改訂新版 世界大百科事典 「ネワール」の意味・わかりやすい解説
ネワール
Newār
ネパールのカトマンズ盆地(標高約1300m)を故地とする人々。人口約45万(1971)。母語はチベット・ビルマ語系のネワール語で,ネパール語を国語とする国の首都の主要住民が,国語とまったく異なる言葉をもつという形になっている。彼らは古くから都市文明を培い,シャハŚāh王朝による現ネパール王国の統一(1768・69)以前に盆地とその周辺を版図とするいくつかの王朝を築いた。7世紀前後数世紀にわたって存在したリッチャビLicchavi王朝の繁栄は中国の史書にも見え,また13~18世紀のマッラMalla王朝時代には建築,彫刻などの工芸や学問が開花した。今日ネワールは一般に商才にたけた人々として知られ,全人口の半数近くが盆地外の町に進出し,商業,官庁勤め等の仕事に携わっている。また以前はチベット~インドの中継交易も盛んに行い,これが盆地内諸都市の繁栄の大きな経済的基盤になっていた。盆地内ではカトマンズ市に商業に携わるネワールが特に多いが,他の町村では,煉瓦建ての家々が密集する都市的な外見にもかかわらず,農業人口が多数を占める。農業は稲を表作,小麦,ジャガイモ等を裏作とし,ネパールの他地域に比べ土地生産性が高く,また牧畜の重要性は低い。なお都市部では,官吏,教員等の勤め人も多く,また近年,土木建築関係の就業人口も増している。
ネワール内部は数十のさまざまな職業,役割をもつカーストに分かれ,その中に仏教徒も位置づけられている。また,世俗的な仕事での分業よりも,祭りにおける役割分担など儀礼面での分業の方が複雑である。各カーストの内部編成では,父系的関係が一つの軸であるほか,グティguthiと呼ばれる儀礼執行組織がいくつも存在し,同一地域内の同カーストの人々を緊密に結びつけている。宗教面では土着信仰と,古くインドから伝わりネワール的に変貌した仏教,ヒンドゥー教が混交し,しかも,儀礼行為を行うことに関心が集中していること,出家仏教僧がほとんどいないこと等が特徴である。
執筆者:石井 溥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報