自動化された工作機械と自動運搬装置とが結合され、一連の機械加工をすべて自動的に行う工作機械。第二次世界大戦後、アメリカのフォード自動車会社でエンジンのシリンダー・ブロック加工用に開発し、一躍有名になり、世界の各工業国に普及した。多くの単能工作機械が組み合わされ一連の加工を自動的に行うトランスファーマシンは、機械工業のオートメーションの基礎となっている。この機械の一端から被工作物が供給され、動く工作台によって加工位置(ステーション)に自動的に運ばれセットされる。ステーションには自動工作機械が設備されていて、この位置に被工作物がくると、自動的に所要の加工が行われる。加工が終わると次のステーションに運ばれ順次移動し、最後のステーションからは加工を完了したものが送り出される。機械加工の自動化に一転機をもたらした注目すべき機械である。
[中山秀太郎]
機械加工は旋盤、ボール盤、フライス盤などの工作機械が、加工の目的によってそれぞれ単独で使用されている。これらの工作機械には、加工を行おうと思う素材をそのつど機械に取り付け、刃物を加工の種類、寸法に応じてセットし、モーターなどにより加工物または刃物を駆動して加工を行う。加工が終われば機械を停止し、被加工物を取り外し、次の加工のために別の工作機械にまで運び、そこで取り付け、加工を行う。
これらの工作機械を一か所に集め、加工位置を互いに連結し、一つの加工位置から次の加工位置まで被工作物を移動できるようにしたものがトランスファーマシンである。穴あけ、ねじ切り、面削り、その他の加工が各ステーションで一斉に行われ、各ステーションでの加工時間はほぼ同じになっている。そのため、加工は一斉に終了し、ステーションの加工機械は停止する。被加工物をのせた台は移動し、それぞれの加工を終わった工作物を次のステーションまで運んでいく。ステーションは一列に直線的に配列しているもの、円形に配列しているもの、串(くし)形配列のものなどいろいろある。全長何百メートル、ステーションの数も100以上という大型のものもある。
[中山秀太郎]
トランスファーマシンは自動車のエンジン・ブロックの加工をすべて自動的に行う目的でつくられたものである。被加工物ののせてある台の移動も、ステーションに設備されている工作機械もすべて自動化され、ボタン一つで操作できる。したがって数百台の機械の運転も1人でよい。1台の工作機械に一人の操作員がついているのに比べると、トランスファーマシンは操作のための人員をかなり削減できる。したがってトランスファーマシンによる労働生産性の向上は大きい。またすべて自動機械で加工が行われるので、品質のそろったものができ、仕掛け品の減少などの効果もあるので設備投資額は大きいが、人件費の減少などもあり、自動車の生産工場に広く普及した。トランスファーマシンは操作盤にあるボタンで稼動できるが、通常、故障のときなどに備えて機械の保守のため2、3人が配置される。
[中山秀太郎]
自動車産業に普及したトランスファーマシンは、機械加工の自動化に威力を発揮したため、機械加工はできるだけトランスファーマシンを使用しようという傾向が強まり、他の産業分野にも広まった。モーターの枠、カメラのボディその他トランスファーマシンによる機械加工の自動化はしだいに増加した。なおトランスファーマシンは大量生産用の加工機械として発達してきたが、社会の発展とともに生産品の多様化が要求されるようになり、それに対応するため、各ステーションのユニット化が試みられ、目的によってステーションを交換できるようなくふうがされるようになった。さらにエレクトロニクスの発達もあって、各ステーションの加工もつねに同じものではなく、随時変更することもでき、変化に富んだ機械加工を自動的に容易に行えるようになった。さらにこの機械全体をコンピュータと組み合わせ、デジタル制御を行い機械加工の自動化は一段と進むようになった。
トランスファーマシンによる機械加工の自動化は多くの優れた点があったために、機械加工だけでなく、他の分野にも自動化の波は広がり、電力工業、製鉄工業、化学工業などあらゆる工業の自動化を推進し、いわゆる20世紀後半のオートメーション時代の到来となった。
[中山秀太郎]
トランスファーラインともいう。多量生産される部品を安いコストで加工することを目的とした機械加工システム。機械の部品を加工する際には,素材から不要な部分をいろいろな方法で順序よく除去していくが,この加工工程順に専用工作機械を多数並べ,これら機械の間をコンベヤなどの工作物を運搬するための手段で結んだもの。各専用工作機械(ステーションと呼ばれる)がそれぞれ分担している特定の加工を終了するのに応じて,工作物を一定時間ごとに各ステーション間で次から次へと移送して部品を形づくる。本格的なトランスファーマシンは1950年代アメリカの自動車メーカーの提唱により新しく開発された。その背景は,諸技術の進歩により製品の改良を頻繁に要求される産業では,新しい製品に合うようにその生産設備を短い時間で安く更新する必要があるが,従来の工作機械はこの要求に対処できなかったことにある。トランスファーマシンの中心であるステーションは,標準化された特定の機能および構造形態をもつブロック(ユニットという)より構成されており(これを積木式構成法,またはモジュラー構成法という),ユニットの組合せを変えることにより新しく要求された加工の機能をもったものに転換できる。この積木式構成法の思想は,工作機械に多様な加工機能をもたせるのに適しており,1930年代にドイツで提案され,現在でも広く用いられているが,トランスファーマシンはこの思想をもっとも効果的に利用した代表的な例といえる。トランスファーマシンでは,加工に直接関係するステーションだけでなく,工作物や工具の運搬,交換あるいは加工の際に除去した切りくずの処理の方法をはじめ,工作物を加工するときに必要な作業すべてについて高度の合理化,自動化が進められている。最近では,コンピューターによってシステム全般の制御を行い,特定の部品だけでなく多様な部品も加工できるような,柔軟性のあるシステムの方向へと発展しつつあるが,これはフレキシブルトランスファーラインと呼ばれる。
→工作機械
執筆者:伊東 誼+西脇 信彦
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