ヒョウに似た大型肉食獣。食肉目ネコ科の哺乳類。アメリカ合衆国南西部から中央アメリカを経て,アルゼンチン北部まで分布する。アメリカ大陸に生息するネコ科動物中最大で,体長112~185cm,尾長45~75cm,体重36~158kg。ヒョウに比べると平均的には大型で,四肢と尾が短く,頭部が大きいので,ずんぐりしている。体色は変化に富み,淡い黄色から赤みの強い黄色や赤褐色まであり,全体にヒョウのような黒い斑紋がある。ただし,肩から背,わき腹にかけての斑紋はウメの花状の大きな輪となり,その中央に一つ,あるいはそれ以上の黒点があるので,ヒョウのそれとは容易に区別できる。ときに地色が黒褐色で斑紋がほとんど目だたない黒色型のものや,色素を欠く白色型のものも知られる。
ジャガーは深い森林の水辺を好むが,草原などの開けた場所にもふつうで,荒れ地や砂漠でも生息する。泳ぎと木登りは非常に巧みだが,狩りはほとんど地上で行う。主食はカピバラとペッカリーだが,バク,ナマケモノ,アリクイ,サル,シカなどを襲い,倒した獲物は物陰に引きずり込んで食べる。ワニの類のカイマンやカメやその卵も食べ,魚もとらえる。ふだんは単独で生活し,ブラジル南西部では25km2に1頭の割りで生息する。雌の行動圏は25~38km2で,隣の個体の行動圏と重なり合っており,雄のはほぼ2倍で,数個体の雌の行動圏が重なっている。なわばりの標識として尿や,うなり声,鳴声といった各種の音声が用いられる。
繁殖期は不定であるが,分布地域の北部においては通常春に交尾が行われる。妊娠期間は93~105日で,1腹1~4子である。誕生直後の子の体重は700~900gで,目は13日後に開き,約2年間は母親とともに過ごす。3~4年で成獣とほぼ同大となり,性的にも成熟する。野生での生態,行動などはよく知られず,寿命は飼育下で22年という記録がある。
執筆者:今泉 忠明
中央アメリカのオルメカ文化,南アメリカのチャビン文化の石彫からうかがえるように,ジャガーの属性を神格化し,また宗教・呪術的図像表現にとり入れることが,非常に古くから行われてきた。現在のアマゾン・オリノコ熱帯低地に伝わる神話の中でもジャガーは重要である。ジェー語系の民族の起源神話によれば,人間はジャガーから火を手に入れ,料理をするようになったとされている。このようにジャガーによる観念表象は,中央および南アメリカにおいて,時代と地域を超えた普遍性をもち,広く畏敬の対象とされてきた。
執筆者:友枝 啓泰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱食肉目ネコ科の動物。アメリカヒョウ、アメリカトラともいい、アメリカ合衆国南西部から中央アメリカを経てアルゼンチン北部までの川や沼地の近くの密林に生息する。体長1.1~1.8メートル、尾長45~75センチメートル、体重70~150キログラム。体が黒色あるいは白色のものもあるが、普通、地色は黄色で腹面は白い。ヒョウに似た黒斑(こくはん)があるが、斑紋は大きく、中に小さな黒点がある。単独で生活し、おもに夜行性で、泳ぎや木登りがうまい。乾燥地帯にはすまず、水辺で小形齧歯(げっし)類、アグーチ、カピバラ、ナマケモノ、サル、バク、ペッカリー、シカ、鳥、ワニ、カメとその卵、カエル、魚などを捕食する。一定の縄張り(テリトリー)をつくり、食物が豊富な所ではそれは直径5~25キロメートルである。分布の北にすむものは妊娠期間93~110日で、1月に2~4子を産むが、熱帯地方のものの出産時期は一定していない。子は2年間雌親と過ごし、3歳で性成熟する。寿命は飼育下で22年ほどである。
[今泉忠明]
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…【村下 重夫】。。…
…するとアナル族の人たちは天の牝犬に向かって,〈放してやれ,放してやれ〉とどなる。日食や月食が超自然的なネコ科動物,ふつうジャガーが襲うため生ずるという信仰は,南アメリカの諸民族(ユラカレ,モホ,チキート,グアラニ,インカなど)に分布している。 日食や月食が,太陽や月が病気になったり,気絶したり,死んだために生ずるという民族は,スマトラのミナンカバウ族,アフリカのコイ・コイン,南アメリカのアラチカノ族などの例がある。…
…体色も変異が著しく,灰色のコロコロ(パンパスキャット)Felis colocolo,灰褐色のジャングルキャットF.chaus,褐色のマライヤマネコF.planiceps,金色をおびた褐色のアフリカゴールデンキャットF.aurata,赤褐色のヤガランデF.yagouaroundiまであり,白色型のライオンP.leoや黒色型のヒョウ(クロヒョウ)P.pardusなども知られている。褐色や黒色の斑紋をもつものが多く,トラのような縞模様,ジャガーP.oncaなどのような梅花状の大きな斑紋,チーターAcinonyx jubatusなどのような黒点があり,それぞれまったく別のもののように見えるが,黒点がつながって縞模様や梅花状斑紋が形成されたものである。ネコ類の体色と斑紋は,獲物に接近する際のカムフラージュに役だつと考えられている。…
※「ジャガー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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