ストラボン(その他表記)Strabōn

デジタル大辞泉 「ストラボン」の意味・読み・例文・類語

ストラボン(Strabōn)

[前64ころ~後23ころ]ローマ時代のギリシャ地理学者歴史家小アジアの人。地中海沿岸地方の史実や風土、伝承などを集録した史料的地誌「ゲオグラフィカ(地理学)」全17巻を著した。

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精選版 日本国語大辞典 「ストラボン」の意味・読み・例文・類語

ストラボン

  1. ( Strabon ) ギリシア地理学者、歴史学者。イタリアエジプト、小アジアなど世界各地を旅行し、地形・気候・産物などについて詳細な観察を行ない、「地理誌」一七巻を著わした。(前六四頃‐後二三頃

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改訂新版 世界大百科事典 「ストラボン」の意味・わかりやすい解説

ストラボン
Strabōn
生没年:前64か63-後23ころ

ローマ時代のギリシア人歴史家,地誌家。小アジアのポントスアマセイアに生まれ,修辞学,地理学,哲学を修め,ストア哲学者ポセイドニオスの知遇を得た。ローマやアレクサンドリアに長期間滞在し,またイタリア,ギリシア,小アジア,エジプトの各地を旅行しながら見聞を広げたが,晩年は故郷で過ごした。ストア学派の信奉者として宗教には懐疑的であり,私情を交えない観察に努めた。ポリュビオスの《世界史》以後の時代のギリシア・ローマ史を扱った歴史叙述47巻はほぼ完全に失われている。しかし,《地理書》17巻はゲオグラフィアと称された書物では最古のもので,その大部分が現存することから,今日彼は地理学者と称されることが多い。

 《地理書》第1・2巻は序説をなし,ホメロス以来の地理学の歴史の紹介と,特にエラトステネス,ポセイドニオスらの数理地理学,自然地理学の批評にあてられている。第3巻以下はアウグストゥス帝治下のローマ帝国各地の沿岸地域とそれに隣接する後背地の記述にあてられている。第3巻イベリア半島,第4巻ガリア,ブリタニア,第5・6巻イタリア,シチリア,第7巻北欧と東欧,第8~10巻ギリシア(史実,神話,伝説も多く取り入れられている),第11巻カフカス,トルキスタン,メディア,アルメニア,第12~14巻小アジア(史実,神話が収められているとともに,直接の観察にもとづくために信憑性が高い),第15巻インドペルシア,第16巻メソポタミア,パレスティナ,エチオピア沿岸,アラビア,第17巻エジプト,エチオピア,北アフリカが取り上げられている。

 このように彼は当時知られていた全世界(エクメーネ)について記述したが,総合的なものではなく,これまでの案内書の補足になっているので,地方ごとの記述の密度はまちまちである。天文,数理地理・自然地理には重きが置かれていないにもかかわらず,《地理書》は古代の地理観や歴史地理の豊かな宝庫として評価されている。同書においてストラボンは,ストア哲学の立場から,万物が神(プロノイア)の御業により,自然と人間の間には適応(ホモロギア)の関係があり,またある地方的特徴は自然によるが,他は人間の実践と慣習によるという環境可能論的見解を説いた。さらに,地理学が政治家や将軍らの国家に対する活動に資するとともに修養のための実践の学問であるとし,地中海世界を統一したローマを賛美している。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ストラボン」の意味・わかりやすい解説

ストラボン
Strabōn

[生]前63. ポントス,アマセイア
[没]後21頃.ポントス,アマセイア
古代ギリシアの地理学者,歴史家。前 44年ローマに出てアリストテレス学派として地理,哲学を学び,オクタウィアヌス (アウグスツス ) の師アテノドロスの影響でストア学派に転じた。少くとも前 31年までローマに滞在,ポリュビオスの『世界歴史』を続けて,ローマ帝政成立までを記した 47巻の『歴史覚え書』 Historika hypomnēmataを書いた。前 29年コリントへの途上エーゲ海のギュアロス島を訪れ,前 25年または前 24年にナイル川をフィラエまで遡航した。その後『地理学』 Geōgraphia (17巻) の著述に着手,一時中断したと思われるが,14年に再開,23年に完成した。『歴史覚え書』はほとんど散逸したが,『地理学』はほぼ完全に現存,地理学の目的と方法論の定義をはじめ,イベリア,ガリア,イタリア,ドナウ川流域,黒海沿岸,ギリシア,コーカサス,小アジア,インド,ペルシア,メソポタミア,シリア,パレスチナ,紅海,アフリカの地中海岸およびマウレタニアについて,その史的経済的発展,神話,風俗習慣,動植物の生態などを含めて必ずしも科学的ではないが読みやすく記述している。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ストラボン」の意味・わかりやすい解説

ストラボン
すとらぼん
Strabon
(前64ころ―後23ころ)

ギリシアの歴史家、地理学者。「地理学の父」とよばれる。小アジアのポントスのアマセイアに生まれる。各地方を旅行し、とくにローマとエジプトに長く滞在したが、晩年は故郷で過ごした。ストア派の哲学者でもあり、また歴史家として47巻に及ぶ歴史書を書いたが現存しない。しかし、当時知られていた世界について述べた17巻の『地理学』は、その大部分が現存し、いわゆる科学的な地誌の手本となった。たとえば、まず地球一般、ついでスペインから各地方を記述するという手法は、近代ヨーロッパの地誌においても守られた。またそれまでのギリシアの数理地理学的傾向と異なり、自然地理や天文学を軽視し、とくに地理と歴史のかかわりを重視し、彼自身の観察のほか、各地の神話や伝承を多く取り入れている。ギリシア、ローマの作家による多くの著作も引用されており、とくに現存しない作品が知られることから、古代史の史料として貴重である。

[島 創平]

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百科事典マイペディア 「ストラボン」の意味・わかりやすい解説

ストラボン

ローマ時代のギリシア人地理学者,歴史家。膨大な史書(全47巻)と《地理書》を書いたが前者は失われた。後者は全17巻。当時の世界の地理を歴史と連関させて語っており,特に史実伝説を豊富に織りまぜているので貴重な資料である。また,ストア学派の立場から,自然と人間の間には〈適応〉の関係があると説いた。
→関連項目地理学入門

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ストラボン」の解説

ストラボン
Strabon

前64頃~後21頃

ローマ時代の歴史家,地理学者。小アジアのポントス地方出身のギリシア人。ローマ,エジプトに長く住んだ。その著『地理学』(Geographia)は地中海世界各地の史実,伝承を豊富に含み,古代史研究の貴重な史料となっている。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ストラボン」の解説

ストラボン
Strabon

前64ごろ〜後21ごろ
古代ローマのギリシア人地理学者・歴史家
小アジアに生まれ,ローマ・エジプトに長く滞在。『歴史』は失われたが,現存の著作『地理誌』(17巻)は,ローマ帝国全域の地理・歴史情報を載せた重要なギリシア語の史料。

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世界大百科事典(旧版)内のストラボンの言及

【ローマ美術】より

… 前5世紀までのローマ美術は,エトルリア美術およびマグナ・グラエキアのギリシア美術の影響を強く受け,いまだ独自性を有しておらず,その活動も活発ではなかった。このような状況をストラボンは,〈昔のローマ人は,美しさに気を配ることはなく,より大きなもの,より必要なものに心を奪われた〉と記している。しかし,前3世紀タラスやシュラクサイ(シラクザ)の征服によってギリシア美術の優品がローマに将来され,ローマ人はギリシアの美術に直接触れることになる。…

※「ストラボン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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