用してつくられている。
のようにX・Y・Z軸の周りを自由に回転できるようにしたこまを、3軸の自由をもつといい、ジャイロスコープとよんでいる。ジャイロスコープには重要な二つの特性がある。一つは、ジャイロを高速度で回転させると、他から自転してゆくが、ジャイロ軸は回転惰性によって絶対空間の一点をさしているから、自転につれて地球の北の方向からずれていってしまう。ジャイロ軸をつねに地球の北に向けておくには、ジャイロ軸が地球自転によって子午線の方向からずれてゆく角速度と同じ角速度でプレセッションさせればよい。そのために、 のように軸におもりをつけたジャイロを用いる。このジャイロ軸を東方に向けて回転させるとき時間がたつと、地球の自転によって、ジャイロ軸はその地点の水平面に対して傾斜角をもつようになる。ジャイロ軸のN端が上昇し傾斜すると、地球重力がおもりに作用して、N端を引き下げるトルクが発生する。このトルクの回転ベクトルの方向は、右ねじの法則によって本のページの向こう側の方向になるから、ジャイロの回転ベクトルの方向がN端に向くように回転させてあれば、プレセッションによってジャイロ軸のN端は本のページの向こう側、つまり北の方向を向いてゆく。そして (3)のようにジャイロ軸が南北方向をさすと、地球自転による水平面の傾斜はジャイロ軸に影響を与えず、ジャイロ軸は水平面と平行になり続けるから、プレセッションもおこらずに軸は北を向き続けることになる。軸におもりをつけたジャイロはこの原理によって北をさし、方位の基準装置、コンパスとしての役割を果たすのである。
のように、地球上の一点でジャイロを回転させ、軸を北に向けたとする。時間とともに地球は[飯島幸人]
最初のジャイロコンパスの試作機は、1906年、ドイツのアンシュッツHermann Anschütz(1846―1931)によってつくられた。アンシュッツは薬学者であったが、当時盛んであった北極探検に興味をもち、潜水艦で極地に到達しようと考えた。潜水艦では磁気コンパスを使用できないのでジャイロに着目したのである。試作機は不完全であったが1908年特許をとり、1911年、3個のジャイロを使った世界最初の実用ジャイロコンパスを完成した。同じころやはりジャイロコンパスの研究をしていたアメリカのスペリーは1909年に第1号機をつくり、1911年に特許を取得した。日本の軍艦金剛は1913年(大正2)アンシュッツ式を装備してイギリスから帰国し、同年には海軍でアンシュッツ式とスペリー式の性能比較が行われている。1914年に起こった第一次世界大戦では、アンシュッツ式のジャイロコンパスがドイツのUボートに搭載され威力を発揮した。
日本では、1918年に東京計器製作所がスペリー式のジャイロコンパスの生産を開始し、1932年(昭和7)には北辰電機製作所(ほくしんでんきせいさくじょ)がアンシュッツ式の技術を導入、この両方式が現在まで2社によって改良を加えられながら使用されている。なお、東京計器製作所は1990年(平成2)社名変更してトキメックとなった。北辰電機製作所は、1983年(昭和58)横河電機製作所と合併し、横河北辰電機に、1986年横河電機となる。ジャイロコンパスを製作しているのは、同グループの横河電子機器である。
アンシュッツ式、スペリー式以外に、1921年イギリスのブラウンSidney George Brown(1873―1948)によって開発されたブラウン式ジャイロコンパスがあり、この3種が世界のジャイロコンパスの主流を占めている。ブラウン式は日本では製造されていないので、ほとんど普及していない。
[飯島幸人]
『茂在寅男・小林實著『コンパスとジャイロの理論と実際』(1971・海文堂)』▽『伊関貢・庄司和民著『ジャイロコンパス及オートパイロット』(1973・海文堂)』▽『飯島幸人・林尚吾著『航海計測』(1986・成山堂書店)』▽『西谷芳雄著『コンパスと自動操舵』(1988・成山堂書店)』▽『前畑幸弥著『ジャイロコンパスとオートパイロット』(1993・成山堂書店)』
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…磁気コンパスは地球の磁北を指す簡便な計器であるが,船内の鉄材が影響して自差を生ずる。この自差は船の針路によって変化するので,取扱いがめんどうなことから,中・大型の船では指北力も強く,針路を変更しても修正が不要で真北を指すことのできるジャイロコンパスが使用されている。ジャイロコンパスは,高速で回転しているジャイロ(こま)の軸に,重力だけが作用するようにすると,軸はつねに真北を指すという性質を利用したものである。…
…羅針儀,コンパスとも呼ばれる。船や航空機などで方位を測定するために用いられる器具で,原理から,磁石の指極性を利用して方位を知る磁気コンパスと,高速で回転するこまの運動を利用するジャイロコンパスに分けられる。磁石の指極性を最初に発見したのは中国で,おそくとも11世紀末には貿易船に備えられていた。…
※「ジャイロコンパス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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