ソグド人(読み)そぐどじん(その他表記)Sogd

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソグド人」の意味・わかりやすい解説

ソグド人
そぐどじん
Sogd

中央アジアの、ゼラフシャン川流域を中心とするいわゆるソグディアナ地方の原住民。ソグド人はイラン系で、古くから国際的商業貿易に従事して、東トルキスタン、天山山脈北麓(ほくろく)、甘粛(かんしゅく)北西部、モンゴル高原内部に居留地をつくり、唐の長安にも多数住んでいた。とくに匈奴(きょうど)、突厥(とっけつ)、ウイグルなどの遊牧国家の内部では、商業に従うとともに、その君主たちの政治的・文化的顧問として活躍し、中国では商胡(しょうこ)、賈胡(ここ)などとよばれた。初めはゾロアスター教徒であったが、のちにマニ教を奉ずる者も現れ、彼らの発展によって、マニ教がウイグルの国教となり、ついで唐代の中国に伝わった。彼らの使用した暦は、ティームール帝国ウルグ・ベク(在位1447~49)のときまでこの地方で使用され、またソグド文字からウイグル文字がつくられ、これがモンゴル文字、満州文字のもとになった。なお、最近の研究によると、いわゆる突厥文字もソグド文字からつくられたものであるといわれている。近年、サマルカンド東方のムグ山、サマルカンド東方のペンジケントから、文書(ムグ文書。紙・木などに書かれた法律・経済文書)や、ソグド人の都市遺跡、各種の遺物が発掘され、彼らの生活様式、文化などが明らかになりつつある。

[護 雅夫]

『護雅夫著『古代遊牧帝国』(中公新書)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ソグド人」の意味・わかりやすい解説

ソグド人 (ソグドじん)

中央アジアのソグディアナ地域のイラン系住民。アケメネス朝ペルシアの頃から,ゼラフシャン(ザラフシャン)川流域でオアシス灌漑農耕と牧畜を営む一方,内陸アジアの国際商人として活躍し,独自の文字・言語文化(ソグド語,ソグド文字)を中央アジアで少なくとも11世紀半ばころまで保った。この間ソグディアナは,アレクサンドロス大王アラブ・イスラム王朝など,間断なき外部勢力の支配をうけるが,これらの支配も,彼らの豊かな土地と都市文化および商業的才能との共生関係に支えられていた。商業活動の足跡は,西はビザンティン帝国,東は唐の長安に及び,さらに北アジアの遊牧民,とくにウイグル族の間にも広まった。彼らは東トルキスタンや甘粛北西部などの商業路上に植民地を建設し,相互に密接な連絡をとりつつ,ゾロアスター教,ついでマニ教など精神文化を含むイラン文化の東アジアへの伝播に大きく関与した。遊牧民への文化的・政治的影響も見のがせない。東西内陸交易や中央アジア史に不可欠の部分を構成し,その生活や社会を示す遺跡が,サマルカンド近郊のムグ山やピャンジケントから発見されている。
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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ソグド人」の解説

ソグド人(ソグドじん)
Sogd

ソグディアナの住民。イラン系で,古くから国際的商業貿易に従って,東トルキスタン,甘粛北西部,天山北方地方,モンゴル高原,華北内部に植民集落をつくり,唐の長安にも多数住んでいた。特に中国では,この植民集落の統率者を薩宝(さっぽう)(sartpau,ソグド語でキャラヴァン隊のリーダーの意)の官に任じ集落の統治を委任した。また匈奴(きょうど)突厥(とっけつ)ウイグルなど遊牧国家の内部では商業に従うとともに,政治・文化的指導者となったり,軍事的にも貢献した。その発展につれてマニ教ソグド文字など,イラン系ソグド文化が東方へ広がった。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ソグド人」の解説

ソグド人
ソグドじん
Sogdians

中央アジアのサマルカンド付近のイラン系住民
絹の道の東西貿易に活躍し,唐代の中国の記録には,ソグド人の子どもは生まれるや口に砂糖を含ませられ,手に膠 (にかわ) を握らせられて,将来甘い弁舌と巧みな商才を身につけるように祈られる。5歳で読み書きを習い,20歳で隊商に加わって遠国へ行き経験を積む,といったうわさが記されている。南北朝から唐代の中国では胡人と呼ばれた。

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世界大百科事典(旧版)内のソグド人の言及

【サマルカンド】より

…前10世紀ころから中央アジア有数のオアシス都市として発展したが,前6世紀にはアケメネス朝ペルシアの支配下に入り,前4世紀には足かけ3年間にわたる果敢な抵抗の末にアレクサンドロス大王の軍門に下った。以後も,5世紀にはエフタル,6世紀には西突厥の支配下に置かれるなど軍事的には必ずしも強力ではなかったが,その住民で東方イラン語に属するソグド語を使用したソグド人は,シルクロード沿いに中国,モンゴリアなどにまで進出して国際的商人として活躍するかたわら,宗教,文字などの西方の文化の東方への伝播者としても大きな役割を演じた。 8世紀初頭アラブの支配下に入り,9~10世紀のサーマーン朝の時代にそのイスラム化が完成,11~13世紀のカラ・ハーン朝,セルジューク朝,カラ・キタイ,ホラズム・シャー朝の支配時代にトルコ化が進展し,以後徐々にトルコ族のイスラム教徒の居住する都市となった。…

【ペンジケント】より

…A.ヤクボフスキーが1946年から本格調査し,A.ベレニツキーが53年からこの都城の終末期の全体像解明のため計画発掘を継続した。8世紀前半のソグド人の都市生活と文化を知るうえできわめて重要な遺跡。都城は,支配者ディフカーンたるディワシュティチ公の居城とシャフリスターンとよばれる市街区,それに郊外居住区と墓地とから成る。…

※「ソグド人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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