日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャコウネコ」の意味・わかりやすい解説
ジャコウネコ
じゃこうねこ / 麝香猫
civet
広義には哺乳(ほにゅう)綱食肉目ジャコウネコ科に属する動物の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。この科Viverridaeの仲間は第三紀始新世に現れた古い類で、原始的な形態をもち、現生食肉類の祖先であるミアキス類Miacidaeに類似する。すなわち、吻(ふん)が長く、会陰(えいん)部に肛門腺(こうもんせん)、肛門嚢(のう)、会陰腺などの臭腺(しゅうせん)が発達し、歯数が多い。前後肢は短く、半蹠行(しょこう)性のものが多い。食肉目のなかでもっとも種数が多い科で、形態、生態ともに変化に富む。旧世界の熱帯で進化したものと思われ、ユーラシアおよびアフリカの熱帯、亜熱帯に分布し、マダガスカル島に分布する唯一の食肉類で、新世界には分布せず、化石も発見されていない。ジャコウネコ亜科Viverrinae、ハクビシン亜科Paradoxurinae、ヘミガルス亜科Hemigalinae、ガリディア亜科Galidiinae、マングース亜科Herpestinae、フォッサ亜科Cryptoproctinaeの6亜科35属に分けられ、アフリカジャコウネコ、インドジャコウネコなど75~80種がある。森林または草原にすみ、地上生、樹上生、まれに地下生または水生である。
狭義のジャコウネコとよばれる種はコジャコウネコViverricula indicaで、台湾、中国南部、ミャンマー(ビルマ)、ヒマラヤ山麓(さんろく)地帯から、インド、スリランカ、ジャワ島まで分布し、草地や低木林に生息する。頭胴長45~63センチメートル、尾長30~43センチメートル、体重2.7~3.6キログラム。吻は細くて先がとがり、体は細長く、尾は体よりわずかに短く、先が細い。前後肢は短く、指は前後足とも5本で、つめは短くて鋭く、鞘(さや)の中に引っ込めることができる。第1指は高くほとんど地につかず、歩き方は指行性である。会陰部に臭液を出す顕著な腺がある。体は灰黄褐色または灰褐色の地色に黒色の小さい斑点(はんてん)や縦長の斑紋が並び、のどには3本の帯が横切る。尾には互いに離れた黒い輪がある。近縁のオオジャコウネコにみられる背のたてがみ状の長毛を欠く。夜行性で日中は樹洞や岩の下、草や低木の茂みに潜み、木登りがうまいが、食物は多くの場合地上でとる。食物はおもにネズミ、リス、小鳥、トカゲ、昆虫などであるが、果実も食べ、ときに家禽(かきん)を襲う。普通は単独で生活し、まれに1対でいる。年じゅう繁殖可能で1産3~5子。飼育すればよくなれ、会陰部にある臭腺のじゃ香臭がある分泌液から香料がつくられる。本種より大形のオオジャコウネコViverra zibethaは頭胴長83~90センチメートル、尾長33~50センチメートル、背に逆立てることができるたてがみ状の毛をもち、あまり木に登らない。
[吉行瑞子]