バグダード(読み)ばぐだーど(英語表記)Baghdād

精選版 日本国語大辞典 「バグダード」の意味・読み・例文・類語

バグダード

(Baghdad)⸨バグダッドイラク共和国首都。チグリス川中流の両岸にまたがる。西アジア隊商貿易路の要地として発達。八世紀にアッバース朝の首都となり、イスラム帝国拡大とともに世界一の大都市に発展したが、一三世紀には蒙古軍、一五世紀にはチムール軍に破壊された。一九二一年イラク王国の首都となってから近代的新市街が発達。歴代カリフの建設した大モスクが残る。

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デジタル大辞泉 「バグダード」の意味・読み・例文・類語

バグダード(Baghdād)

バグダッド

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「バグダード」の意味・わかりやすい解説

バグダード
ばぐだーど
Baghdād

イラクの首都。同国中央部、ティグリス川沿岸に位置する。人口約495万8000(2001)。気候は、砂漠が近いため乾燥し、年降水量は156ミリメートルにすぎず、降水はほとんど冬に集中する。冬は温暖だが夏の暑さは厳しい(7月の平均気温35.1℃)。古い歴史をもち、イラクの政治、経済、文化の中心地で諸官庁や外国公館があるほか、同国の工業の大半が集中し、皮革、絹・綿製品、セメント、たばこ、アラック酒などの製造業があり、石油関連諸工業が急速に発展している。鉄道はバスラキルクークモスルなど国内の主要都市と結ばれるだけでなく、シリア、トルコへ延び、ヨーロッパへも通じている。また、ティグリス川の汽船航行、各地を結ぶ道路網や国際線の発着する空港があり、交通の要衝となっており商業活動も盛んである。市街はティグリス川の両岸に広がる。東岸にはバザール、旧王宮、民族解放記念碑、バグダード大学、イスラム教シーア派の聖地カージマイン・モスクのほかに、伝統的な商店街でイラク随一のにぎわいをみせるラシード通りもある。また、南方には新住宅地が広がり、ヨーロッパ風のレストランやホテルもみられる。西岸には大統領府、議事堂、博物館、鉄道中央駅、国際空港などがある。2003年のイラク戦争でアメリカ・イギリス軍の攻撃を受け、同年4月には両国軍に制圧された。戦後の占領統治を行った連合国暫定当局(CPA)の本部が置かれた。04年6月にはイラク暫定政府へ主権が移譲されたが、多国籍軍が駐留する。

[原 隆一]

歴史

アッバース朝第2代カリフのマンスールは、762年、ティグリス川西岸の寒村バグダードをイスラム帝国の新首都の地に選び、大規模な都市を建設して、マディーナ・アッサラーム(平安の都)と命名した。その中心部は直径約2.35キロメートルの円城で、三重の城壁をもち、内部は黄金門宮と大モスクを中心に、警察と親衛隊の屯所があるだけの広い中庭の宮域部と、その周囲を取り巻く形での官庁街や、王子たちの宮殿などのある行政区、さらにその外周にあたる高官や衛兵たちの居住区とから成り立っていて、中央の宮殿の緑色のドームは、カリフ権の象徴としてひときわ高くそびえていた。また円城外南部のカルフ地区は商工業地区にあてられ、ティグリス川の東岸には軍隊の駐屯所や王族たちの宮殿が建設された。バグダードはメソポタミアの豊饒(ほうじょう)地帯のほぼ中央にあたるばかりでなく、東西通商路の十字路にもあたっていたことから、急速に発展し、イスラム世界の政治、経済、文化の中心地として栄えた。813年と865年の内乱で市の中心は東岸に移ったものの、最盛期の9~10世紀の初めには人口150万を数えたといわれる。しかし、10世紀なかば以降になると、軍閥相互の戦闘やブワイフ朝の侵入、民衆の暴動、洪水などによって荒廃化が進み、セルジューク朝時代に一時回復したが、1258年にモンゴル軍の侵入を受けると、市民は虐殺され、まったく荒れてしまった。バグダードはもはや単なる一地方都市にすぎなくなっていたが、14世紀末と15世紀初め2回にわたってティームールの略奪を受け、15世紀なかばには廃墟(はいきょ)同然となった。16世紀にオスマン帝国の支配下に入り、1921年イラク王国が樹立されるとその首都となり、ついでイラク共和国に引き継がれ、しだいに近代都市への様相を呈した。

[森本公誠]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バグダード」の意味・わかりやすい解説

バグダード
Baghdād

イラクの首都。チグリス川中流河岸に臨む。ペルシア湾の河口から約 560km北西にさかのぼったところに位置し,イラクのほぼ中央にある。古代メソポタミアの中心地であったバビロンやセレウキア,クテシフォンに近い寒村であったが,762年第2代のカリフ,マンスールのとき,アッバース朝の首都に定められ,「平安の都」 (マディーナト・アッサラーム) とした。都市は円形をした三重の城壁で囲まれ,四つの門が設けられ,四つの大道が中央広場に通じ,その中央に宮殿やモスクがあった。東方におけるイスラム文化の中心地として繁栄し,8世紀から9世紀初めにかけてハールーン・アッラシード王の治世に極盛に達した。人口 200万といわれたが,内乱のため廃墟と化し,9世紀末にはチグリス川東岸に移した。 1258年モンゴルのフラグがアッバース朝を滅ぼし,バグダードは壊滅的打撃を受けた。その後 1401年にチムールに攻略され,16世紀からはオスマン帝国の領土となり,20世紀初めまで地方都市の地位にとどまっていた。第1次世界大戦のとき 1917年イギリス軍が占領し,1921年イラク独立と同時に首都となった。第2次世界大戦後は石油利権料の増加に伴って近代化が進み,商工業も発展した。イラクの政府官庁,銀行,病院などの近代的建物と,伝統的な生活様式が同居してある種の調和を保っている。イラクの工業の大半が集中し,皮革,絹・綿織物,セメント,たばこ,ビールやアラク酒などの工業が行なわれる。また文化の中心で,バグダード大学,研究所,図書館,考古博物館などがある。アッバース宮殿とムスタンシリーア法律大学 (1232創立) が博物館として現存。モスクの数も多いが,チグリス川対岸のカージミーヤにある,シーア派イスラム教の第7代イマーム,アルカージムと第9代イマーム,アルジャワードの墓と,カージマイン・モスクは,同教徒の聖地で,巡礼の中心である。イスタンブール=バグダード鉄道の終着駅であり,バスラなどとは鉄道,幹線道路で結ばれている。国際空港もある。 1991年の湾岸戦争,2003年のイラク戦争では,爆撃により軍事施設だけでなく民間施設も大きな被害を受けた。人口 575万1000(2009推計)。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「バグダード」の解説

バグダード
Baghdād

イラク共和国の首都。ティグリス川にまたがり,アッバース朝第2代カリフマンスールが,ティグリス川西岸に円城都市「平安の都」を築いたのがその起源。まもなく町の中心は東岸に移ったが,サーマッラー遷都時代(836~892年)を除き,バグダードはアッバース朝の首都として繁栄した。イル・ハン国ティムール帝国サファヴィー朝オスマン帝国の支配時代には一地方都市となり,17世紀に衰退をきわめた。しかし18世紀中頃から回復に向かい,1921年,イラク王国の誕生とともに首都となり,68年バース党のクーデタ後は,サッダーム・フセイン大統領の指導下に,80~88年のイラン‐イラク戦争と91年の湾岸戦争を体験。アメリカなどの経済封鎖によって恒常的な疲弊状態におかれた。2003年アメリカなどの対イラク攻撃によりバグダードは再び戦火にみまわれた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「バグダード」の解説

バグダード
Baghdad

西アジアのイラク中央部,ティグリス川右岸の都市
メソポタミアの中心地で,762年アッバース朝第2代カリフのマンスールが都市建設を開始して都とした。以後,イスラーム文化の中心として繁栄し,第5代ハールーン=アッラシードのとき極盛に達し,人口は150万を超えたと推定される。1258年フラグのモンゴル軍に占領されてから衰え,16世紀以後はオスマン帝国に属した。19世紀末のバグダード鉄道問題で再び史上に現れ,1921年以後はイラクの首都となっている。

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世界大百科事典 第2版 「バグダード」の意味・わかりやすい解説

バグダード【Baghdād】

イラク共和国の首都。同国中部,ティグリス川の河畔にあり,イラク平原のほぼ中央部に位置している。人口は約448万(1995)。名称の由来については,これを〈神(バグ)の賜物〉を意味するペルシア語であるとする説や,〈羊の家〉を表すアラム語であるとする説などがあって,一定していない。バグダードの存在はすでにハンムラピ王の時代から知られていたが,前8世紀になるとアラム人の集住が始まり,やがてここに年ごとの定期市を開くことが慣例となった。

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百科事典マイペディア 「バグダード」の意味・わかりやすい解説

バグダード

バグダッド

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世界大百科事典内のバグダードの言及

【イラク】より

…正式名称=イラク共和国al‐Jumhūrīya al‐‘Irāqīya∥Republic of Iraq面積=43万5052km2人口(1996)=2142万人首都=バグダードBaghdad(日本との時差=-6時間)主要言語=アラビア語,クルド語通貨=イラク・ディナールIraqi Dinarアジア南西部の共和国。日本の奄美諸島から北関東とほぼ同緯度の北緯30゜から37゜の間に位置し,北はトルコ,西はシリアとヨルダン,南はサウジアラビアとクウェート,東はイランに境を接する。…

【都市】より

…イスラム時代の都市には,ダマスクスやアレクサンドリアのように古代オリエントの都市をそのまま継承したものもあれば,イラクのバスラやクーファ,あるいはエジプトのフスタートのように大征服の過程で軍営都市(ミスル)として建設されたものもあった。またカルバラーやマシュハドは聖地を中心に発達した宗教都市であるが,バグダードやカイロは初期のミスルと同じくまず軍事・行政の中心地として建設された。 どの都市においても,町の中央部にあるモスク(ジャーミー)では金曜日ごとに信者による集団礼拝が行われ,また礼拝に先立つフトバ(説教)には,都市住民の総意として時の権力者の名前を読み込むことが慣例であった。…

※「バグダード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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