日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロワイヤ」の意味・わかりやすい解説
トロワイヤ
とろわいや
Henri Troyat
(1911―2007)
フランスの作家。帝政ロシアの富裕な商人の家に生まれ、一家でパリに亡命。1938年、長編小説『蜘蛛(くも)』により、サルトルの『嘔吐(おうと)』と争いゴンクール賞を獲得した。以後『この世の続く限り』全3巻(1947~50)など数編の大河小説、『ドストエフスキー』(1940)、『ゴーゴリ』(1971)などロシア作家の評伝、『女帝エカテリーナ』(1977)、『イワン雷帝』(1983)など帝政ロシア期の歴史小説のほか、『フローベール』(1988)、『モーパッサン』(1989)などフランス作家の評伝も手がけ、シナリオ、エッセイなどにも多彩な活躍をみせた。人間性追求に深みはないが、スラブ民族の混沌(こんとん)とした情念をフランス的明快さで分析する闊達(かったつ)な筆致と、巧みなドラマ展開で読者をひきつけた。アカデミー会員。
[工藤庸子]
『村上香住子訳『チェーホフ伝』(1987・中央公論社)』▽『村上香住子訳『ドストエフスキー伝』(中公文庫)』▽『福永武彦訳『蜘蛛』(新潮文庫)』▽『工藤庸子訳『女帝エカテリーナ』『大帝ピョートル』『イヴァン雷帝』『アレクサンドル一世』(中公文庫)』