タマネギ(読み)たまねぎ(英語表記)onion

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タマネギ」の意味・わかりやすい解説

タマネギ
たまねぎ / 玉葱
onion
[学] Allium cepa L.

ユリ科(APG分類:ヒガンバナ科)の多年草。地下部の肥大した鱗茎(りんけい)を食用とする。葉は中空の円筒状で長さ30~50センチメートル、数枚が直立互生する。鱗茎は春ごろから肥大し始め、夏までに成熟する。夏になると地上部は枯れ、鱗茎は休眠するが、秋にふたたび芽生えて葉が伸び出る。普通、種子を播(ま)いて3年目の初夏に、基部がやや肥大した太い花茎が伸び出て高さ1~2メートルになり、球状の花穂を頂生し、白または紫色の小花を多数つける。これがいわゆるねぎ坊主で、2~3ミリメートルの黒色の種子が実る。日本では開花・結実期が梅雨の時期にあたるので、腐ったり、ねぎ坊主上で発芽してしまったりするので、採種はむずかしく、雨の少ない地方や雨よけハウス内で採種する。鱗茎は球形あるいは扁球(へんきゅう)形で直径は3~10センチメートル、最外葉は乾いた薄膜状で色は白、黄、茶、紅紫色などであるが、形や色は品種によって異なる。

[星川清親 2019年1月21日]

栽培

普通は秋口苗床に種子を播き、晩秋に小苗を定植する。翌年、梅雨に入る前に鱗茎が成熟する。成熟すると地上部が株元から折れて倒れる。畑の大部分の株が倒れたころが収穫適期である。播種(はしゅ)時期や収穫時期などにより、いくつかの栽培型がある。秋に種子を播き、3~5月に収穫する作型は春タマネギとよばれ、愛知、大阪、福岡、静岡県など暖地砂地での栽培が多い。春に種子を播き、秋に収穫する作型は秋タマネギとよばれ、北海道での栽培が多い。また、3~4月に播種して5月の中ごろ小球を収穫し、これを乾燥させ、8月ころ畑に植え付け、冬から早春に収穫する方法をセット栽培といい、霜柱のため越冬しにくい火山灰地帯での栽培が多い。本州以西の大部分の作型は、6月に収穫したタマネギを吊(つ)るして貯蔵し、7~11月に出荷する貯蔵栽培である。主産地は大阪、兵庫、岐阜、香川県などである。ほかにやや未熟のうちに葉をつけたまま収穫する葉玉(はたま)栽培と、十分に成熟したのち葉を切り除いて出芽する青切(あおぎり)栽培とがある。

[星川清親 2019年1月21日]

品種

鱗茎の辛味度により、辛タマネギ甘タマネギに大別され、さらに鱗茎の色により、黄、赤、白色系に分けられる。日本で栽培されるほとんどの品種は辛タマネギの黄色系で、代表種は泉州黄(せんしゅうき)と札幌黄である。これはともにアメリカでの栽培品種を日本で改良してつくられたもので、泉州はイエロー・フラット・ダンバース、札幌黄はイエロー・グローブ・ダンバースが改良親である。泉州は北海道以外ではもっとも主要な品種であるが、この泉州がもとになって奥州、仙台黄、貝塚早生(かいづかわせ)、久留米黄(くるめき)など多くの品種が分化している。また札幌黄は北海道でもっとも主要な品種で、秋タマネギの代表種である。黄色系以外の辛タマネギの品種では愛知白と札幌赤がよく栽培される。甘タマネギの品種としては、黄魁(さきがけ)と湘南(しょうなん)レッドがわずかに栽培される程度である。

[星川清親 2019年1月21日]

起源と伝播

起源地はイラン、パキスタンおよびその北の山岳を含む地域と推定されている。その野生種らしい植物が19世紀に西アジアで発見されたという報告がある。バビロフによれば、第一次中心地は中央アジア、第二次中心地は近東地区で、現在の栽培型より大きい大球型が地中海沿岸地域にある。中近東およびインドでは古くから栽培された。エジプトでは第1~第2王朝時代(前3000~前2700)の墓の壁画に描かれており、ピラミッドを築く労働者の食用とされた。ギリシアでは紀元前10~前8世紀、ローマでは前5世紀から栽培された。ドイツでは15世紀に大いにタマネギ料理が普及したが、ヨーロッパ一帯に広まったのは16世紀ころといわれる。北・南両アメリカ大陸には16世紀にスペインから入り、アメリカ合衆国では17世紀から栽培が始まり、現在では世界一の生産国である。また西インド諸島へは17世紀に入った。日本へは江戸時代(18世紀)に長崎に入ったが、現在の品種は主として1884~1885年(明治17~18)に導入され、改良されたものである。

[田中正武 2019年1月21日]

食品

タマネギは刺激臭と辛味が強く、これが肉や魚の臭み消しに効果がある。この刺激臭は、二硫化プロピルアリルと硫化アリルを含むネギ油(ゆ)で、目の粘膜を刺激し、涙を出させるのもこれである。煮ると辛味が抜けて甘い味と香りに変わる。スープをはじめ、肉や野菜などの煮込み料理に用いるが、とくに日本ではカレーライスの材料として欠かせないものになっている。サラダや料理の付け合せのほか、クローブやこしょうとともにピクルスにする。サラダなどの生食用には辛味の少ない赤タマネギが、その美しい色彩とともに喜ばれる。ベビーオニオンとかプチオニオンとよばれる小形のタマネギは、丸ごとシチューに用いたり、肉料理の付け合せなどに用いられる。また生だけでなく、乾燥粉末にしたものがスパイスとしてオニオンの名で市販されている。現在では乾燥タマネギもつくられ、これを水でもどすと約10倍に増える。葉タマネギとして収穫されたものは、葉も野菜として食べる。タマネギの栄養成分は、水分90.4%、タンパク質1%、脂質0.1%、糖質7.6%、また可食部100グラム中にビタミンC7ミリグラム、カルシウム15ミリグラム、リン30ミリグラムを含む。

[星川清親 2019年1月21日]


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食の医学館 「タマネギ」の解説

タマネギ

《栄養と働き》


 中央アジア原産のユリ科ネギ属の野菜です。わが国では、明治時代以降に北海道と関西地方で本格的に栽培されるようになり、全国的に広まりました。
 一般的に出回っているタマネギを分類すると、おもに皮が黄色い黄タマネギ、赤紫色の赤タマネギ、小さいサイズの小タマネギの3種になります。赤タマネギは黄タマネギよりも辛みが少なく、食べやすいのが特徴です。小タマネギは、プチオニオンとかペコロスなどとも呼ばれ、シチューやピクルスによく使われます。品種がちがうわけではなく、栽培方法が異なるだけです。貯蔵性が高いことが特徴です。
〈ビタミンB1の吸収を高め、血栓予防にも働く物質をもつ〉
○栄養成分としての働き
 栄養成分では、糖質が多いこと以外に特筆すべき栄養素はありませんが、調理の課程で発生する薬効成分にさまざまな効用があります。
 タマネギを切っていると、鼻にツンときて涙がでてきますが、硫化(りゅうか)アリルという成分で、揮発性の催涙物質(さいるいぶっしつ)です。硫化アリルは炒(いた)めたり煮たりすると、プロピルメルカプタンという甘みのある成分に変化します。じっくり炒めたタマネギがほんのり甘く感じるのはこのためです。
 硫化アリルの1つであるアリシンは、ビタミンB1の吸収を高め、新陳代謝を活発にするので、心身の疲れや夏バテ、イライラ、不眠症などに有効に働くのです。胃液の分泌(ぶんぴつ)を活発にするので、食欲を増進する働きもあります。さらに、善玉コレステロールをふやし、血小板がかたまるのを抑えるので、高血圧、動脈硬化、脳血栓(のうけっせん)や脳塞栓(のうそくせん)の予防にも効果が期待できます。腸内の善玉菌であるビフィズス菌をふやすフラクトオリゴ糖も含有していて、整腸、便秘改善も期待できます。
 そのほか、タマネギに含まれているジスルフィド類が、血糖値を下げて正常値に保つ働きがあるといわれ、糖尿病の予防や治療に効果をもたらすともいわれています。
 このほか、グルタチオンという肝臓の解毒を助ける成分や、血小板の凝集を抑制するピラジンも含んでいます。
 外側の茶色の皮にも有用成分が含まれています。ケルセチンという色素で、煎(せん)じて飲むと活性酸素を消去する働きがあります。

《調理のポイント》


 豚肉やハム、ダイズ、カツオなどビタミンB1の豊富な食品といっしょに食べると、B1を効率よくとることができます。
 食べ方としては、硫化アリルの効用を考えると、生で食べるのがいちばんです。薄くスライスして水にさらせば、たくさんとれます。水にさらしすぎると硫化アリルが逃げてしまうので、2~3分にしておきましょう。
○注意すべきこと
 ただし、ワルファリンカリウムという抗凝血薬(こうぎょうけつやく)を服用している人は、タマネギに微量ながら含まれるビタミンKにより、薬の作用が弱くなるので、食べすぎに注意。生はできるだけ避けて、加熱して食べるようにしましょう。

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百科事典マイペディア 「タマネギ」の意味・わかりやすい解説

タマネギ

ユリ科の二年生野菜。西アジアの原産といわれる。茎は直立した円筒形で高さ50〜100cmになり下方はふくらむ。葉は濃緑色で,白い球状花を茎先端につける。鱗茎は大型で刺激臭があり料理の味をよくするので肉・煮込料理などに重用される。春まき型と秋まき型があり,日本へは明治の初め欧米から渡来。また最近は紫色の改良種,小型のプチオニオンなどが洋風料理に需要を高めている。主産県は兵庫,佐賀など。
→関連項目ペコロス

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栄養・生化学辞典 「タマネギ」の解説

タマネギ

 [Allium cepa].ユリ目ユリ科ネギ属の多年草.鱗茎を食用にする.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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