イギリスの政治家、社会主義思想家。名門の生まれで、有名な伝記作家リットン・ストレーチーの従弟(いとこ)。イートン、オックスフォードに学び、オックスフォード在学中の1923年に独立労働党入党。1929年の総選挙に労働党から立候補して下院議員となったが、大不況時の第二次マクドナルド内閣の無策ぶりに飽き足らず脱党した。一時共産党に接近し、ゴランツVictor Gollancz(1893―1967)やH・J・ラスキらと「レフト・ブック・クラブ」Left Book Clubを経営し、自らも多くの左翼的著書を公刊したが、J・M・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)に接してからは社会改良主義的立場に転じ、第二次世界大戦直前に労働党に復党し、戦後のアトリー労働党内閣では食糧大臣、陸軍大臣などを歴任した。また、その後は労働党の非マルクス主義的社会主義の理論家として活躍し、戦後の資本主義の従来からの変貌(へんぼう)を説いた『現代の資本主義』Contemporary Capitalism(1956)や『帝国主義の終焉(しゅうえん)』The End of Empire(1959)などで国際的反響をよんだ。
[早坂 忠]
『関嘉彦・三宅正也訳『現代の資本主義』(1958・東洋経済新報社)』▽『関嘉彦他訳『帝国主義の終焉』(1962・東洋経済新報社)』
イギリスの批評家、伝記作家。エリザベス朝以来の名門の生まれで、父はインド総督府の高官で軍人。ケンブリッジ大学で知り合ったフォースター、経済学者ケインズらとともに知的友好団体であるブルームズベリー・グループを結成した。イギリスの伝記文学に新しい感受性を導き入れたことで知られている。彼の方法の特徴は、優雅な冷笑を含んだ筆致で対象をえぐり出し、偶像を完膚なきまでに破壊することにある。ときにその筆鋒(ひっぽう)のゆえに、グロテスクな戯画になることもあるが、価値の尺度が大幅に転換した第一次世界大戦後の精神風土に根ざしており、反響をよんだ。イギリス伝統の伝記文学とフランス心理小説の混血児といえる。作品には、批評に『フランス文学の道標』(1912)、伝記に『ビクトリア朝のおえらがた』(1918)、『ビクトリア女王』(1921)、『エリザベスとエセックス』(1928)、『ささやかな肖像』(1931)などがある。1932年1月21日没。
[出淵 博]
イギリスの批評家,伝記作家。エリザベス朝以来の名門の出身。ケンブリッジ大学在学当時の友人であるE.M.フォースター,J.M.ケインズらとともにいわゆるブルームズベリー・グループの一員であった。イギリスの伝記文学に新しい感受性を導き入れたことで知られているが,その方法は,第1次大戦後の価値観喪失という精神風土に根ざした鋭利で冷厳な批判の目で対象の偶像性をはぎとることにある。その題材にとり上げられた人物には《ビクトリア朝のお偉方》(1918)のF.ナイチンゲール,ゴードン将軍やビクトリア女王(《ビクトリア女王》1921)などがあるが,嘲笑を秘めた優雅な文体は,彼がフランスの古典劇,心理小説に精通していることから身につけた特徴だろう。伝記作品にはほかに《エリザベスとエセックス》(1928),《ささやかな肖像》(1931)があり,批評作品として,《フランス文学の道標》(1912)などがある。
執筆者:出淵 博
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…19世紀のイギリスでは,ロッカートの《スコット伝》,フォースターの《ディケンズ伝》,フルードの《カーライル伝》など,日記,手紙また身近な見聞を生かした傑作があいついで出て,伝記作家としてのカーライルも見落とせない。現代伝記の先頭を切ったのも,やはりイギリスのG.L.ストレーチーで,彼の鋭利な偶像破壊の切れ味と心理性は,伝記における一種の革命であり,A.モーロア,S.ツワイク,ルートウィヒE.Ludwigらを生み出す機縁をなした。その後も伝記作家は多士済々,とくにアメリカで幅広い調査力を生かした大著が目立つ。…
…名称はスティーブン家がロンドンのブルームズベリー街にあったことに由来する。メンバーは,姉妹のそれぞれ夫になるクライブ・ベル,レナード・ウルフをはじめ,J.M.ケインズ,リットン・ストレーチー,ロジャー・フライ,E.M.フォースターらで,美術評論家,政治評論家,経済学者,小説家など多分野にわたっているが,いずれも同世代でケンブリッジのトリニティ,キングズ両学寮で学んだ。そして当時の哲学教師G.E.ムーアの《倫理学原理》(1903)の中の〈最も価値あることは人の交わりの喜び,美しいものを享受すること〉という文句に影響されていた。…
※「ストレーチー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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