スピノル(その他表記)spinor

デジタル大辞泉 「スピノル」の意味・読み・例文・類語

スピノル(spinor)

数学物理学におけるベクトルテンソルに似た線形代数的な表現スピン量子数半整数の値をとるフェルミ粒子状態記述に用いられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「スピノル」の意味・わかりやすい解説

スピノル
spinor

電子のように1/2のスピンをもつ状態,さらに一般に任意のスピンをもつ状態を表すために導入された量で,スピノルの名もスピンに由来している。三次元空間を回転させたとき,その中の量は回転に伴って変化するが,その変化のしかたによってスカラー,ベクトル,テンソルなどに区別される。変化しないものをスカラーといい,空間内の変位を表す矢印と同じようにふるまうのがベクトルであり,数個のベクトルの積と同じように変化するのが高階のテンソルである。回転群の表現論によると,空間回転の際の変化のしかたとしては,上記以外のものが存在する。スピノルはベクトルの平方根とでもいうべきもので,2個のスピノルの積がベクトルとなる。ベクトルはその座標成分によって(axayaz)のように3個の実数で表され,回転によりa′=Aaと3行3列の直交行列A変換される。これに対しスピノルは2個の複素数u1u2)で表され,回転でu′=Uuと2行2列のユニタリ変換をうける。すなわちベクトルが回転群の三次元表現であるのに対して,スピノルは回転群の二次元表現で,uαとその複素共役量との積のある組合せがベクトルと同様にふるまうことが示される。スピノルは回転群の2価表現である。すなわち,空間を1回転(360度回転)させたとき,ベクトルはもとのものにもどるが,スピノルuは-uとなり,2回転(720度回転)で初めてもとの価にもどる。

 以上は三次元空間の回転の場合であるが,ベクトル,テンソルが相対論的なローレンツ変換にまで拡張されたように,スピノルも同様に拡張される。ローレンツ変換の場合は,2種類の異なるふるまいをするスピノルが存在し,添字の上つき,下つきで区別される。反転を含まないローレンツ変換でおのおのが2行2列の行列で変換をうけるが,空間反転の際には下つきが上つきに,上つきが下つきに入れかわる。したがって空間反転で不変な理論では両者を併用しなければならない。電子に対するディラックの相対論的方程式に現れる波動関数は4個の成分をもつが,これは添字の上つき,下つきの2個のスピノルを並べたものであり,これをバイスピノルと呼ぶことがある。数個のスピノルの積からは高階のスピノルがつくられるが,それらは4種の添字,すなわち上つき点なし,上つき点つき,下つき点なし,下つき点つきを何個含むかで指定される。偶数個の積はテンソルに帰着され,奇数個の積は2価表現であり,広い意味でのスピノルである。量子力学の言葉でいえば,スカラーはスピンが0の状態であり,スピノルはスピンが1/2,ベクトルはスピンが1の状態で,整数スピンの状態はテンソルで表され,半奇数スピンの状態は2価表現のスピノルで表される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スピノル」の意味・わかりやすい解説

スピノル
spinor

空間の回転に伴って変換する複素数の 2成分の量。3成分をもつベクトルよりも,回転に対して基本的な性質を表現する。また相対性理論でのローレンツ変換に対しても拡張できる概念である。量子力学において,電子クォークなどスピンが 1/2の粒子を記述するのにも用いられる。この場合,二つの成分はそれぞれ,スピンが上向きの状態と下向きの状態に対応する。相対論的量子力学では,これらの粒子はその反粒子とともに,スピノルを二つ組み合わせた,4成分のディラック・スピノルというもので表される。1928年に理論物理学者ポール・A.M.ディラックにより,相対論的量子力学の方程式であるディラック方程式を表現するために導入された。数学的には,回転群よりもある意味で基本的な SU(2)群の基本表現であり,ベクトルは 2階のスピノルで表される。

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