前477年,アテナイを中心にエーゲ海域のギリシア諸市が結成した対ペルシア攻守同盟。当初,同盟本部がデロス島に置かれたことから,後世この名で呼ばれた。加盟市の数は最盛期で約200と推定されている。この同盟の特徴は,盟主アテナイが行った強力な同盟支配に求められる。プラタイアイの戦の後,スパルタの不人気からギリシア諸市の中核的存在となり,輿望を担って新たに同盟を組織したアテナイは,諸市の供すべき艦船・兵員の数,あるいはそれに代わる拠出金の額を査定し,同盟会議に対し実質的な影響力を行使し,同盟金庫の役人に自国選出の10人をあてるなど,当初から強力な指導権を握っていたが,前454年,アテナイのエジプト遠征軍敗北を機に同盟金庫を自国のアクロポリスに移した後は,財政を完全に掌握すると同時に加盟諸市に対する支配を一段と強めた。前449年ペルシアと正式の和約を結んだ後も,アテナイは加盟市より貢租金の徴収を続けたうえ,それによって蓄積された同盟基金を流用してパルテノンその他の神殿建立を開始し,また同盟領域内の度量衡と通貨をアテナイのそれに統一することもあえてしている。それに加えてアテナイは民主派政権への肩入れ,駐留軍・監督役人の派遣を行ったほか,一部の加盟市にあるいは土地を割譲してアテナイの無産市民を屯田兵として迎え入れ,あるいは重大な裁判の判決をアテナイの民衆法廷にゆだねるよう強制した。
デロス同盟は最盛期アテナイの政治・経済・文化を支える基盤であった。同盟基金はアテナイの役職・出陣手当の支払いにもあてられて,市民たちの懐をうるおすと同時に,アテナイ民主政の財政的な支えとなり,また東地中海域の政治・経済の中心としての吸引力がこの地に多数の外国人を招き寄せて,前5世紀アテナイの旺盛な文化的創造を促す一因をなした。ペロポネソス戦争が始まると,デロス同盟はスパルタを中心とするペロポネソス同盟と全面的に対決することになるが,前413年,シチリア遠征が惨敗に終わると,加盟諸市は次々とアテナイの絆(きずな)から脱し,前404年,アテナイがスパルタに屈するとともに完全に解体した。
→アテナイ第二海上同盟
執筆者:伊藤 貞夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
前478年にエーゲ海岸のギリシア都市が,ペルシア艦隊の来襲にそなえてアテネを中心に結成した同盟で,その参加都市の数はしだいに増加して約200に及んだ。同盟の資金がデロスの島に置かれ,そこで会議が開かれたのでこの名がある。参加都市は軍艦と乗組員を提供するか,その代わりにアテネが査定した貢税を年々納める定めであった。しかし大部分の都市は貢税の方を選び,そのうえ前454年,アテネが資金の金庫をアテネに移し,同盟市にアテネ風の民主政を強要した結果,同盟がアテネ帝国化するのを防げなかった。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
… この戦争は東方の専制君主制とギリシアのポリスとの対決で,ギリシアの勝利はポリス的自由の勝利を意味した。そしてこの勝利はアテナイの名将テミストクレスの戦略とアテナイ海軍の活躍によるところが大きかったから,アテナイにおける無産市民(軍艦の漕ぎ手として活動した)の政治的発言権が増大し,民主政がいっそう徹底されるとともに,ペルシア軍の再来に備えてアテナイを盟主として結成されたデロス同盟の加盟諸市にも民主政が普及するにいたった。 一方,西方では前480年ごろカルタゴ軍が,東方におけるペルシア軍の侵入に呼応するかのようにシチリアのギリシア人を攻撃したが,シラクサの僭主ゲロンはヒメラの戦でこれを破り,ギリシア人は東西において異民族の攻撃を撃退したのであった。…
…クレオンの家系については不明の点が多いが,土地財産をもつ中流以上の出であったと思われる。政策の面ではペリクレスの後継者としてアテナイの〈帝国政策〉を積極的に推し進め,前425年にはスファクテリア島のスパルタ軍を降伏させる壮挙さえやってのけたうえ,デロス同盟加盟諸国に課す年賦金(フォロス)を2倍ないし3倍に引き上げ,国内では法廷審判人の日当を3オボロスに増額させた。前422年,将軍として北ギリシアのトラキア地方に出陣し,スパルタの将ブラシダスに敗れて戦死した。…
…初めは付近のナクソス島の保護を,前6世紀後半からはアテナイのペイシストラトス,サモス島のポリュクラテスの保護を受けた。前477年にアテナイを盟主とする対ペルシア海上同盟(デロス同盟)が結成されると,同盟会議と同盟の金庫がこの島に置かれた。しかし前454年同盟の金庫がアテナイに移されると,デロス島はそれまでの政治的重要性を失った。…
※「デロス同盟」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」