日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒョウ」の意味・わかりやすい解説
ヒョウ
ひょう / 豹
leopard
panther
[学] Panthera pardus
哺乳(ほにゅう)綱食肉目ネコ科の動物。アジア東部・中部・南部からアフリカのほぼ全域にかけて広く分布し、寒帯から熱帯の岩石地、草原、低木林、森林に生息し、平地の人家付近からキリマンジャロの海抜5100メートルの地点までみられる。ネコ科動物のうちで、もっとも優れた環境への適応力をもっている。体長95~150センチメートル、尾長60~95センチメートル、体重30~80キログラム、雌は雄よりずっと小さい。体色や体毛の長さは地域によって異なるが、多くは淡黄色から褐色で黒色の斑紋(はんもん)があり、背面の黒斑は梅花状である。24亜種に分けられ、もっとも北に分布し大形で美しいアムールヒョウP. p. orientalis、小形で黒変種の多いジャワヒョウP. p. melas、大形で黄色が強く基亜種のキタアフリカヒョウP. p. pardus、赤色が強く斑紋の小さなケープヒョウP. p. melanoticaなどがある。全身が黒褐色のクロヒョウは黒変種で、別種でも別亜種でもなく、両親が普通の体色のヒョウからも生まれる。クロヒョウは東南アジアなどの深い森林にすむものに多い。
ヒョウは普通、単独で生活し、日中は茂み、木陰、枝の上などで休息していることが多く、夕方から夜に狩りを行う。昼間はめったに狩りをしない。体を地面につけるように低くし、音をたてずに数メートルまで接近してから獲物に飛び付き、頸(くび)かのどをかんで殺す。茂みや木の上で待ち伏せることもある。木登りがうまく、樹上でサルをとらえることができるほどである。アフリカではヒヒ、イボイノシシ、クーズーほどの大きさまでのレイヨウ、ハイラックス、ウサギ、鳥、魚などをとらえ、アジアではシカ、若いスイギュウ、レイヨウ、アイベックス、イノシシ、ラングールなどを食べる。ヤギやヒツジなどの家畜も襲う。獲物を倒すと木の上に引き上げ何日も食べにくるが、91キログラムのキリンの子を引っ張り上げた記録がある。繁殖期は熱帯地方のものでは不定であるが、北方のものは冬で、妊娠期間90~105日ののちに1産2~4子、ときに6子を産む。子は9日ほどで目が開き、5か月もすると歯も生えそろい体の大きさも親に近くなり、普通、次の繁殖期には独立する。3年で性成熟する。寿命は飼育下で23年である。
[今泉忠明]