ピロリン(燐)酸(読み)ピロりんさん(英語表記)pyrophosphoric acid

改訂新版 世界大百科事典 「ピロリン(燐)酸」の意味・わかりやすい解説

ピロリン(燐)酸 (ピロりんさん)
pyrophosphoric acid

化学式H4P2O7二リン酸diphosphoric acidともいう。オルトリン酸H3PO4が脱水縮合してできる四塩基酸である。オルトリン酸(85%)を減圧下,約180℃で加熱脱水するか,計算量の五酸化二リンを加えてつくる。

 4H3PO4+P2O5─→3H4P2O7

無色の針状晶またはガラス状の塊。通常の固体はⅠ型(融点54.3℃)で,これを封管中で約50℃に熱するとⅡ型(融点71.5℃)に転移する。融点以上では分解してオルト,ピロ,メタなどの各種のリン酸などを含む液状酸となる。水,エチルアルコールエーテルに易溶。冷水溶液は安定である。熱すると速やかにオルトリン酸となる。P2O74⁻は二つのPO43⁻が一つの酸素原子を共有してつながった構造である。

 多くのピロリン酸塩が知られており,アルカリ金属およびタリウム(Ⅰ)塩は水に可溶,その他は難溶性である。Zn,Cd,Al,Co,Feなどの金属塩は,水溶液中で過剰のピロリン酸イオンが存在すると錯体を形成して可溶となる。ピロリン酸塩は,食品添加剤,有機合成化学におけるオレフィンの重合剤等の用途がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピロリン(燐)酸」の意味・わかりやすい解説

ピロリン酸
ぴろりんさん
pyrophosphoric acid

ポリリン酸一種で、2分子のオルトリン酸から1分子の水が脱水してできた四塩基酸。正しくは二リン酸といい、ピロリン酸は古い名称である。古くは焦性リン酸ともよんだ。化学式H4P2O7、式量178.0。市販の85%リン酸を減圧下で約180℃に加熱脱水するか、85%リン酸に計算量の五酸化二リンを溶かして結晶化させる。オルトリン酸と塩化ホスホリルを反応させても得られる。

  5H3PO4+POCl3→3H4P2O7+3HCl
 吸湿性の無色の針状結晶ないしガラス状固体。通常の結晶はⅠ型(融点54.3℃)で、これを封管中約50℃で熱するとⅡ型(融点71.5℃)に転移する。Ⅱ型は室温で安定。水に易溶。溶解度は水709g/100g(20℃)。融点以上に熱すると分解して、オルトリン酸、二リン酸、ポリリン酸などを含む液状酸となる。水溶液は徐々に分解してオルトリン酸に変わるが、熱すると速くなり、硝酸を加えるとさらに速くなる。アルコール、エーテルにも溶ける。硝酸銀により白色沈殿を生じる。油脂類の乳化・分散力に優れ、過酸化物の分解を抑制する作用があるので、洗剤、水処理、触媒、食品加工、過酸化物安定剤などの用途がある。

[守永健一・中原勝儼]

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栄養・生化学辞典 「ピロリン(燐)酸」の解説

ピロリン酸

 H4P2O7 (mw177.97).

 生体内の物質にエステル型でみられる.これらは高エネルギーリン酸結合である場合もある.

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化学辞典 第2版 「ピロリン(燐)酸」の解説

ピロリン酸(塩)
ピロリンサンエン
pyrophosphoric acid(pyrophosphate)

二リン酸(塩)H4P2O7の慣用名.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピロリン(燐)酸」の意味・わかりやすい解説

ピロリン酸
ピロリンさん

リン酸」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のピロリン(燐)酸の言及

【アデニル酸シクラーゼ】より

…細胞膜上に存在し,細胞の多くの生理機能を制御するのに重要な役割を果たしている酵素。基質ATPから環状AMP(cAMP)とピロリン酸の生成反応を触媒し(ATP→cAMP+ピロリン酸),細胞内cAMPの濃度を調節する。アデニル酸シクラーゼは,外部のさまざまな刺激因子により活性化(または不活性化)される。…

※「ピロリン(燐)酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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