日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビタミン剤」の意味・わかりやすい解説
ビタミン剤
びたみんざい
ビタミンを医薬用に製剤化したもので、そのほとんどが合成品であり、脂溶性ビタミンも化学的修飾(化学合成により、化学構造の一部を変えたりすること)や界面活性剤を添加するなどして製剤化にくふうを凝らし、水溶性とすることが行われている。ビタミン剤はもともとその欠乏症の治療に使用されるものであるが、ビタミンB1誘導体の大量投与が神経痛などの治療にも用いられ、また酪酸リボフラビンがビタミンB2欠乏症のほかにも脂質異常症の治療に有効なことなど、新たな薬効が発見され、適応が広がってきた。なお、健康食品としてもよく用いられる。
ビタミン剤には個々のビタミン製剤のほか、混合ビタミン剤や総合ビタミン剤があり、医療用医薬品、一般用医薬品、健康食品(保健機能食品、栄養機能食品)として市販されている。各ビタミン単独製剤にはビタミンA、B1、B2、B6、Cなど、混合ビタミン剤にはビタミンB2とB6、B1とB6とB12を混合したもの、さらにB2を加えたもの、ビタミンCとパントテン酸カルシウムを混合したものなどがあり、複合ビタミン剤ともいわれる。総合ビタミン剤は必須(ひっす)の各種ビタミンを配合したもので、内服用は一般用医薬品が多く、注射用では静脈栄養を目的とした高カロリー輸液に配合されて繁用されている。マルチビタミンともいわれる。
また、これらのビタミン剤にアミノ酸、無機質、ホルモン、乳酸菌などを配合して効果を増強させたものもある。なお、ビタミン剤には含まれないが、胃腸薬などまったく別の製剤に加えて主薬の効力を増強させたり、副作用の軽減を図るビタミンをはじめ、パン、みそ、ジュース、乳製品などの食品に添加するビタミン強化剤もある。
以下、おもなビタミン剤について述べる。
[幸保文治]
ビタミンA剤
肝油をはじめ、ビタミンA油、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールがあり、いずれもビタミンA欠乏症(夜盲症、結膜乾燥症、角膜乾燥症など)の予防と治療、食事によるビタミンA摂取が不十分になりやすい妊産婦、授乳婦、乳幼児などに対する補給として用いられる。なお、肝油にはビタミンDも含まれている。
[幸保文治]
ビタミンB1剤
チアミン(ビタミンB1)をはじめ、コカルボキシラーゼおよび臨床に使われるビタミンB1誘導体を含み、ビタミンB1欠乏症のほか、激しい肉体労働後や妊産婦などビタミンB1需要の増大時、神経痛や関節痛などの治療に繁用されている。ビタミンB1は抗神経炎ビタミンともいわれ、塩酸チアミン、硝酸チアミンの形で製剤化されたが、1952年ニンニクとビタミンB1との併用による効果からアリチアミンが発見され、チアミンの欠点である腸管でのビタミンB1分解酵素であるアノイリナーゼ(チアミナーゼ)による分解を防ぎ、吸収をよくしたこれらビタミンB1誘導体の活発な開発が行われ、いわゆる活性ビタミンB1として新しいB1時代が開かれた。一方、ビタミンB1の生体内活性物質であるコカルボキシラーゼも製剤化された。
なお、ビタミンB1誘導体には塩酸ジセチアミン、オクトチアミン、チアミンジスルフィド、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、フルスルチアミン、ベンフォチアミン、コカルボキシラーゼなどがある。このうち、コカルボキシラーゼは注射剤でのみ使われるが、そのほかは内服剤として錠剤や散剤、そして注射剤も市販されている。
[幸保文治]
B1を除くビタミンB剤
ビタミンB2・B6・B12のほか、ニコチン酸、パントテン酸、チオクト酸(リポ酸)、オロット酸(水溶性のビタミン様物質。ビタミンとして認められてはいないがビタミンB13とも)、ビオチン、葉酸など、ビタミンB1以外のいわゆるビタミンB群が含まれる。これらをその目的で大別すると、(1)成長促進の目的で用いられるビタミンB2(リボフラビン)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、オロット酸、(2)抗皮膚炎の目的で用いられるビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸、ビオチン(ビタミンH)、(3)抗悪性貧血の目的で用いられる葉酸、ビタミンB12、(4)肝保護の目的で用いられるチオクト酸、パンガミン酸(ビタミンB15。細胞呼吸を促進する)、イノシトールなどである。これらの多くは微生物の発育促進因子であり、それぞれ微生物学的研究によって発見された。
ビタミンB2製剤にはリボフラビン、リン酸リボフラビン、FAD、酪酸リボフラビンがあり、適応症は口角炎、口唇炎、舌炎、肛門(こうもん)周囲および陰部びらん、急性・慢性湿疹(しっしん)、ペラグラ、尋常性痤瘡(ざそう)(にきび)、日光皮膚炎、結膜炎、びらん性表層角膜炎などである。
なお、パントテン酸の前駆体であるパンテノールは生体内で容易にパントテン酸になり、パントテン酸欠乏症のほか、高コレステロール血症、ストレプトマイシンやカナマイシンの副作用に対する予防と治療、急性・慢性湿疹に有効である。
ビタミンB6製剤には塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、リン酸ピリドキサミンの3種があり、適応症にはビタミンB6欠乏症の予防と治療のほか、イソニアジドによる副作用防止、口角炎、口唇炎、舌炎、口内炎、急性・慢性湿疹、脂漏性湿疹、接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎などに適用される。
ビタミンB12製剤にはシアノコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、コバマミド、メコバラミンの4種があり、ビタミンB12欠乏症の予防と治療、悪性貧血に有効である。なお、メコバラミンは補酵素型で、生体内貯留もよく、ビタミンB12欠乏による巨赤芽球性貧血に適応とされる。
なお、葉酸は葉酸欠乏症のほか、悪性貧血の補助療法、再生不良性貧血、顆粒(かりゅう)球減少症などに有効であり、ビオチンは急性・慢性湿疹、接触性皮膚炎、尋常性痤瘡などに適応とされる。
[幸保文治]
ビタミンC剤
局方名アスコルビン酸で、抗壊血病ビタミンであり、ビタミンC欠乏症の予防と治療をはじめ、毛細管出血、薬物中毒、副腎(ふくじん)皮質機能障害、炎症後の色素沈着、光線過敏性皮膚炎などのほか、かぜ薬に配合されたり、大量投与の効果が話題となった。
[幸保文治]
ビタミンD剤
エルゴカルシフェロール(カルシフェロール、ビタミンD2)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、カルシトリオール、アルファカルシドール、ファレカルシトリオール、マキサカルシトールがある。ビタミンD2とビタミンD3は天然に存在し、魚肝油中に多く含まれている。製剤には化学合成品が用いられ、ビタミンD欠乏症(くる病、骨軟化症など)の予防と治療、食事による摂取不十分なときの補給に用いられる。ビタミンD2およびビタミンD3は肝臓および腎臓において代謝され活性化して作用する。カルシトリオールは活性型ビタミンD3で、そのプロドラッグがアルファカルシドール、さらにカルシトリオールに化学的修飾を施したのがファレカルシトリオールとマキサカルシトールである。カルシトリオールとアルファカルシドールは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)および慢性腎不全、副甲状腺(こうじょうせん)機能低下症、くる病・骨軟化症におけるビタミンD代謝異常に伴う諸症状(低カルシウム血症、しびれ、筋力低下、骨痛など)の改善に用いられ、ファレカルシトリオールは維持透析下の二次性甲状腺機能亢進(こうしん)症にも適応をもつものであり、マキサカルシトールは二次性副甲状腺機能亢進症のみを効能・効果として、透析回路静脈側に注入する。また、未熟児のビタミンD代謝異常には唯一アルファカルシドール液が用いられる。重大な副作用の一つに高カルシウム血症がある。
[幸保文治]
ビタミンE剤
酢酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールがあり、油状のため軟カプセルに入れた製剤が多く、健康食品としてもよく使われている。ビタミンEは抗不妊ビタミンといわれ、脂溶性で動物の生殖、繁殖、胎児の発育に関係する。その作用は、老化の指標である過酸化脂質の増加を予防することから老化防止に、また動脈硬化の予防にも役だつとされている。適応症としてはビタミンE欠乏症のほか、末梢(まっしょう)循環障害、動脈硬化症、凍瘡、脂質異常症などがある。
[幸保文治]
ビタミンK剤
フィトナジオン(K1)とメナテトレン(K2)があり、K2は注射剤のみが使われる。ビタミンKにはK1・K2・K3・K4があり、K1とK2は天然より、K3とK4は合成によって得られた。従来はK3がよく用いられたが、現在ではK1とK2も合成が可能となり、これらにかわってしまった。なお、ビタミンKは抗出血性ビタミンといわれ、止血剤として出血および低プロトロンビン血症に用いられる。また、ビタミンKは腸管での常在細菌によってつくられるが、抗生物質の経口投与でこれらの細菌が減少すると生産が少なくなり、出血傾向がみられる。この抗生物質の副作用としておこるビタミンK欠乏症には、フィトナジオンが用いられる。
[幸保文治]
『川崎近太郎著『ビタミン』(1967・岩波書店)』▽『日本ビタミン学会編『ビタミンハンドブック1 脂溶性ビタミン』『ビタミンハンドブック2 水溶性ビタミン』(1989・化学同人)』▽『田村豊幸著『新版 ビタミン・カルシウムでここまで治る――カゼからガン予防説まで病気別活用法』(1991・健友館)』▽『安田和人著『ビタミンの摂り方がわかれば万病に克てる!』(1996・成美堂出版)』▽『八木原陽一著『誰も書かなかったビタミンの秘密』(1998・技術評論社)』▽『五十嵐脩監修『ビタミン・ミネラルBOOK――ストレス解消!体に効く!』(1999・新星出版社)』▽『五十嵐脩著『わかりやすいからだとビタミンの知識』(2000・オーム社)』▽『ハンス・ウルリッヒ・グリム他著、佐々木建監訳、花房恵子訳『ビタミンショック――暴かれた害と効用』(2003・家の光協会)』