ラテン語ゲヌスgenus(種属)に由来するフランス語で,種類や部類を意味し,生物学をはじめひろく用いられるが,語音をそのまま移しているときは多く芸術のジャンルをさすとみてよい。様式と同視されることもあるが,〈ジャンルの様式〉も正当な論題となる以上,芸術については両概念を区別しなければならない。ジャンルと様式はいずれも芸術作品の理解を深めるに有効とされる類型概念であり,様式が一作品にみられる個性的相貌の類型的性格を語るに対して,ジャンルは客観的に類型的統一をつくる作品群を語る概念である。芸術は個別芸術の諸形式(建築,文芸など)をとって現れるが,ジャンルの概念はこれら各形式に属する下位の作品群に用いられるのがふつうである。例えば文芸では叙事詩,抒情詩,戯曲がその三大ジャンルと呼ばれ,さらに例えば抒情詩ではソネット,エレジーなどそれぞれの下位ジャンルが立てられてきた。共通の特徴のもとに統一的把握が成り,まとめられた作品群の本質がいよいよ鮮明となってその理解を深めさせるのであれば,ジャンルはどこまでも細分化できる。このようなジャンル確立の原理や歴史的発展法則の究明は芸術研究の主要課題の一つであり,ブリュンティエールは文学史におけるジャンルの展開を生物の進化と類比的に論じて名高い。なお絵画では,日常生活や習俗を描く風俗画をジャンルと呼ぶこともある。
→様式
執筆者:細井 雄介
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芸術の部門としての各個別芸術、およびその各個芸術の下位の部門、もしくは種別をいう。このように大きく分けて二つのレベルにまたがる概念であるが、文学や音楽や絵画など個別芸術を芸術ジャンルとよぶ上位のジャンル概念は、芸術という集合的な類概念を前提とするものであるから、この類概念の確立した18世紀後半以後のものである。これとともに、下位のジャンル概念もすべての芸術に一般化し、絵画(歴史画、肖像画、風俗画、風景画、静物画など)や、音楽(声楽曲と器楽曲など)その他についても適用されるようになったが、本来のジャンル概念は文学上のものである。詩、戯曲、小説、あるいはさらに一段下がって詩のジャンルとしての叙事詩、叙情詩などがそれにあたる。
文学の種類を区別する考えは、媒材、題材、様相の三つの観点より行ったアリストテレスの『詩学』の分類が古典的かつ標準的であるが、ジャンルに相当することばを初めて用いたのはキケロで、文体上の三つの様式を「言い方の種類」genera dicendi(ラテン語)とよんだ。ジャンルと「様式」は近世においても混同されることが多かったが、古典主義理論が調子の統一性を重んじてジャンルの区別を厳格に守ることを要求したために、ジャンルは実体的性格を強めた。そして生物学上の類概念とのアナロジーによって、進化論を適用してジャンルの歴史を研究するブリュンチエールの立場は、そのもっとも徹底したものである。しかし20世紀も後半になると、ジャンルの境界を否定し、まったく新しい芸術形式を開拓することに芸術家の関心が向かうにつれて、この概念もその規範性と重要性を失いつつある。
[佐々木健一]
『竹内敏雄著『文芸のジャンル』(1968・弘文堂)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…英語でgenre painting,フランス語でpeinture de genre,ドイツ語でGenremalerei,Sittenbildという。近代の美術批評で一般に定義する風俗画とは,いかなる社会階層,職業であれ,また人間の年齢にも関係なく,彼らの現実の日常生活(家庭生活,労働やレクリエーション)を主題とする絵画,しかも特定個人ではなく無名の人々の生活を表した絵画である。…
…とくに17世紀にアカデミーの制度が確立してからは,絵画の基礎として重視された。
[絵画のジャンル]
絵画は描き出される主題の内容によって,さまざまのジャンルに分けられるが,風景画,静物画,風俗画などのジャンルが独立のものとして確立するのは,西欧ではおよそ17世紀のオランダにおいてである。肖像画はそれよりもう少し早く,中世末期から王侯の肖像や祭壇画の寄進者像として登場している。…
…だが数々の理由から当然とはいえ,決定的な分類が立って芸術理解を指導するわけではない。具体的な個々の作品理解においてはむしろ様式とジャンルの両概念がたいせつである。作品には,つくる主体のがわからみれば,作家の個人的特質から背後の時代とか風土の特性など,さまざまな主観的条件が刻みこまれる。…
…後者も広義の風俗画に入るが,今後イコノグラフィーの研究が進み,これまで風俗画と分類された絵画も,寓意画,象徴画,世俗化された宗教画,また同時代的表現をもつ神話画として解釈されることもあろう。
【西洋】
[〈ジャンル〉としての風俗画]
神話画,宗教画,歴史画,静物画,肖像画などとともに,風俗画が絵画の一ジャンルとして分類されるようになったのは19世紀以降である。フランス語のジャンルgenreは本来〈種類〉〈類概念〉〈属〉を意味する。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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