改訂新版 世界大百科事典 「トゥラン主義」の意味・わかりやすい解説
トゥラン主義 (トゥランしゅぎ)
Turancılık
トルコ・ナショナリズムの一潮流。トゥランとは,ユーラシア大陸に広がるトルコ系諸民族の総称であり,トゥラン主義は,それら諸民族の一体性を追求しようとする立場である。そこでは,一体たるべきものの中に,マジャール,フィン,モンゴル,ツングース等,広義のウラル・アルタイ系諸言語を話す人々をも含めようとする場合もあり,トゥラン概念は大きな振幅をもっている。ツァーリズム支配を脱する目的で,19世紀後半,ロシア治下のトルコ系住民の間に生まれたトゥラン主義は,〈青年トルコ〉革命後,オスマン帝国内にもちこまれた。《母国トルコTürk yurdu》誌を中心に繰り広げられたこの運動は,初めトルコ民族の統一のほかに,オスマン主義と同様にオスマン帝国の再建という異なる目的をも内にはらんでいたが,しだいにエンウェル・パシャの海外膨張策とも結びついて,前者の色彩が濃厚になっていった。トルコ共和国の成立によって,ナショナリズムが共和国の枠内に限定された後は,極右思想として生き延びているにすぎないが,オスマン帝国からトルコ共和国への移行期に,ナショナリズムの理念を提供したトゥラン主義およびトゥラン主義者の役割は大きい。
執筆者:新井 政美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報