改訂新版 世界大百科事典 「テンナンショウ」の意味・わかりやすい解説
テンナンショウ
Arisaema serratum (Thunb.) Schott
暖温帯域を中心に日本全国に広く分布するサトイモ科の多年草。多形的で,それぞれの地方型にいろいろと名まえがつけられている。地下に直径3~5cmほどの扁球形の球茎があり,春にそこから高さ40~100cmをこえる葉柄の葉鞘(ようしよう)部が巻き重なった偽茎を伸ばし,通常2枚の葉をつける。葉身は鳥足状に7~15裂し,しばしば葉縁に鋸歯がある。花茎は偽茎の中を貫通し直立し,その頂端に仏焰苞に包まれた肉穂花序をつける。仏焰苞は筒部とそれをおおう舌状部に分かれ,緑色や暗紫色で白い縦縞がある。棒状の付属体を有する肉穂花序は雌雄があり,小さな個体は雄性,大きくなると雌性になり,性転換をする植物として有名である。日本のほかに朝鮮半島にも分布する。関東地方を中心に分布し,付属体が太く仏焰苞も大きい型はムラサキマムシグサA.serratum(Thunb.)Schott(カントウマムシグサ),西南日本の付属体がやや細くなるものはマムシグサA.japonicum Bl.,日本海側や朝鮮半島に分布し,付属体の上部がさらに細まるものはコウライテンナンショウA.peninsulae Nakaiと区別されるが,移行型があって,明確に種を分けることができない。北海道から九州にかけては,全体大型で付属体も膨大し,仏焰苞の舌状部も広卵形で先端が垂下するオオマムシグサA.takedae Makinoがある。関東西部山地から伊豆半島,それに紀伊半島山地にはホソバテンナンショウA.angustatum Fr.et Sav.が山地上部の冷温帯域に分布する。テンナンショウの地下の球茎はデンプンを含有するが,あくが強くて食用には用いられない。便所のうじ殺しや漢方の天南星(てんなんしよう)として薬用とされる。
テンナンショウ属Arisaema(英名Indian turnip)は日本で30種以上が分化している大きな属で,西南日本に多い。テンナンショウに似たヒガンマムシグサA.aequinoctiale Nakai et F.Maek.は房総半島から知られ,名まえのように3月に開花を始める早咲きで,やや小型である。この群にはミミガタテンナンショウA.limbatum Nakai et F.Maek.(関東山地,東北や四国の一部)やナガバマムシグサA.undulatifolium Nakai(伊豆地方)など地方的な種が知られている。
ウラシマソウA.urashima Haraは花序の付属体が糸状に長く伸び出し垂れ下がる。種子は発芽1年目は地中に小さな球茎を形成するだけで,葉が地上に展開するのは第2年目からという特異な特徴をもつ。近縁のナンゴクウラシマソウA.thunbergii Bl.,ヒメウラシマソウA.kushianum Makinoが西南日本に分布する。伊豆諸島に分布するシマテンナンショウA.negishii Makinoもウラシマソウに類縁的には近いもので,球茎は蒸し煮して突き砕きだんごにして食べる。
ほかに日本にはムサシアブミA.ringens(Thunb.)Schott,ミツバテンナンショウA.ternatipartitum Makinoなど3小葉からなる原始的な群と考えられるものや,冷温帯のブナ林を主たる生活領域とする5小葉の通常2枚葉をつけるユモトマムシグサA.nikoense Nakai群,日本海側多雪地帯から大陸部にかけて分布する1枚葉のヒロハテンナンショウA.robustum (Engl.) Nakaiをはじめ,葉が1枚になった特殊なツクシマムシグサA.maximowiczii (Engl.) Nakai,オモゴウテンナンショウA.iyoanum Makino,セッピコテンナンショウA.seppikoense Kitamuraなど地方的な固有種など,多くの種が分化している。テンナンショウ属は東アフリカ,東アジアからマレーシア,それに北アメリカ東岸域に150種以上が知られており,ヒマラヤ東部から中国南部にかけての山地域で最も多様な分化をしている。サトイモ科のなかでは,湿潤な温帯森林域で適応的な分化をした特異な群である。ヒマラヤ域では数種が食用にされている。
執筆者:堀田 満
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報