硬骨魚綱タラ目タラ科に属する魚類の総称。世界で16属約31種が知られている。おもに北半球の極付近から温帯域に分布し、大西洋でもっとも多様性に富んでいる。体のサイズは、最小ではシルバリーパラトGadiculus argenteusの約15センチメートル、最大ではタイセイヨウマダラGadus morhuaの2メートルを超えるものまでさまざまである。大部分のタラ科魚類は典型的な海水魚であるが、一部の種が低塩分濃度に対して抵抗性を有し、コマイなどは汽水域でも生息できる。そしてカワメンタイLota lotaが唯一の淡水種である。タラ科の魚は一般に体がやや延長し、前半部は太く、後方に向かって細くなる。腹びれは胸位で、胸びれ基底より前方に位置する。各ひれを支える鰭条(きじょう)はすべて軟条で棘条(きょくじょう)はない。鱗(うろこ)は円鱗(えんりん)で小さく、うきぶくろと食道をつなぐ気道がないなどの特徴をもつ。本科の魚はタラ亜科Gadinae(コッドcod、ハドックhaddock)とカワメンタイ亜科Lotinae(リングling、バルボットburbot)に大別される(3亜科または4亜科に分ける研究者もいる)。前者では背びれが3基、臀(しり)びれが2基で、尾びれの後縁がまっすぐか、またはわずかに二叉(にさ)し、卵に油球がないのに対し、後者では背びれは1基または2基、臀びれは1基で、尾びれの後縁は丸く、卵に油球がある。日本産のタラ類はマダラ、スケトウダラ、コマイの3種だけで、いずれもタラ亜科に属する。淡水産のカワメンタイの分布はきわめて広く、ヨーロッパからシベリアの大部分、朝鮮半島および樺太(からふと)(サハリン)に分布するL. l. lota、北アメリカ東部に分布するL. l. maculosaおよびアラスカからカナダに分布するL. l. lepturaの3亜種が知られている。
[岡村 收・尼岡邦夫 2016年6月20日]
世界的にみてタラ漁業は、ニシン、イワシ漁業に次いで漁獲量が多く、重要食糧資源として位置づけられてきた。国連食糧農業機関(FAO)の資料によると、漁獲量は1970年~1980年代は1000万~1200万トン台(魚類総漁獲量の14~18%)で推移していたが、1990年~1999年は900万~1000万トン台(魚類総漁獲量の6~11%)に減少し、2000年~2008年では700万~900万トンと減少傾向にある。過剰な漁獲が原因であると考えられている。2006年~2012年のおもなタラの漁獲量は多少の年変動があるが、太平洋産マダラGadus macrocephalusが32万~47万トン、大西洋産マダラ類G. morhuaが77万~111万トン、スケトウダラでは250万~327万トン、ポラックPollachius virensが34万~50万トン、ヘイク類(Merluccius hubbsiとM. productus)は98万~110万トン、ハドックMelanogrammus aeglefinusが32万~43万トンである。
一方、日本のタラ漁業は北洋漁場への進出に伴って急速に発展し、農林水産省の資料によると、1960年代初期の40万トンから1970年代前半に300万トン余りへと急増した。しかし、世界各国が自国水域内の海洋資源への権利を主張する200海里時代に入るとともに、北太平洋周辺諸国(ソ連、カナダ、アメリカ)との漁獲量に関する協議が必要となり、漁獲量は1978年~1980年代前半には152万~170万トンに激減した。その後も1990年代後半には約37万トン、2012年には約28万トンと減少している。魚種別内訳はスケトウダラ約23万トン、マダラ約5万トンである。スケトウダラとマダラは北洋ではトロール、沿岸では中型底引網、延縄(はえなわ)などで漁獲され、とくにベーリング海域での母船式底引網漁業はもっとも規模が大きく、船上で冷凍魚や冷凍すり身に加工される。コマイは秋季には沿岸底引網で漁獲されるが、冬季には氷に穴をあけ、手釣りや定置網でとる。総菜や丸干しにされ、コマイ干しの風景は北海道東部の風物詩として有名である。
[岡村 收・尼岡邦夫 2016年6月20日]
北大西洋北部、とくにアイスランド周辺は世界有数のタラ漁場であり、イギリスをはじめとする周辺諸国は、この海域に水産資源の多くを依存してきた。しかし、19世紀に本格的漁業が開始されると乱獲の兆しがしだいに強まり、当初は90キログラムのマダラが記録されたが、現在では18キログラムもあれば大きいほうで、漁獲統計上の平均値は約4.5キログラムまで低落している。したがって、資源保護を目ざしたアイスランド政府は、1958年に4海里から12海里への領海拡張宣言を行い、既得権を主張するイギリスとの間に激しい争いを引き起こした。
国際司法裁判の結果はアイスランドの勝訴となったが、その後もタラ資源の減少が続いたため、1972年にアイスランド政府は漁業専管水域50海里を一方的に宣言した。これを無視したイギリスなどの諸国は、50海里内に侵入して操業を強行したため、ついに1973年5月アイスランド砲艦がイギリス漁船に発砲するという国際事件へと発展した。これに対してイギリスも自国の漁船団を保護するという名目で軍艦を派遣し、水産資源をめぐる戦争直前の事態となった。さらに1975年2月、アイスランドが漁業専管水域を200海里に拡大したことで、再度両国間で武力衝突が起こった。同年6月、イギリスの漁獲量を制限するという条件に両国が合意したことにより、ようやくこの争いが終結した。この一連の紛争を「タラ戦争」という。現在では平静な状態を保っている。
[岡村 收・尼岡邦夫 2016年6月20日]
日本近海には一般にタラとよばれる大形のマダラ、やや小形のスケトウダラ、アラスカ、北海道に多いコマイがいる。身には脂肪がたいへん少なく、白身で淡泊な味である。ヨーロッパなど外国でもよく利用される魚である。くせがないので、そぼろ、ちり鍋(なべ)、潮汁(うしおじる)、煮つけ、ムニエル、フライなど広範囲に使える。北日本には特有のタラの郷土料理があり、おもなものにタラ白子(しらこ)の数の子和(あ)え(北海道)、タラのルイベ(北海道)、タラのどんがら汁(山形)、タラのじゃっぱ汁(青森)、タラの子漬け(新潟)、棒だら煮(新潟)、いも棒(京都)などがある。
乾燥品に棒だら、干だら、すき身だらなどがある。これらの多くはスケトウダラが原料として使われる。またスケトウダラは大量漁獲魚であり、すり身として各種の練り製品の原料にされる。たらこはスケトウダラの卵巣の塩漬けで、紅葉子(もみじこ)、めんたい子(みんたい子)ともよばれる。
[河野友美・大滝 緑]
秋田県にかほ市の金浦山(このうらやま)神社では、2月4日の「掛魚(かけよ)まつり(たらまつり)」に、初漁のなかから選んだ最大のタラを笛や太鼓ではやしながら神前に供える。『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』には、タラの名は、初雪のあとにとれるため、魚偏に雪を配すとあり、とくに「寒鱈(かんだら)」といって冬季に珍重された。「鱈腹(たらふく)食べる」というのは、タラの貪食(どんしょく)性に由来する。また、早く成魚になって生命力が強いこの魚は、切ってもあまり血が出ないことから、武家で縁起のよい魚とされた。
[矢野憲一]
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
冬期3カ月の平均気温が平年と比べて高い時が暖冬、低い時が寒冬。暖冬時には、日本付近は南海上の亜熱帯高気圧に覆われて、シベリア高気圧の張り出しが弱い。上層では偏西風が東西流型となり、寒気の南下が阻止され...
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