Ce.原子番号58の元素.電子配置[Xe]4f 15d16s2の周期表3族ランタノイド元素.希土類元素セリウム族の一つ.原子量140.116(1).質量数136(0.185(2)%),138(0.251(2)%),140(88.450(51)%),142(11.114(51)%)の4種の安定同位体と,質量数119~157の放射性同位体が知られている.1803年,J.J. Berzelius(ベルセリウス),M.H. Klaproth,W. Hisingerにより発見された.元素名は1801年に発見された小惑星セレス(Ceres)にちなんで命名された.セレスは農業収穫を司るローマ神話の女神である.
希土類元素中もっとも多く存在する元素で,モナズ石[CAS 1306-41-8]の希土類元素の約半分はCeである.セル石,ガドリン石などに含まれて産出するが,モナズ石とバストネス石[CAS 68909-13-7]が資源的に重要な鉱物である.地殻中の存在度33 ppm.わが国の酸化セリウム,セリウム化合物全輸入量13000 t(2005年度)のうち中国10000 t,ついでフランス1500 t.生産量は圧倒的に中国で,バストネス石,モナズ石混合鉱床をもつ内蒙古の白雲鄂博(Baiyun Obo)鉱山だけで,セリウムなど軽希土類を中心に世界の生産量の約半分を占めているが,確認埋蔵量の順位では中国約30%,ロシア諸国22%,アメリカ15% などである.鉱石を塩酸または硫酸で処理(バストネス石)するか,水酸化ナトリウムで処理(モナズ石)した後,ばい焼して CeⅣにして沈殿法または溶媒抽出法で分離する.塩化物などの溶融塩電解により灰色の金属が得られる.融点799 ℃,沸点3426 ℃.α,β,γ,δ(β→γ,168 ℃)の4変態があり,α,γ,δは立方最密構造,βは六方最密構造.密度α 8.24;β 6.749;γ 6.773;δ 6.70 g cm-3.標準電極電位 Ce3+/Ce -2.34 V,Ce4+/Ce3+1.71 V.第一イオン化エネルギー5.539 eV.酸化数3,4.希土類元素でCeのみが安定な酸化数4の状態をもつ.Ce4+ の電子配置は[Xe]である.空気中で容易に酸化される.熱水と反応して水素を発生する.CeⅢ塩は無色のものが多いが,CeⅣ塩は黄色~赤色.標準電極電位 CeⅢ/Ce -2.34 V,CeⅣ/CeⅢ1.71 V.CeⅣは強い酸化剤で酸化還元滴定に用いられる.CeⅢの化合物はランタンの化合物に似ていて,フッ化物,シュウ酸塩,炭酸塩,リン酸塩などが水に難溶.Ce4+ は,電子配置が同様に閉殻の Th4+(Rn)とイオン半径がほぼ等しく(Ce4+0.109 nm,Th4+0.108 nm),性質も似ている.たとえば,リン酸塩,ヨウ化物は,ともに4 mol dm-3HNO3に不溶.セリウムの酸化物はCeO2[CAS 1306-38-3]のほうがCe2O3[CAS 1345-13-7]より安定である.
わが国におけるセリウムの最大の用途は研磨材用で,酸化セリウム(Ⅳ)CeO2(セリア)の形で液晶ガラス研磨や半導体ウェファー研磨に用いられる.このほか,CeO2は自動車排ガス浄化用の3元触媒にアルミナとともに担体・助触媒や,UVフィルターガラス(自動車用ガラス)のUV吸収用添加剤,蛍光灯・CRT用蛍光体にも用いられる.そのほか,セリウムは高温用超合金酸化防止用,アルミニウム合金用,石油精製用触媒に添加される.毒性は高くないが,「セリウム及びその化合物」は大気汚染防止法の有害大気汚染物質に指定されている.[CAS 7440-45-1]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
周期表第Ⅲ族に属する希土類元素の一つ。1803年ドイツのM.H.クラプロートおよびスウェーデンのJ.J.ベルセリウスが互いに独立にスウェーデン産の鉱石から新元素を発見し,これをベルセリウスはそれより2年前に発見された小惑星セレスCeresにちなんでceriumと命名することを提案し,これが一般に通用することになった。しかし後にこれは純粋なものではないことがわかり,これからさらにランタン,ネオジムなどが分離された。希土類元素中最も多量に存在する元素で,主要鉱石はバストネサイト,モナザイト,セル石,ガドリン石など。無水塩化物を塩化ナトリウムなどと融解塩電解するか,フッ化物を金属カルシウムなどで還元して得られる。灰色の金属。-150~-10℃で安定なα型(六方最密格子)と,-10~730℃で安定なβ型(面心立方格子)の2変態がある。展性,延性があり,スズより硬く,亜鉛より軟らかい。熱水と作用して水素を発生し,冷無機酸によく溶ける。化合物の酸化数はⅢとⅣで,Ⅲ価は通常無色で安定であるが,Ⅳ価は酸化剤(ただし酸化物ではⅣ価が安定)。金属は空気中(室温)で徐々に酸化され,160℃で発火し,著しい光と熱とを放つ。このため発火合金として用いられたが,最近では各種合金として,またセラミックス,超電導材料などに用いられる。
執筆者:中原 勝儼
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