チェロ(読み)ちぇろ(英語表記)violoncello 英語

精選版 日本国語大辞典 「チェロ」の意味・読み・例文・類語

チェロ

〘名〙 (cello) バイオリン属擦弦楽器の一つ。バイオリンよりやや遅い一六世紀前半に作られ、一七世紀のイタリア発達独奏楽器管弦楽・室内楽のパートとして花形楽器の一つとなる。バイオリンに比し、全長は約一二〇センチメートルで二倍、音高は一オクターブと五度低い。奏者椅子にかけ、脚棒(エンドピン)を床に立て弓を水平に運動させて弾く。セロビオロンチェロ。ビオロンセロ。
※黒い蝶(1955)〈井上靖〉五「ピアノコルトー、チェロのカザルスヴァイオリンティボートリオ

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デジタル大辞泉 「チェロ」の意味・読み・例文・類語

チェロ(cello)

擦弦楽器の一。バイオリン属の大型・低音楽器で、全長約120センチ。ビオラより1オクターブ低く調弦され、奏者は椅子にかけ、両膝の間に楽器をはさんで演奏する。セロ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「チェロ」の意味・わかりやすい解説

チェロ
ちぇろ
violoncello 英語
violoncello イタリア語
cello 英語
Violoncello ドイツ語
violoncelle フランス語

ビオロンチェロの略称で、リュート属擦弦楽器。4弦の弓奏楽器でセロともいう。バイオリンと同族の弦楽器で、このなかで音域はもっとも広く、男性的で深くつやのある音色をもち、独奏・合奏ともにバイオリンに次いで活用される。

 16世紀初めにビオローネから発展したと推定され、18世紀まで名称、弦数、調弦法にさまざまなものがみられた。現在のような形は、ストラディバリ製作のものが模範となっている。

 構造は他のバイオリン族とほぼ同じであるが、長さはバイオリンの約2倍、厚さは約3倍ある。下部に支えのためのエンド・ピン(19世紀末に考案)をもつ。弦は従来ガットやガットに銅線を巻いたものを用いていたが、近年ではスチール製のものが普及している。

 奏者は椅子(いす)に腰掛け、エンド・ピンと両足、みぞおちで楽器を支え、弓を水平に動かして弦をこする。音域はC2からE6で、第1弦(最高音弦)からA3―D3―G2―C2に調弦する。運指は楽器の大きさの関係で、半音が比較的容易にとれ、また親指も使えるため、バイオリンでは不可能な音型や高いポジションが可能である。また弦が長く、張力も大きいので、ピッチカートやハーモニクスの余韻が長く、ポルタメントも効果的となっている。

 名器としては現存する35のストラディバリがとくに有名で、なかでも「デュポール」(1711)は名器の誉れが高い。

[横原千史]

チェロ音楽と名演奏家

最古の独奏曲はイタリアのD・ガブリエリDomenico Gabrieli(1659―1690)の『リチェルカーレ』(1689刊)であるが、当時はほとんど通奏低音楽器として用いられた。18世紀中期、イタリアのフランチシェッロFranciscelloが親指を使う奏法を考案し、高音域が拡大され、ビバルディ、ボッケリーニは協奏曲、五重奏曲で、独奏の表現力を開拓した。J・S・バッハの6曲の無伴奏チェロ組曲(1720ころ)では、チェロ表現の一つの極致が示される。そしてハイドンは協奏曲のほか、弦楽四重奏曲でチェロの位置を堅固にした。

 19世紀初頭、フランスのJ・L・デュポールとドイツのB・ロンベルクが運指・運弓ともに系統的なメソードをつくり、名技的演奏が作曲家に影響を及ぼす。そのもとに、ベートーベンは5曲のチェロ・ソナタなどをつくり、さらに弦楽四重奏曲、管弦楽のなかでチェロの表現を飛躍的に拡大した。これらの作品の受容とともにチェロ表現も受け継がれてゆき、シューベルトも五重奏曲で独奏的に用いている。ロマン派のチェロ協奏曲ではシューマン、ドボルザーク、ラロ、サン・サーンスのものが有名であり、チェロ・ソナタではブラームス、フォーレ、ドビュッシーが傑作とされる。演奏家では、ロンベルクの弟子ドッツァウアーJ. J. F. Dotzauer(1783―1860)、グリュッツマッハーF. W. L. Grützmacher(1832―1903)、ベルギーのセルベA. F. Servais(1807―1866)、イタリアのピアッティA. Piatti(1822―1901)、オーストリアのポッパーD. Popper(1843―1913)、ドイツのクレンゲルJ. Klengel(1859―1933)らが、バイオリンと同程度まで技巧を高め、メソードも残している。

 19世紀末のエンド・ピン考案後は、カザルスがそれを最大限利用して現代奏法の基礎を築いた。彼はまたバッハを復活させ、ハイドン、シューマンなどを盛んに取り上げ、チェロのレパートリーを大きく拡大させた。現代奏法はフォイアマン、ピエール・フルニエ、ロストロポービッチらビルティオーゾを生み出し、その協力のもとにコダーイ、ショスタコビチ、ブリテンらが作曲している。

[横原千史]


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百科事典マイペディア 「チェロ」の意味・わかりやすい解説

チェロ

バイオリン属の擦弦(さつげん)楽器。起源はバイオリンと同じく16世紀初頭で,16世紀中葉には現在のような型のチェロがイタリアで完成した。4弦でビオラより1オクターブ低く調弦するが,初期には5弦のものもあり,J.S.バッハの《無伴奏チェロ組曲》の第6番は5弦の楽器のために作曲されている。楽器の胴は膝(ひざ)の間にはさみ,下端にはエンド・ピン(脚棒)を付けてささえる(エンド・ピンの考案は19世紀後半)。弓はビオラ用の弓より少し短い。広い音域と豊かな音量のため,重要な低音楽器としてバロック時代以降用いられ,以後古典派音楽時代にかけてJ.S.バッハ,ボッケリーニ,F.J.ハイドンベートーベンなどが独奏用の名曲を残し,ロマン主義の時代にはシューマンブラームスドボルジャークなどが協奏曲やソナタを作曲した。20世紀に入るとカザルスフォイアマンロストロポービチらが登場して技術面で飛躍的な進歩を遂げ,バイオリンと並ぶ独奏楽器としての地位を確立。19世紀以前をはるかに上回る数の独奏曲や協奏曲が誕生している。また近年はバイオリン同様〈オリジナル楽器〉による演奏も盛んで,ビルスマらのすぐれた演奏家が活躍。→アマーティアルペッジョーネストラディバリビオラ・ダ・ガンバ
→関連項目コントラバス

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世界大百科事典 第2版 「チェロ」の意味・わかりやすい解説

チェロ【violoncello[イタリア]】

バイオリン属の弦楽器。ビオロンチェロの略称。大きさは全長においてはバイオリンの2倍,胴体の厚みは4倍ある。演奏者は椅子に腰かけ,楽器の下部に取りつけられ長さを調節できる棒(エンドピン。多くは金属製)を床に突き立てるようにし,両ひざで挟んで演奏する。弓は右手の指全部で持ち,弦に対して直角に置き,運弓の際は常に弓を水平に保つ。弦は4本であり,下から〈は,と,ニ,イ〉に調弦する。弦は他のバイオリン属同様羊の腸から作ったガット弦(羊腸弦)を用いていたが,現在はじょうぶなスチール弦の方が広く普及している。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チェロ」の意味・わかりやすい解説

チェロ
cello; violoncello

楽器の一種。バイオリン属の低音楽器で,バイオリンより1オクターブと5度低い。4本の弦は,ハ,ト,ニ,イ音に調弦され,音域は4オクターブ以上。両膝の間にはさむようにして構え,弓を用いて奏する。

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